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011:1キロ

二階の一室でラウムは水魔法を使ってギンの汚れた身体を洗い流しているようだ。

流石にレディが身体を洗っている場面をのぞき込むのは失礼に当たる。

個室の前で立ち止まってラウムに呼びかけた。


「ラウム、着換えの服持ってきたぞ。それとタオルも持ってきた」

「ありがとう。個室の入り口に置いておいてくれるかしら?」

「おう、ギンの様子はどうだ?」

「だいぶ落ち着いているわよ。それに今綺麗にしているからしばらく待ってもらえるかしら?」

「あいよ、こっちも綺麗にしておくよ」


ラウムがギンを洗っている間に、俺は他に魔石が無いか調べることにした。

建物の中で殺したゴブリンの体内にあった魔石は既に回収済みだ。

ゴブリンの体内に入っていた魔石は小さい。

モンスターの心臓に寄生する形で魔石は存在する。

これによって、モンスターは強力で時には魔法のような攻撃を使うことができる。

つくづく不思議な鉱石だ。

魔法世界側の住民や、グール化した人間には出来ないことから、魔石の発生条件などもダンジョンの大樹によって産み出されている結晶が蓄積して出来上がるのではないか?という仮説が立てられている。


それに科学文明では工業製品や医薬品で使われる重要資源として、魔法世界では魔法を産み出すポーションとして使われている。

このことから需要が高いのも頷ける。

だが、ゴブリンに入っていた魔石の量はそこまで多くはない。

せいぜい10グラム程度といったところだろうか……。

モンスターは心臓近くに魔石を宿す。

頭をぶち抜いたのも、魔石に傷がついて効力を減らすことがないようにするための措置というわけだ。

完全に砕けることは対戦車砲でも撃たない限りないが、魔石の効力を発揮するためにはなるべく無傷で回収するべき仕事だ。


「ゴブリン連中が魔石を集めているわけではないだろうしな……地球に元々生息していた野生動物とか、グールとか魔法世界側の住民が魔石を体内に宿すことはないし、モンスターとダンジョンに生えている大樹の内部だけに生成される鉱石なのが不思議だよ……」


モンスターか、もしくはダンジョンを形成している大樹内部の奥深くにある鉱脈を掘りあてるしかない。

ダンジョンの大樹から分泌される水脈などを伝ってモンスターが摂取することで蓄積される。

モンスターは動く資源というわけだ。

それも、科学文明も魔法文明も双方にとって必要な資源。

命の危険を冒してでも手に取ることが最重要。

回収屋に属している連中は車の燃料代や銃火器の弾薬を差し引いた金額に基づいて生計を立てている。

組合側ではガソリンも銃弾も経費で落ちるそうだが、ソロで活動するとなればそうはいかない。


例を挙げるとすればガソリンだ。

車を動かす燃料でもあるガソリンは、大融合事変後に新潟から湧き出ているとはいえ、ガソリン代は融合事変前と比べて十倍以上の値段で取引されている。

旧長野県は元々ガソリン価格が高い地域だ。

レギュラー価格が大体180円前後だったのが、今では1リットルあたり2千円で取引されている。

俺の車の燃料タンクの容量が40Lなので、満杯にするだけで8万円相当の金額を支払う必要がある。


燃料代だけでこれだけ掛かる。

そして弾薬代もそれ相応に掛かる。

一回の回収で消費される弾薬などを見積もれば、10万円ぐらいは使う。

アメリカみたいに銃社会であれば武器屋も必然的に多かったかもしれないが、日本では鉄砲店なども限られた場所にしかない上に、弾薬のコストも高い。

故にアクション映画みたいに派手にバンバン撃てるわけじゃない。

確実に狙いを定めて撃てる時にしか撃てない武器なのだ。


これでも銃弾の価格は大融合事変前に比べて値下がりしたが、拳銃の弾は一発100円、M1AJで使われているNATO規格の7.62mm弾は一発300円だ。

一回銃弾を全て撃ち尽くすたびに1000円、2000円は軽く消し飛んでいく。

装甲車などに使われている機関銃になれば一回の掃射で6万円は飛んでいく。

魔石回収屋は儲けも出るが、その分支出も大きいし危険も孕んでいるので大変というわけだ。


(ソロの回収屋にとって魔石回収で儲けがいい反面、危険や消耗品代でかなりの金額が消し飛んでいくからな……モンスターが狩れないと金にならない仕事だけに、組合ギルドに加盟してやっている連中のほうが羽振りがいいのも大元に金が集まるからな……)


真田隊が上田地域を中心に幅を利かせているのも、そこら辺の企業より利益を上げているからだ。

魔石回収で企業や王国派の地域に売るだけで、一回で数百万、運が良ければ数千万以上の金額で取引される。そこから隊員が使った燃料代や弾薬代、隊員が受け取る報酬を差し引いても手数料で三割入るため、数が多ければ金額も大きいというわけだ。

これを一か月にやるだけで億単位の金が動くことになる。

おまけに国から公認を受けた回収組合で機関銃や装甲車などの軍用装備で固められた集団になると、ヤクザだってそう簡単に手だしなんてできない。


「……これをあと100体狩らなきゃならんのか……」


回収屋としての仕事としては数を多く集めること。

そしてサクマ村長が要求している量は1キロ前後。

つまり、先ほど撃ち殺した他のゴブリンを足しても数には届かない。

大体100グラムあればいい方だ。

つまるところ、ゴブリンならあと90体以上狩る必要が出てくるというわけだ。

ようやく洗い終えたのか、ラウムが出てきた。


「アリアケちゃん、ギンちゃんの着替え終わったわ」

「おう、問題なさそうで良かったな」


きれいさっぱりしたギンが目の前に現れた。

ぴょこぴょこと耳を反応させている。

うん、可愛いな。

ケモ耳種族に萌えるオタクなら大興奮しそうな感じになっている。

先ほどよりも身体の汚れを落としたこともあってか、綺麗になっている。

この食堂の従業員用の服を着ていることもギャップが大きくなる。

オレンジ色で黒字で『こんろ食堂』と書かれており、一見すれば店の従業員に見えなくもない。

ズボンもしっかりとした服に仕上がっている。


「あの……アリアケさん、ラウムさん、改めてありがとうございます……」

「ああ、礼ならこの店の店主に言ってくれ。制服用意してくれていたから助かったよ」

「これでギンちゃんも助かったし、問題ないわね」

「あの……アリアケさん、ちょっといいですか?」

「ん?どうかしたか?」

「その……これから私、しばらく一緒にいてもいいですか?」

「うん……?一緒に魔石回収するってことか?」

「はい」


俺は元々ギンを連れて一旦熊野平村に戻る事を想定していたが、ギンから一緒にいたいと申し出があった。魔石回収の役割があるのでそう簡単に人数を増やしていいわけじゃないのだが、ラウムからギンに乗っかる形で提案をしてきたのだ。


「ギンちゃんから聞いたんだけど、この子……魔石やモンスターを嗅覚と聴覚で相手の場所が分かるみたいよ」

「……本当か?」

「はい、元々私を含めた狐人族は帝国で保護されていた種族で、魔石やモンスターの臭いをかぎ分けることが出来るのです……感覚が先鋭化していると言われているのですが、詳しく知っていた長老が連邦の攻撃で死んでしまって……すみません……」

「いや、謝ることじゃないさ。助けたお礼に回収を手伝いたいという事だろう?」

「はい、アリアケさんやラウムさんのお役に立ちたいのです。お願いします」


頭まで下げられるとなると、これは無碍に断ることも出来んな……。

チラリと横目でラウムを見ると、頷いていたので断ることはしないほうがよさそうだな。

安全面などを考えて俺かラウムから離れないことを条件に一緒に魔石回収を担う事を承諾した。


「分かった。ギンの懇意を無視するわけにはいかないからな……魔石回収を承諾しよう」

「!!!ありがとうございます!!!」

「ただし、俺とラウム、どちらかにいることが条件だ。分かったな?」

「はいっ!」

「よろしい。それじゃあ彼女たちを綺麗にしてから出発しよう」

「彼女たちって……ここで倒れている人達の事?」

「ああ、このまま野ざらしにするのは気の毒だ。せめて火葬させてあげようよ」


出発する前に、ゴブリンたちによって乱暴されて犠牲になった人達を弔うことにした。

このまま遺体を放置させてしまうのは心情的にも悪いし、亡くなった人達がせめて火葬でもいいので成仏させることが救いにもなるのだ。

ラウムの浮遊魔法によって遺体を浮かせて一か所に集めてから、火炎魔法によって遺体を焼却することにした。


せめてもの弔いとして、うろ覚えのお経を唱えて「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」と念じて彼女たちの最期を見届ける。

自己満足かもしれないが、これをするだけでも後味は悪くないはずだ。


ギンを仲間に入れて出発することになった。

途中で倒したゴブリンたちから魔石を回収して袋に詰め込む。

目標まで残り930グラム、まだまだ先は長そうだ……。

車に乗り込んでから、俺はアクセルを吹かして出発した。

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