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院長先生仕込みの治療費ギャンブルで

「院長先生の紹介でお手伝いに来ました。この街の事を知るならこちらで働くのが一番良いと聞きまして、お手伝いしながらこの街の事を知れたらなと思います。よろしくお願いします!」


 私が今いるのは警察署。どうして救急隊でお手伝いをしていたのに、警察でアルバイトをすることになったのかというと数時間前。警察とギャングの銀行前抗争の後まで遡る。


◆◇◆◇◆


「どうやら決着がついたようですね。やっぱりという結果ですけど。」


 院長先生のその言葉に、山田さんとボスさんの一騎打ちに目を戻す。

 殴り合いのはずなのにボスさんは綺麗なままで、山田さんはボッコボコ。一騎打ちというよりは殴られ屋って言葉が浮かんでくる。


「私は署長さんと少しお話することがあるので、あなたに山田さんの治療をお願いしてもいいですか?おそらく打撲だけだと思いますが、治療の手順は先ほど車の中でお話した通りですので、問題なくできると思います。」


 確かに教えてもらいましたけど、本当に署長さんとお話することがあるんですか?取り締まりの厳しい山田さんが苦手とかじゃないんですか?私に押し付けたわけじゃないんですよね?


「もしかして緊張してます?誰しも初めてはありますから大丈夫ですよ。」


 山田さんは意外とチョロいので多少ミスしてもどうにかなりますよ。って言われても、院長先生の言葉の信用は非常に低いですからね?それに、緊張というよりは院長先生が仕事をサボっているだけなんじゃないかって疑ってるんですから。さっさと署長さんと離れているので余計に怪しんですが、しょうがないですね。


「初めまして山田さん。今回救急隊のお手伝いとして来ました。病院内で治療するなら40万になりますがここで治しますか?病院に移動しますか?」


「手伝い?新人ってこと?本当に治せんのか?なんか信用できないんだけど。」


 確かにお手伝いでここに来ましたけど、院長先生に治療方法はしっかりと教えていただいたので安心してほしいです。が、私の事が信用できないならしょうがないですね。


「私に治療されるのが嫌でしたら院長先生にお任せすることになりますね。他の先生方は外出中ですのでこの場には私と院長先生しか来ていませんし、院長先生をお呼びしますね。」


 山田さんにそう言って院長先生を探す。まだ遠くまで行ってないようです。


「ちょちょちょっと待て!!院長だけは嫌だ!治療はお前で頼む!奴だけは嫌なんだ!それと、ここにいたら院長の奴がいつ来るか分からない!警察署に行ってから治療してくれ!」


「院外治療は80万になります。それでよろしいですか?」


「もちろんだ!院長が来ないうちに早く行くぞ!」


 副署長に警察まで運んでもらうから呼んできてくれ!と言われたので、まだゲラっていた副署長さんまで伝えに行く。それにしても、ボスさんに一方的にぼこぼこにされていたとはいえ、警察の山田さんにここまで怯えられる院長って本当に何者なんでしょうか。署長さんはギャンブル関係で嫌ってましたけど、山田さんは何なんでしょう?もしかして医療費ギャンブルやっちゃったんでしょうか?


「山田さんから警察署内での治療を頼まれまして、副署長さんに運んでもらいたいとのことです。お願いできますか?」


「あっはははは!ふぅー。失礼、あの時お嬢さん。救急隊に入ったのか?院長先生に任せたあと気になってはいたんだが、色々忙しくてな。こうして救急隊の仕事してるってことは問題なかったってことだな。良かった。」


 山田の運搬は任せろ。そう言って倒れている山田さんを軽く持ち上げ、パトカーに乗せて走って行った。急いで向かわないと、短い付き合いですが山田さんは口が悪そうですから何言われるか。


「お話し中失礼します。院長先生。私は警察署に運ばれた山田さんを治療しに行きます。」


「失礼。山田さんはこの場での治療を拒否したんですか?この場でも警察署でも院外治療なら80万で変わらないんですけどね。院内治療になる病院ならまだしも。ボスさんに情けない姿を見せ続けていたくないとかそんな感じなんでしょうかね?」


 その姿にしたのボスさんなんですけどね。って言ってますけど、あなたの事が嫌だから警察署に移ったんですって言ったらどんな反応するんでしょうか?何をしたらそんなに嫌われるのか気なるんですけど。


「警察署までの出張治療了解しました。院外治療80万の回収お願いしますね。治療費ギャンブルを仕掛けてもいいですけど。」


「しませんよ。院長先生じゃないんですから。ちゃんと治療して正当な報酬を受け取りますから。それより院長先生は行かないんですか?」


「私はカジノで遊んでる他の先生方を回収してきますよ。大きな抗争が終わったとはいえ、この後に治療が必要な出来事が怒らないとは限りませんから。それに、あれだけ連絡だけは忘れずにと言っておいたのに、今回誰からも連絡がありませんでしたから。どれだけカジノで大儲けしてるのか、私も混ざりに……いえ、注意しに行かないといけませんから。」


 さっきカジノに行って怒られたのにまたカジノに行くんですか。院長先生も懲りないですね。


「院長先生カジノもほどほどにしないとまた他の先生に怒られますよ?救急隊ボイコットされても知りませんからね。警察署に山田さん治療しに行ってきまーす。」


 他の先生方を理由にカジノに行くことを決めたみたいですけど、本当にカジノ大好きですねー。それで怒られたのに、また行くって、怒られに行くようなものじゃないですか。他人事なので別にいいですけど。


「っあ。てっきり院長先生も一緒に行くかと思って、警察署の場所聞き忘れた。誰か知ってる人はいませんかね。もう結構話し込んじゃってるので、早く行かないと山田さんに何言われるか分かりませんからね。」


 急いで周りを見回し、誰か警察署を知ってる人がいないか探してみる。院長先生はいつの間にか姿を消していて、あれだけいたコスプレみたいな制服を着ていた警察も既に帰還した後か。ギャングの人はいますけど、知り合いはボスさんだけ。そのボスさんに、警察署の場所教えてくださいなんて聞けないし。


「おっ、お前まだいたのか。院長の奴はどこ行ったんだ?まさか置いてかれたのか?」


「署長さん!置いて行かれたのは事実なんですけど、院長先生は他の先生方を迎えに行きました。私は警察署で待っている山田さんを治療しに行きたいんですが、てっきり院長先生も一緒に行くと思ってたので、警察署の場所を聞き忘れてしまって、困ってたところです。」


「それなら私が乗せて行こう。私の部下の治療だしな。それにしても院長の奴、まさか自分で連れてきたやつを置いていくとは。一体何を考えているんだ。」


 そんな恰好を制服にしてるのになんて常識的なんだ。山田さんの一騎打ちでちょっとやばい人だと思ってたけど、一番常識的な人なのかもしれない。


「とりあえず乗っていけ。署に着くまでにお前の事情も聞きたいし。来生にもちょっと聞いたんだが、あ、来生って言うのは副署長の獅神来生な?あいつに聞いたんだが、記憶喪失なんだって?気づいたらこの街にいたって話だが、本当か?」


 署長さんが運転する車の中で尋問にようなことを受ける。


「そうなんです。横断歩道を渡って、気づいたら副署長さんに会ったあの場所にいたんです。どうしてそこに居たのか何も覚えてないんです。」


「そのあとは院長に診察を受け、脳に刺激を与えるためにいろいろ連れまわされたと。カジノでギャンブルしたり、抗争現場に来たり、人を助けるために行動したり、脳に刺激はいったと思うが何か思い出すことはあったのか?」


「それが何も思い出せなくて。」


 思い出すも何も、ここに飛ばされたのが最有力候補なんですけどね。誰に何のために飛ばされたのかは分からないけど。


「それじゃあ、逆に忘れたことはあるか?急に刺激を与えすぎて、記憶喪失がひどくなってるかもしれない。あの院長の事だし、最初の一回くらいしか問診してないんだろ?」


 実は署長さんと院長先生って仲いいんですか?最初以降問診受けてないの当たりですよ。


「忘れたことですか?ここに来る前の事はだいたい覚えていると思いますけど。」


「それじゃあここに来る前の状況とか教えてくれるか?」


「ここに来る前と言われても、Vtuberのライブの日だったんですけど、楽しみ過ぎて前日眠るのが遅くなってしまって寝坊しちゃったんですね。なので、ちょっと焦りながら、横断歩道を渡ったらいきなりあそこに居たって感じです。もちろん、渡ってた時の信号は青ですし、トラックに轢かれるなんてこともないですよ?」


「何でトラックに轢かれたかどうかを重要視してるのか知らないが、そのVtuberとやらの名前とか言えるか?あるいは、その日の朝飯の内容とか。」


 いきなり別の場所にいる時は、トラックに轢かれたかどうかって重要なんですよ。私の常識では。トラック転生なんて言葉もあるんですから。しかし、私は轢かれた記憶は無い。なので、転生ではないと思うんですよね。この街で育った記憶もないですし。


「朝ごはんですか?さっきも言いましたけど、その日は寝坊しちゃって急いでたので食べれてないんですよね。Vtuberの名前は………あれ?出てきませんね。」


 私が受験期を乗り越えるために元気をもらった最推しなのに。初のワンマンライブでチケット当たって眠れなくなるほど楽しみにしていた推しの名前が。


「人の名前が出てこないのか。ここに来たばかりの頃も言えなかったのか?それとも、ここで過ごした影響で出なくなったのか?」


「ここに来たばかりの時は、推しの名前は?なんて聞かれませんでしたので、署長さんに聞かれて初めて出てこないことに気づきました。」


「お前の記憶喪失はここに来るまでの間の事と、ここに来る前の人の名前か。自分の名前は言えるんだよな?」


「それは問題ないです。私の名前は不知火アンノ。22歳。自分の事はしっかりと覚えています。」


「ここに来るまでの事以外に何でその推しとやらの記憶がないんだろうな。」


 それは私が知りたいですよ。最推しなのに名前も呼べないなんて…。


「話は変わるんだが、院長の奴に、お前の街案内よろしく頼みますね。って言われたんだが、警察は人員不足なのはさっきの抗争で分かってもらえたと思う。」


「確か、警察とボスさんとこのギャングの人数差があまり無いってことですよね?」


「そうだ。だから、お前の街案内だけに一人つけるという事は、出来ない。犯罪が起きたときに対応が出来なくなるかもしれないからな。」


 ただでさえ人数差があるのに警察が私の街案内の為だけに一人減るのはしのびないですね。


「だから、お前には警察の手伝いをしてもらう。警察に帯同する医務官として、街のパトロールをお願いしたい。院長から治療は一通り習ったんだろう?救急隊兼警察官としてパトロールをしながら、この街の事を知って行ってくれ。」


 救急隊としても仮で所属しただけなのに、警察にも所属することになってしまったけど、問題ないんでしょうか?


「警察のトップである署長の私が許可してるんだ!何も問題はない!」


「院長先生と同じこと言ってます。実は仲いいんじゃないですか?」


「警察相手にギャンブル仕掛けてくる奴と仲良いとか言われたくない!逮捕できないのが悔しいくらいだ!」


「もう言いませんから荒ぶらないでください!まっすぐ走ってください!警察が事故起こしていいんですか!!!」


 何とか署長さんを宥めることに成功し、無事警察署に到着する。


「ここまでありがとうございました。山田さんの治療に行ってきます。」


「山田の治療が終わったら署長室まで来てくれ。パトロールについて詳細を詰めよう。署長室の場所は分からないと思うが山田に連れてきてもらえ。」


 とりあえず山田さんの治療に行きますか。まだ怒ってないといいですけど。


 警察署に入ると、受付が目に入るものの、奥に署員さんたちのデスクも目に入る。仕切りとかないんですね。結構紙束とか置かれてますけど、一般市民が目にしても問題ない書類ですか?

 受付を左に曲がり、仕事中の署員さんに山田さんの居場所を聞こうと思った時、奥から私を呼ぶ声が。


「やっと来たのか!救急隊の新人!俺はこっちだ!早く治療してくれ!」


 いくら警察で市民を守る立場の人でもこの言葉使いはどうかと思いますよ?怪我の理由を目の当たりにした身としては、市民を守る気があったのかと問いたいくらいですし。


「お待たせしましたー。それでは治療をする前におさらいです。今回は院外治療になりますので、80万の請求になります。よろしいですか?」


「分かってる!それでいいから早く治してくれ!」


 …治される立場なんですから敬語とはいかずとも丁寧語は使えないんですかね。あまりに横柄な態度だとこちらにも考えがありますよ?


「今なら治療費ギャンブルもありますよ?なんとダイスの目を当てるだけで治療費がタダになっちゃいます。だけど、外れた場合は四倍の320万の請求です。やりますか?」


「治療費ギャンブルは絶対にやらない!ダイスの目を当てるだけって言って当たらないし、いくら院長に盗られたことか。しかも、外れたときが二倍から四倍に上がってるじゃねぇーか!外れが上がってるなら当たる確率も上がってるんだろうな!」


 文句多い癖に乗り気になってるじゃないですか。なんだかんだでギャンブル好きなんじゃないですか。


「ダイスの目は三つ宣言していいですよ。なので、当たる確率は二分の一ですね。二分の一で治療費がタダになるなんてお得ですね!外れたら320万ですけど、当たれば320万がタダなんですから!もちろんやりますよね?」


「外れが四倍で、当たる確率が三分の一から二分の一?当たる確率三分の二に上げろ!そうしたら考えてやる。」


 騙されませんか。しかし私もあなたがその態度を改めるまで引きませんよ。


「0か320万なのに、まだ文句言うんですか?山田さんの希望で現場から警察署に移動したのに、さらに要求するんですか?0か320万の二択ですよ?二分の一で0になるんですよ?あんまり文句言うなら署長さんにボスさんのあの事言っちゃいますよ?」


 私が知ってる山田さんの事なんて署長さんから聞いたことだけなんですけど。


「な、何を言う気だよ。救急隊の新人が何を知ってるって言うんだ!」


 何も知りませんけど。しいて言うなら山田さんがボスさんに憧れてるという事くらいですけど。ですがその焦り方、何かありますね?


「そんな態度でいいんですか?署長さんだけじゃなく副署長さんにも言っちゃいますよ?救急隊はいろんな人治しますからねー。自然といろいろな情報が集まってくるんですよー。」


 今日が初めての救急隊参加で、もちろん何も情報なんてありませんけど。


「わ、分かった!それでいい!その条件で医療費ギャンブル受けるから、誰にも言わないでくれ!」


 勝った!


「かしこまりましたー。それでは好きな数字三つどうぞー。当たれば0、外れれば320万。慎重に選んでくださいねー。」


 その間に治しちゃいますから。院長先生の言っていたとおり打撲だけですね。これは治療も楽ですね。


「2、4、6の偶数だ!この三つで行く!」


「偶数三つですね。それでは医療費ギャンブルスタートです!」


 山田さんの治療も終わり、山田さんの宣言も済んだのでダイスを回す。


「それでは山田さん。320万の支払いお願いしますね!院長先生にも請求はちゃんとやるように言われてるんで、支払いが済まない場合報告させていただきますので。それと、署長室ってどこですか?」


「あー!負けたー!!!全然勝てねぇよー!イカサマしてんじゃねぇだろうな!ったくよー!ちゃんと支払うから安心しろ!警察が嘘吐くわけにもいかないし。それと署長室はその階段上がってすぐの部屋だ。」


「毎度ありー。また怪我したら治しますねー。それでは。」


 院長先生にさんざん盗られたって言ってたけど、まさか二分の一を外すとは。ただ態度を改めてもらおうと思ったんですけど、そちらは上手く行きませんでしたね。


「お待たせしました、署長さん。山田さんはしっかりと治療しましたよ。」


「すごい叫び声がしたが、まさか、治療費ギャンブルなんてしてないよな?」

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