どこかで見たような街にいたんですが
みんなは気がついたらどことも知らない街中に放り出されてたってことある?
私はあるよ。なんせ今がその状況だからね!!!
「ここは一体どこなんだー!!!!!」
私は不知火アンノ。22歳のギリギリ大学生。
友達に誘われて、初めてのライブに行くはずだったんだけど、遅刻しそうになっちゃって焦ってたのは覚えてる。そのライブって言うのが、高校受験の勉強の息抜きに見始めて、そこからどんどんはまっちゃったVtuberのライブだから、本当に楽しみで、昨日寝るのが遅くなっちゃった。ちょっと前にあった、企業全体の大型箱企画も面白かったから、より楽しみで、早く戻らないとライブが終わっちゃうんだけど…。
「確か、信号待ちしてて、青になってから渡ってー。そこからどうなったんだっけ?渡ってる途中でトラックに轢かれた、なんてこともないから異世界転生とかではないと思うんだけど。」
直前の記憶を思い出そうとしても、こんな都会と田舎の間みたいな、ちょっと廃れているような街並みに来る原因が分からない。
「看板の文字は日本語じゃないし、ここが日本ではないことは確かなんだよね。でも、なんとなくどこかで見たような感じがするんだよねー。」
これがデジャヴっていうものなのかな?でも、実際に私が見たって言うより、何かを通してだったような…。
「お嬢さん。お困りかい?」
どこで見たのか思い出そうと考え込んでいると、胸元にPOLICEと書かれたチョッキを着ているキャップを被った男性が話し掛けてきた。
「えっと…。何か用ですか?」
「何か用ですかって。お嬢さんが困ってるように見えたから声を掛けました。こう見えても警察なんで、困ってる人を放っておくわけにもいかないんでね。」
本当に警察なのか疑っていると、警察手帳も見せてくれた。そこには南署副署長って書かれてた。
副署長さんがキャップ被ってるの?警察って警察帽被ってるイメージだったけど、そういえばここ日本じゃないんだった。
「何かお困りならお話聞きますよ。警察は市民の味方なので。」
恰好が変なだけで、一応信じてもいいのかな?
「えーっと。気づいたらここに居たって言ったら信じますか?」
副署長さんに気づいたらここに居たこと。ここがどこか分からないこと。元の場所に戻りたいことを話した。
「あー。とりあえず病院に行きましょう。見たところ外傷は無さそうですが、見えないところに傷があるかもしれません。記憶に欠損があるという事は頭に衝撃を受けている可能性もあります。病院で見てもらって、何も問題が無いと分かったら、ほかの事を片付けていきましょう。」
副署長さんはそう言うと、無線で誰かと話し始める。
『こちら副署長。街の南西で記憶欠損の女性一名を保護。これから病院に向かいます。どうぞ―。』
『了解です。確認します。もし持っていない、足りない場合は、立て替えになると思いますけど、署長代わりに払ってくれますか?どうぞー。』
『分かりましたー。それじゃあ送ってきます。少しの間対応できないので、ほかの方対応お願いします。』
無線での話し合いが終わって見ていた私と目が合う。
「あなたをこれから病院に連れて行きますが、お金って持ってます?病院での院内治療は40万ほどかかるんですけど。」
病院に行く意味は説明してもらったけど、40万は高い。ライブに行く予定だったから、物販買うためにお金はおろしてたけど。
「10万ほどしかないんですけど。」
実際にお金を見せながら無いことを伝える。
「10万じゃ足りないねー。それにそれはお金なの?あー、元の場所のお金か。それはここじゃ使えないから、仕舞っておきな。」
立て替えておくね。と言いながら車に乗るように言われる。
病院で頭の検査ならレントゲンとかMRIとか使うかもしれないし、高くなるよなって思うけど、40万はさすがに高すぎるでしょ!
「病院で40万って高くないですか?保険使って3割負担なんですよね。それで40万だと、大本が130万くらいってことですよ!」
「保険?この街にそんなものないよ。病院内で治療すれば40万。病院外なら倍の80万。誰もが一律で請求される。身分によって金額変わることもなければ、お金の有無によって変わることもない。病院はこの街で一番中立の存在なんだ。」
勝手に保険があると思ってたけど、日本じゃないことをすぐに忘れちゃう。保険が無くて一律40万は…高いのか安いのか分からないな。医療関係者じゃないし、分からなくて当然っちゃ当然だけど。
『…了解。急いで病院に連れて行き院長先生に説明した後、向かいます。』
無線で何か来たみたいで、ちょっと焦ってるみたい。
「どうやら事件が発生したみたいでね。病院に着いたら、院長先生に説明して事件現場に向かう事になった。君の知りたいことは院長先生に教えてもらえるように引継ぎしておくよ。」
事件現場に行くわけではないのにパトランプにサイレンを鳴らして道路を爆走する。
いいのか警察。病院の後に行くとは言え、次に行くのはまだ事件現場じゃないんだけど。
「あ、そうだ。何をするにしてもお金は必要だから、この街で職を探すことになると思うけど、紫のパーカーを来ている人たちとは関わらないように。奴らはギャングだから、悪さしてるの見つけたら逮捕だから。せっかく知り合った人と次に会うのが牢獄とかは嫌だからね。」
この街ギャングとかいるの!?治安終わりすぎじゃない?
「それとカジノにも気を付けるように。うちの署員にもギャンブル依存気味な奴がいるけど、更生するか怪しくてな。熱心にギャンブルをやめさせようとしてるやつもいるみたいだが、苦戦してるらしい。カジノに行くなとは言わないが、適度に楽しむように。破産したら終わりだからな。」
ここってカジノもあるんだ。日本にあるのは競馬、競輪、競艇にパチンコ、スロットとかだけど、嵌ると抜け出せないって良く聞くから近づかないようにしてたんだ。そのおかげで、ライブとか物販用のお金が溜まったんだけどね!はぁー…ライブ。
「到着っと。ここがこの街唯一の病院だ。場所を覚えておくといい。それじゃあ中に入ろう。」
副署長さんについて行き病院に入る。
「先生!先生ー!院長先生ー!先ほど連絡した記憶喪失の急患です!どこにいますかー!」
病院に入ったとたん大声を出す副署長さんに驚きを隠せない。
病院って静かに、騒いじゃいけない場所だと思うんですけど!この街だと違うんですか!!
「どうもどうも院長先生ですよー。っと、これはこれは副署長さんじゃないですか。少し奥でちょっとした事件がありましてね。それでー?こんな時に病院に何用で。他の警察さんは事件で忙しいみたいですけど。」
両手を広げながら、大仰な態度で奥から現れたのはお面を被った不審者?
「院長先生。先ほど連絡した記憶喪失だと思われる急患を連れてきたんですよ。彼女をお願いしてもいいですか?」
「これはこれは可愛らしいお嬢さんじゃないですか。この副署長さん無愛想で怖かったでしょう?普段はお茶らけた人なんですけど、初対面の人には緊張するのか表情が強張るんですよ。」
院長先生と副署長さんって仲悪かったりするのかな?言葉の端端に棘が見えますよ。
「そういうのはいいから!んんっ。彼女は突然この街にいて、どうやってここに来たのか覚えていないらしい。記憶に欠損があるのは記憶喪失だろう?頭もそうだが、ほかにも怪我がないか見て欲しい。」
「怪我はちゃんと見ますが、突然この街に居たというのは本当ですか?覚えてる限りでいいので、最後に何をしていたのか聞いても?」
副署長さんに説明したもの同じ話を院長先生にも話す。
「それじゃあ俺は現場に行くから。院長先生、その子をお願いしますよ!請求はうちの署長にお願いします!それじゃあ、君も気をつけてな。」
慌ただしく病院を出て行っちゃった。あ、お礼言えてないや。今度会ったらお礼言わないと。
「話を聞く限り誘拐が一番可能性高いんですけどねー。とりあえず検査しましょうか。記憶となると、怪我よりも病気かもしれませんので、しっかりとやりましょう!全部署長さんが持ってくれるらしいので、隅々まで検査しましょうね!」
テンション爆上げの院長先生に言われるがままベッドに横になる。
「まずは外傷から見ていきますねー。…ふむ。どうやら、出血、骨折、打撲など外傷は見当たりませんね。ちょっとストレスが溜まってそうなので、たばこをお勧めしておきますね。」
隅々までの検査とは!?レントゲンは!?MRIは!?ただベットで横になって終わったんですけど!しかも出されたのが薬じゃなくたばこって、ここ本当に病院か!
「記憶の欠損ですが、ここに来るまでのみを忘れてるという事なので、精神的なものじゃないですかね。時間経過だったり刺激を与えてみることで、思い出すこともあると思います。なので早速脳に刺激を与えに行きましょう!」
病院で出来ることが無いのは分かったけど、そういう時って安静にって言うんじゃないの!
「一体どこに連れて行くつもりですか!」
手を引かれ救急車両に連れ込まれる。
『院長これから大事な用が出来ましたので、救急に対応できません。なので、みなさんで対応しておいてください。警察が事件対応してますので、これからお呼びが掛かると思いますが、入っていくときは救急隊であることの明示を忘れないように!それでは。』
無線で一方的に告げ切る。何か相手から言われてましたけど、全無視で無線切りましたよこの人。無線の内容から、たぶん病院関係者ですよね?こんな人がトップで可愛そう。
「これでOKです!それじゃあ行きますよ!あ、シートベルトはしっかりと締めてくださいね。安全運転で行きますけど、事故が起こらないとは限りませんから。」
「だから私をどこに連れて行くつもりですか!何も言わないなら警察呼びますよ!」
「警察は今事件で忙しいので誰も来ませんよ。そんなに警戒しなくても、危ない所には行きませんから。」
確かに副署長さんまで動員される事件が発生してるんだった。この院長、計画的な犯行だ!
「助けてください!誘拐されようとしています!どなたか警察に通報してください!犯人は院長先生!お面を被った怪しい院長先生です!誰か助けてください!!」
「ちょっ!分かりました!分かりましたからちょっと黙ってください!行き先伝えますから!そんなこと叫ばれると警察に捕まっちゃいますから!私が捕まったら医療崩壊が起こりますよ!!」
なんで最後逆切れしてるんですか。あなた今さっき、救急に行かないって宣言してたじゃないですか。それが出来るなら医療崩壊も起こらないでしょう。さっさとこの街の病院のトップを変えることをお勧めします!
「ちょっとこの街を紹介しようかと思いましてね?ここがどういうところか、どこに何があるのか、何も分からないでしょう?この街を紹介するついでに、風景を見たりすれば何か思い出すかもしれませんし。街を見て回りましょう。」
ちゃんとした考えが圧なら最初から教えてくれればいいのに。そうしたらここまで注目されることもなかったですよ?
「ところでお嬢さん。お腹すいてたりしませんか?喉が渇いてたりしませんか?ここでは空腹や渇きは一大事に直結しますから要注意ですよ。」
確かに朝は寝坊で慌てていたし、ご飯食べれてないし、そろそろお昼の時間だから、結構お腹すいてるかも。それに院長先生に対するツッコミで喉が渇いてきました!
「お腹も減ってますし、喉も渇いてます。でも私お金がないんですよ。院長先生が奢ってくれるんですか?」
「まぁそれでもいいですが、喉が渇いた人に水を分ける。お腹が減った人にご飯分ける。これも立派な医療行為と呼べますね。という事で、請求は署長さんにしますので好きなもの頼みましょう。」
お面で顔が分からないはずなのに、いい笑顔で言ってるのが分かる。
今の私は支払ない能力がないから従うしかないんだ!決してお腹がすいてるから、なんでもいいから早く食べたいとか思ったわけじゃないんだ!
「それではパン屋に行きましょうかね。すぐ近くなので時間はかかりませんよ。おいしいパンと何か飲み物でも頂いて行きましょうか。」
院長先生の車はすぐにパン屋に着く。本当に近いですね。
「ここは綺麗な店長さんとその娘さん。それとバイトの男性がいましてね。店長さんは何と言いますか、そのー、魅力的で惹かれるものがあるんですよ。仲良くなりたいなーとか思ってるんですけど、何かいいアデアとかないですかね?同じ女性として、これをされたら嬉しいとか。」
パン屋に行くと決まってから上機嫌になっちゃって。仲良くなりたいならパン屋に毎日通うとかしたらいいんじゃないですか?私の推しはVtuberですよ?異性と恋愛的な係わりがあると御思いか?
「毎日通えばいいんじゃないですか?」
「そんなこと既にしてますよ。そのうえで何かないですか?」
「それ以上は犯罪になると思います。面会くらいは行きますね?半年に一回でいいですか?」
「勝手に犯罪者にしないでくださいよ。全く…。」
パン屋の前に来てからいったいどれだけ会話をしたのか。こちらはお腹が減ってると言っているでしょうが!
ようやくパン屋に入る。
中にはおいしそうなにおいを漂わせるパンが置いてあり、今すぐにでもお腹が鳴りそう。
「あらー。院長先生じゃないですか。いつもありがとうございます。今日も同じのを買って行かれますか?」
本当に毎日通ってるんですね。パンやって通うようなところなんですかね?ちょっと疑問に思いますが。店長さんは確かに院長先生が言う通り綺麗でちょっと儚い感じがしますね。この院長先生あなたのストーカーになるかもしれないので注意してくださいね。
「店長さんは今日もお綺麗ですね。いつもの10個ください。」
「かしこまりました。そろそろ院長先生が来る頃かと思いまして、出来立てを用意してたんです。こちらになりますね。」
「ありがとうございます。代金はこれを。…それにしても、あの男は今日もいないんですか。」
バイトの男性の事ですかね?確かに今お店に店長さんしかいないけど、休憩中とかなんじゃないですか?お昼時間ですし。
「あの人は今日もカジノ行っちゃいまして。真面目にパン屋を手伝って欲しいんですけど…。」
「まーたカジノですか。あの男は全く。こんなに美しい人がいるというのになぜ遊びまくるのか…。理解できませんね。」
バイトをサボってカジノに行ってる事ですか?どうしてそんな人を雇い続けてるんですか?さっさとクビにしちゃえばいいのに。
「…あの人も昔は真面目に手伝ってくれたんです。」
「………分かりました。これからカジノに行く予定でしたので、あの男に言ってきますよ。」
「ありがとうございます院長先生。それで、気になったていたんですけど、そちらの方は?」
お、てっきり私の事見えてないのかと思ってたけど、ようやく私に来ましたね。
「こちらは私の患者です。記憶喪失のようで、脳に刺激を与えることで思い出すこともありますので、街の紹介がてら連れ歩いているんです。また来る時はよろしくしてやってください。それでは。」
私がしゃべる隙が全く無かったんですが。店長さんをそんなに独り占めしたいですか?なんだかバイトの人との関係が怪しいですけど。
「それじゃあ次はカジノ行きますよ!脳に刺激を与える事にはうってつけでしょう!ギャンブルをしてどんどん脳に刺激を与えましょう!あなたがギャンブルしている間に私はあの男に一言いってきますから。」
「街の紹介のはずが、いつの間にかギャンブルすることになってるんですが。それにお金ないって言いましたよね?」
そういうと、パンと水を半分ずつ私に渡しながら、「これも医療行為ですから。請求は全部署長さんがしてくれますよ。」とさわやかに言ってきた。
まだ見ぬ署長さん。ご迷惑おかけして申し訳ありません!