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ナオスマル計画

「でも……」


 ここでマルマキとリーザが顔を見合わせつぶやいた。


「医療費の割り引きセールは無理だけど、医療費自体を無料にする方法はあるかもしれないね」


「そうっスネ、ないことはないっスが、聞きたいっスカ? 変態ビンボークソ野郎」


「医療費自体が無料に! 聞く、聞きます!」


 リーザの呼び名に『ビンボー』が加わったが、今それを気にしている余裕はない。

 焦っている俺は、自然と前のめりになったが、改めて思うともしかしてヤバいことではなかろうか。


「大丈夫。法や倫理には、抵触しないから――」


 まるで俺の心を読んだかのように補足された。それには少し安堵する。


「研究――、私の研究の、実用化試験を手伝って欲しいんだ」


「試験のお手伝いですか?」


「簡単だよね」


「俺、学もなければ、医学的知識なんかそれこそ皆無ですよ」


「そこはノープロブレムだね。根性とコミュ力さえあれば」


 根性? コミュ力? なんか胡散臭い。


「その研究内容とは?」


 その言葉を待ってましたと言わんばかりにマルマキは立ち上がると、部屋の一角を占有するグレーの大きな機器に歩み寄る。


「私の研究は――、患者自身が自分のチカラで自分を治療する画期的な治療器具を開発すること。今の世の中、簡単な医療行為でも高額な医療費が請求されるよね。そうなると一般市民は診察を受けられないし、受けたところで支払えない。私は医者にかかれず諦めた患者をたくさん見て来た。でも、医者も慈善事業じゃないしビジネスだったら当然のこと。そこで私は自然治癒療法に着眼したんだ。自然治癒はその名の通り患者自身が自分のチカラで自分を直す回復手法。患者が勝手に病気を治すだけなら医療行為には該当しない。その自然治癒療法用の治療器具開発計画、その名も【ナオスマル計画】。これが私の研究だよ」 


 マルマキは饒舌だった。いやそもそも本来、彼女は自分の得意分野の話は、相手をねじ伏せ論破する話術を持ち合わせているのだ。残念ながら日常会話になるとトーンが低くなり、それが他者に誤解を与える一端になっていたが――。


 にしても【ナオスマル計画】とは――。とてつもなくダサいネーミングを言われた気がする。しかし今の立場でツッコみなどいれようものなら、リーザのみならずマルマキにも何を言われるか分かったものではない。現に言った本人は自信満々だし、リーザは何故か胸を張っている。


 マルマキは引き続き、グレーの大きな機械に軽く手を添え撫で始めた。


「ちなみにこれはその三号機。これまでのプロトタイプ、テストタイプを経て、完成形に近づいた実用化タイプ。成功すればどんな人でも医療行為を格安で受けられる。あなたには、この【ナオスマル】シリーズ三号機の被験者、実用化に向けた医療実験を手伝って欲しいんだ」


 研究内容を聞き終えた俺は感銘を受けた。計画のコンセプトは、俺たち一般人にとっては好ましい内容だからだ。是非実用化して欲しいし、その研究を手伝うことで医療費を補てんしてもらえるのであれば、この上なく素晴らしい提案に思える。まさにWINWINだ。


「具体的に何をすればいいんですか。知識よりも根性とコミュ力を使う医療実験なんて聞いたことないんですが……」


「【ナオスマル】には、医師が医療行為、つまり何も手を下さない代わりに、患者自身が自分の患部を自分で治療するものなんだ。そのために、患者が患部に直接接触、この場合侵入して直してこなくてはならないの」


「直接接触? 侵入?」


 すると隣に控えていたリーザが、手際よく窓のブラインドを下げ、暗闇となった室内の壁にパワーポイントのスライドが投影される。


「ここからは【ナオスマルナビゲーター】のアッシが説明するっスよ。お客さんにはまず、【ナオスマル三号機】とシンクロしてもらうっス。シンクロしたお客さんは、そのまま自分自身のインナーワールドに導かれ、患部に接触。お客さん自身の体内にいる味方の好中球や細胞たちと協力して患部を治療するという流っスよ」


 さっぱり理解できなかった。それにお客さんって何ぞや? さっきまでナントカクソ野郎とか罵っていなかったか。


 不安顔で二人を交互に見るも、マルマキは相変わらずの無表情だし、リーザは今まで俺を罵倒していたのがウソのような満面の笑顔を浮かべている。


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