マルマキ
一丸真希、【マルマキ】だった。
昔のような丸メガネは外され、内巻きワンカールの髪型からのぞくパッチリとした目が印象的な女性に成長していた。ハッキリ言って美少女だ。
マルマキはベッド横に椅子を引き寄せると、カルテを見ながら座り込んだ。
「まずは、家族構成だね。家族はいる?」
「えっと――、解散しました」
「そう、今どきだね。経済的に解散するのは今の主流だものね。念のため聞いておくけど、解散の理由は?」
「まぁ、その――、ありきたりですが国民皆保険制度の崩壊に基づく経済的理由です」
「そっか。ご両親さん、今後の健康状態の維持や、医療費支払に自信がなくなったんだね。うん、いいわね」
「いい……?」
「兄弟とかはいる?」
「いません。一人っ子なもので――」
「親戚との交流はある?」
「――、もう久しくなかったかと思います」
「ほぼ、天涯孤独の状況だね。辛いね。ご両親に言いたいこととかある?」
「言いたいこと――、そりゃ色々ありますけど、言っても仕方ないですよね。捨てられてしまったんだから」
「経済的な理由以外に、あなたが捨てられた理由とか思い当たる?」
「経済的理由以外に?」
「そう、あなた自身に問題があるとか、ないとか――」
それは考えたことがなかった。捨てられた理由を経済的理由以外に考えていなかったからだ。
しかし、よくよく思い返してみれば、経済的理由なら他にも似たような家庭はたくさんある。その全てが離散しているかと言うとそうではない。継続している家庭もあるのだ。では、そのような家庭と俺の家庭の何が根本的に違うのかと言うと……。
「それは、俺に問題があるから……なのか?」
そう、それは考えたことがなかったのではなく、その方向性の回答を無意識に消し去っていたのだ。それを認めてしまえば俺は無価値になる。
将来性のある子供、利用価値のある子供なら捨てられることも、家族が離散することもなかったのではないだろうか。仮に俺がマルマキぐらいすごい子供なら、家族の解散は防げたかもしれない。自分で問題提起をしておきながら、今さっきの言葉を打ち消したくなる。それを認めたら、その理由に行きついたら無価値人間だと自分自身で認めてしまうことになりそうだからだ。
「それは私には分からないよ。ちなみに資格とか持ってる?」
「何もありません」
マルマキが無表情に投げかける質問は、俺の心に追い打ちをかけているようだ。自分に何もないことを炙り出されている気分だ。今はこれ以上心を抉られたくない。
「職業は?」
「今は――、フリーター……です」
「無職っと――、いいわね。じゃあ、彼女とかはいる?」
「って、何ですかこの診察?」
もしかしてワザとかっ! 俺は限界だった。病状に関して診察されるのかと思いきや、まるで身辺調査と深層心理をこじ開けて覗いてくるような流れ。
それに「いいわね」って何が良いの? 無職っていいの? 憧れなの? 好きでフリーターやっているわけではないぞ。
「ちょっとした興味だよ。患者のライフリサーチも必要だからね」
俄かに信じがたい言い分だが、隣に控えるリーザが口答えを許さなそうな視線を送るので差し控えた。マルマキも何事もなかったかのようにカルテを入れ替える。って、今までの診察は何?