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96話「恥」

 天まで届くような土壁を創り上げたアーリン。その表情は悔しさに歪んでいた。

「っそ!! くそくそくそ!!!」

「アーリン!」

「大丈夫ですか!?」

 アーリンを心配する仲間たちの声。

 駆け寄る5つの影。

 それは今のアーリンの感情を逆なでするものでしかなかった。

「……じだ」

「?」

「恥だ! こんなの盾拳の恥だ」

 あらゆる武器、攻撃を無効化する四肢。

 それが盾拳の拳士としての存在意義。そう教えられ、そうあろうとしたアーリン。

 しかし現実には魔物の放った魔法のようなモノに対して、地面を転がり服を汚すという醜態。

 盾拳の拳士を名乗るのならば、例え魔法でも精霊術であっても四肢を使って無効化知るべきだったと憤っている。それができる出来ない関係なく。

 それが師匠の教えだと信じている。それが実際の言葉ではなくてもだ。

 師匠の教えを守ることができなかったという現実が、アーリンの頭に血を登らせる。

 土壁の向こう側に恨みがましい視線を送るしかできない。

 血の登った頭のまま、走り出そうとするアーリン。


「待ツンダ」

 襟をガッチリとにいられてしまい、アーリンの服が悲鳴を上げる。

 だが、アーリンが破れるほど引っ張っても、タメエモンの腕力ではびくともしない。

「……っ離せ!」

「ドウヤッテ戦ウカモ、ワカラナイノニカ?」

「っ!」

 アーリンの勢いが一時的に収まる。

 だが直ぐにタメエモンから逃げるように抵抗が始まる。

 オーガーの里で戦った時とは全く違うアーリンの姿に、タメエモンは戸惑う。

 あの強者然とした態度ではない。

 まるで年相応の子供のような態度。

 初めて見た気がした。

 しかし、アーリンの魔物に対する態度は、道中で見せる戦士たちに見せる態度とは違ったのを思い出す。

 何故だ?

 誰に対しても真正面からぶつかっていく、気持ちのいい拳士の姿からはかけ離れた、今のアーリンの姿に違和感でしかない。


 戸惑うタメエモンをよそにマーファが動く。

 パチンと乾いた音がアーリンの頬から鳴り響く。

「いい加減にして! アーリン! 怖いからって」

 何を言っているか分かたなかったタメエモン。

 だが、アーリンの眼を見れば、それが恐怖に染まったものの眼だと理解ができる。

 なんだ。

 タメエモンは少しだけ安堵する。

 訳の分からない巨大な生物や奇妙な攻撃をしてくる不思議な生物、魔物。

 自分から志願してアーリンとの旅に同行したタメエモンは、日々襲ってくる魔物の姿に恐怖していたのだ。

 その恐怖は狩り終わった後の処理に抵抗を見せるほど。

 口に入れるなど最初は仲間たちの正気を疑っていた。

 

 しかし、それはアーリンも一緒なんだ。

 恐怖の対象である魔物。

 それを見ないようにする最大限の攻撃が狩るということ。

 ならば、悪態をつきながらも魔物を探すアーリンの心情も理解できる。

「ク、フフッフ」

「なっ! ……笑うなよ」

「イヤ、スマナイ」

「アーリン。確かに魔物はあなたにとって脅威でしょう。でも、それは私たちも一緒……でしょう?」

「すまない、フレット。そうだよな、何せ……世界がかかってるんだもんな」

「……スマナイ。クワシク」

「ほらっ! そんなことよりあの魚でしょ!!」

 緩みだした空気をマーファの一喝が引き締める。


「で? どうすんの?」

「水に沈む前に攻撃を当てる」

「だから! それをどうしようって話!!」

「拳士らしく殴りに行きますか!」

「……それ採用」

「全く! うちの男どもは!!」

 呆れを通り越したマーファは怒りながらも布に闘気を通す。

 各々の戦闘準備が整うと、タメエモンは天高く足を上げて、振り下ろす。

「我ハ願ウ! 瘴気ヲ清メ、道ヲ作レ」

 振り下ろされたタメエモンの足から、衝撃が走りだす。

 一直線に走り出した衝撃は、アーリンの創り出した土壁へと伸びていく。

 

 土壁にあたった衝撃波は、音を立てて土壁を崩す。

 その向こう側では視界の邪魔になっていた壁を崩そうとしたのか、魚の魔物が水球を頭上に掲げていた。

 急に開けた視界にアーリンたちを認めると、魔物は再び悪意の視線を飛ばしだす。

「さあ、第二ラウンド行きますよ!」

「アア! 仕切リ直シダ」

「……ありがとう」

「何か言った!?」

「何でもない!」

 アーリンたちが大地を蹴って走り出す。

 

 土壁の向こう側ではフレットの炎のグローブが素早く何度も振るわれ、タメエモンの空気を揺るがす張り手が魔物を殴打し、マーファの布槍術に氷の刃が追従しながら鱗を切り裂いている。

 アーリンの拳の先には幾つもの水球が浮かびながら、仲間を襲う魔物の水の槍を同じ勢いで撃ち落としていた。

 人気のなくなった港町。

 誰にも知られないはずのアーリンたちの激闘。

 そんな姿を見ていた幼い視線が合ったことに、アーリンたちは誰も気が付かないでいた。

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