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91話「世界終了のお知らせ」

「う……そでしょ?」

 何もない草原。日で照らされた草原の蜃気楼から、それは現れた。

 最初に見つけたのは、マーファ。

 間違いようのない、独特の空気を纏ったそれに向けて放った言葉。

 それを受けて、アーリンがマーファの視線の先を確認する。

 怖気が全身を支配する。

 あってはならない光景がそこにはあった。

 それ単体はわかる。

 アーリンたちの、いや、生物すべての天敵『魔物』がそこにはいた。

 

 体高の低い四つ足の生物。

 身体の特徴からイヌ科の生物が元になった魔物。

 それが()()をなしていたのだ。

 命そのものを嫌悪するかのような魔物が、群れでいる。

 その事実がアーリンたちの視界を支配して離さない。

 魔物はようやく見つけたアーリンたちいのちに歓喜の遠吠えを上げる。

 まるで宣戦布告かのような遠吠え。

 それに怒りをもって反応したハクが水の槍を無数に飛ばす。

 標的が多く、そして灼熱の空気の中で水の槍は徐々に空気の中に溶けていく。

 自分たちに向けられた攻撃が、自分たちの脅威ではないとわかると群れは嬉々とした表情で駆けだす。

 口角から垂れた唾液が蒸発しながら、陽炎を作りまるで口腔内に炎を貯めているかのよう。

 そんな感想を頭に浮かべてしまったアーリン。


 しかしそれは大きく外れてはいない。

 走りながら数頭の魔物が吠える。

 その音とともにアーリンたちを熱波が襲う。

「あっっ!! ……の野郎!!!」

 攻撃を受けてアーリンたちがようやく戦闘態勢に入る。

 周囲の気温もあり、氷の槍を創造しながら、いつになくアーリンは声を上げている。

「なんだってんだ!! あり得ないだろこんなこと!!!」

「アーリン!!」

「今は集中です!」

 苛立って前に出ているように見える3人。

 しかし、実際はそうではなかった。

 自分たちの後ろに控えるタメエモン。

 彼は幸運……いや、不幸なことにアーリンたちと行動を共にし始めて、今回初めて魔物と遭遇してしまったのだ。

 

 基本的にはアーリン一行は、ヒト相手には魔法や精霊術を使用しない。

 する必要がない。

 そもそもヒトと殺し合いをするという状況が、そうそうないのだ。

 もちろん様々なヒトと拳で立ち合いはする。

 事故が起きる可能性は十分にある。

 しかしだ。相手を死に至らしめるほどの関係性はなく、大抵はアーリンが勝手に絡んでいくだけなのだから。

 修練した相手の技を見てみたいという欲求に忠実に行動しているだけ。

 故にタメエモンは、今に至るまでアーリンたちのもう一面。

 特異な戦闘を行う姿を初めて観たのだ。

 

 自分たちの命を奪おうと襲い掛かってくる異形の化け物。

 そんな危機的状況で、タメエモンはアーリンたちの動きに魅入ってしまった。

「何ガ起キテイル……ンダ?」

 誰に聞かせるでもない、独り言がタメエモンの耳にだけ聞こえる。

 それは目の前で起きている戦闘風景について言った言葉だろう。

 それと同時に自分の住まうこの世界が、どんなところであったのかを問いかける言葉でもあった。

 まるで幼い頃に夢想したおとぎ話のような光景。

 そんなあってはならない光景が、現実に広がっている。


「あ”あ”~~~!!! 暑い!!!」

「アーリン、うるさい!」

「まあまあ。さ、みんなでさっさと解体してしまいますよ」

 8頭いたイヌ科の魔物は、あっさりとアーリンたちに退治されてしまった。

 毛皮の一部が鉄のような強度を持ち、口から熱波を吐きだして相手を弱らせる魔物。

 そんな化け物たちは焼けただれ、地面から生えだした氷柱に貫かれて息絶えていた。

 暑さに苛立つアーリンとマーファをなだめながら、フレットは手早く作業を終わらせようとしている。

 こんな一面もタメエモンには、不思議にしか映らない。

 見るからにマズそうな獲物を丁寧に解体するアーリンたち。

 フレットに視線で促され、タメエモンも作業に参加する。

 丁寧な手つきでも、荒れた空気を発しているアーリンとマーファには近寄りがたいと、自然とフレットの近くにある焼けただれた獲物に手を伸ばし始める。

 作業をしながらフレットが、先ほど広がっていた光景の説明を始める。

 にわかには信じがたい話であった。

 もしかすると、近い将来この世界は滅びると言うのだ。

 だがさっきの後継を思い出せば、それは確かに起こりえるのかもしれないと思えてしまう。


「ん?」

「どうしました?」

 アーリンが作業の手を止めて、獲物の開いた腹の中を観察し始める。

「……おいおい」

「っえ!!?」

 何かを見つけたアーリンとは違うモノを見つけたマーファも、思わず声を上げる。

 いったい何を見つけたのだろうか?

 獣の解体になれているタメエモンは、自分の手にあるモノを見つける。

 別段変わったことのない光景。

 鼻に届く匂いも、よく知る匂い。

 血の鉄臭さと、臓物から漏れだした内容物の腐敗臭。

 心臓の近くにあるよくわからない臓器以外は、見慣れた獣の姿でしかない。

 

 獣の臓物から目が離せないでいるマーファを不審に思い、タメエモンが腰を上げると、一足先にアーリンがマーファに駆け寄っている。

 そしてマーファの見つけたものを手に取ると、苦笑いを浮かべてこんなこと言い出す。

「世界……終了のお知らせ」

 彼の持っていたのは、おそらく子宮。

 メスの個体を解体していたのだろう。

 タメエモンには、何が不思議なのか分らない。

 群れなのだから番も居れば、妊娠していてもおかしくはない。

 首をひねるタメエモンに、フレットは動揺を隠せないように説明を加える。

「タメエモン……命を憎むのが、魔物だと言いましたよね?」

「アア、ダカラ積極的ニ狩ッテイルノダロウ?」

「ええ。命を憎む獣が繁殖行為を行っていたんです」

「ダカラ! ……ア」

 そう、ようやくタメエモンにも理解できた。

 

 どう発生していたか不明な魔物が繁殖をしている。

 もしかしたら、突然変異の可能性もある。

 しかし、奇妙なのは命を憎むような行動をとっているのに、次代を育む行為を行っていると言うのだ。

「フレット……これも見てくれ」

 そう言ってアーリンが見せてきたのは、魔物の胃の内容物。

「コイツ等……捕食もしてやがる」

 アーリンの言葉に、タメエモンも驚くしかなかった。

 先ほどフレットの説明では、魔物は一度他者を襲い始めると捕食行動をしないと言っていたのだ。

 生命活動の維持よりも優先される攻撃性。それが魔物の本質だったはず。

 しかし現実は……、いや、今回はそうではなかった。

 捕食も行い、繁殖も行い、群れで行動をする。

 それは普通のイヌ科の行動に見える。

 だが、この生き物は間違いなく魔物だ。

 体内に魔石を生成し、命に敵意を向ける化け物だ。


 あまりの衝撃によって、自分たちを照らすふたつの太陽に気がまわらないアーリンたちがいた。

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