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79話「魔晶石」

 ドルトネス・ソル・ディアマンティス公爵は、静かな書斎で手の中にある思い出の品を眺めていた。

 魔獣と呼ばれる生物の体内で生成される魔石。

 初めてみた時から、何故か興味を惹かれて古い友人に無理を言って譲り受けたものだ。

 それから幾度となく魔石を手にしてきたが、この魔石だけは特別なものだ。

 ランク的には大したことのない3級品。属性値も大したことのない、ほぼ石ころと同じ商品価値しかない。

 それでも人生で初めて手にした魔石。

 その輝きに魅了されて、どう加工したものかと頭を悩ませたこともあった。

 そのお陰なのか、今ではワールス国王のディアマンティス家と言えば魔晶石製造の大家。

 ワールス王国の輸出産業の中でも、上位の売り上げを誇る商家としての一面のほうが今では有名だ。

 ドルトネスが当主となってから発展し始めた魔晶石産業は、今や王室すら無視できない産業へと発展している。


 原材料は秘匿しているが、それも長くはないだろう。

 魔石を削り出し、魔法触媒への親和性を高めているなんて、ちょっと考えれば誰でも思いつきそうなもの。ディアマンティス家の優位は、すでにその知識と研究が商品価値のあるところまで進んでいるというところにある。

 それもこれも、とある伝手があったという幸運の上に成り立っている。

 ひとしきり魔石を眺めると、机に置かれた書類を手に取る。

 そこに書かれているのは、最近買い取った鉱山の報告書。

 気になる項目を見つけ、ハンドベルを鳴らし秘書を呼び出す。

「何か御用ですか、公爵閣下」

「ああ、例の鉱物が見つかったって?」

「はい。金属的特徴は従来の銀のように見えますが、錬成段階で魔力での発光現象を確認しました」

「そうか」

 秘書はそのまま、ドルトネスが書類を読み込む姿を眺めている。

 次に来る質問を待っているのだろう。

「鉄、鉛、銅にも同様の反応が見られた?」

「はい。こちらは微量ですので抽出などで苦労しているようで、現物はまだ」

「そうか」

 書類に目を通せば通す程、恐ろしい事実がそこにはあった。

 各鉱山の産出状況は、それほど悪くはない。十分採算のとれる優秀な山たちだ。

 だがそこに眠る、まだ誰も知らない金属の存在を言い当てた人がいるなんて、誰が信じるだろうか?

 しかも10年も前に言い当てていたのだから、恐ろしいという他ない。


 書類に目を奪われているドルトネス。

 その書斎の扉がノックされる。

 もうそんな時間かと思いながら、部下の入室に許可を出す。

 何の要件なのかは理解している。

 だが上に立つ者、特に公爵としての自分の立場では無駄な時間を過ごす必要もある。

 それがもどかしいとも思うが、貴族としての所作で粗を出すわけにはいかない。

 今やそんなものでしか攻撃されないとはいえ、煩わしいのは変わらないのだから。

「閣下。お客様です」

「わかった。向かおう」

 そう。今日は大事なお客様が来館するのだ。

 初めて会った時にはもっと砕けた間柄だったが、今はもうお互いに誰かの視線を無視はできない。


「お待たせいたしました」

「ディアマンティス公爵、久しぶり」

 部屋には目的の人物と、その護衛がいる。

 柔和な笑顔を見せる人物とは対照的に、その護衛は厳めしい表情を崩さない。

 下あごから生えた大きな牙が、鈍く光っている。

 最近、この人は好んでこの護衛を街中に連れてくるようになった。

 まるで威圧される住人の表情を楽しんでいるかのようだ。

「では、早速ですが本題に行きますか。こちらを」

「拝見させてもらうね」

 渡した書類を見る彼は、笑みを浮かべている。

 それはそうだろう。

 自分の予見した通りの物が確認されたのだから。


「魔力伝導への親和性が高い銀か……魔法銀ミスリル。ってところか」

「ミスリル?」

「ああ。まあ、名称は必要だろ?」

「そうですね。他にも鉄、鉛、銅にも微量ですけど、似たような反応がありましたよ」

「ん~……オリハルコンでも作れってことなのかな?」

 手元の資料を見ながらブツブツとひとりごとを言う彼の姿。

 最近多くなった姿だ。

 しかし彼が予見した通り、また他家をリードするモノが増える。

 いや、派閥の貴族に流してしまう方が良いのだろうか?

 どうするにしても、先ずは自分で研究をしないと。

 本当に退屈とは無縁の人生になってしまった。

 本当の自分には特別な何かが眠っている、そんなモノに期待するしかなかった幼少期。

 だがそれを凌駕する何かは、結局のところ人とのつながりの中にしかないのかもしれない。


「あ! そうだ。ドルトネス、見てもらいたいものがあるんだ」

 そう言って、物思いにふける私に彼は魔晶石を投げてよこす。

「魔晶石ですか?」

「ああ。ちょっと細工したんだが、どうも俺たちは不器用みたいでな」

 観察すると、カットした1級の魔石に何やら図が彫られている。

 不格好なそれは、魔晶石の美観を著しく損なっている。

 しかし、魔力を流してみればその加工の意味が理解できる。

「魔法発動までの速度が速いですね」

「ああ。それに詠唱を2割カットできる」

「はぁ!? なんで……あ、魔法言語を刻んでいるのか」

「そうそう! あらかじめ必要な文言を刻んでおけば詠唱も少なくなるんだ。最終目標は詠唱を無くそうと思ってね」

 また、突拍子もないことを始めたな。

 ただ、これでまた魔晶石の商品価値は高くなるだろう。


「わかりました。こちらの職人を何人か派遣しましょう」

「いや、それは国内そっちでやってくれ。それとは別に……」

「わかってます。もう少しお待ちいただけたら、確実にお渡し出来ます」

 なぜか彼は、思いついたアイディアを惜しみなく渡してくれる。

 魔晶石の初期案も彼からだった。

 その対価に彼が求めるのは……。

「わるいな、あのエルフの遺物はそのままにできないからさ」

 王宮に眠るエルフの遺物のみ。


「せめて情報提供の対価を持っていってくださいね」

「え、いいって」

「そうはいきません。これは取引ですから」

 そう、彼とのつながりを無くさないため。

 エルフの遺物を渡した後も、この時間を無くさないために。

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