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76話「ドワーフの祖先」

「くっそぉ~……はぁ……口は禍の元かぁ」

「何それ?」

 無駄に豪華な馬車の中で、アーリンは前世のことわざの意味をマーファとフレットに説明する。

 アーリンがつぶやいてしまったLHCという単語。

 それはドルトネスにとっては自国の存在する意味を示す謎の言葉。

 ドルトネスの行動は早かった。即刻アーリンを自分の父親、ディアマンティス公爵家の現当主の前まで引きずって行った。

 そしてことの経緯を説明、アーリンの知識に触れた公爵はこれまた迅速にアーリンたちを王宮まで連れていく事になったのだ。

 たった一言。

 それもにわか知識でしかなかった言葉を口にしてしまっただけで、こうして国王陛下の前にまで連れていかれるのだから、まさに口は禍の元なのかもしれない。

「芯を得てる言葉ね」

「確かに」

「キュンキュン」

 仲間たちは一様に古の人たちの真理に感心するしかなかった。


「……なるほど。そう言った経緯であったか」

 アーリンはワールスの国王の私室に一人通され、何処でLHCなる言葉を知ったのか問われる。

 どう説明したものか悩んだ末、自身の出生の経緯を正直に説明するしか方法がないと本当のことを口にしたのだった。

 違う世界から転生してきたなどという、本来であれば容易に信じることができないようなアーリンの話を聞いたワールス国王。

 だがアーリンの予想とは違い、国王はその言葉が真実だと認識するような反応を見せている。

 その事がアーリンは不思議で仕方がない。

 自分の言葉に神様は、何の恩恵も与えてはいない。

 それなのに仲間たちにしろ、この王様にしろ、何故信じきれるのだろうか?

 突拍子もなさ過ぎて、逆に理論が働いているのだろうか?

 アーリンは少しだけ、世界を心配してしまう。

 しかし、王様から語られた言葉で納得するしかなかった。


「……実を言うとな、我らドワーフの祖先も世界を渡ってこの地に来たのだ」

 もう400年前になるらしい。

 異世界から召喚されたドワーフなる人種。人種に対して少しだけ寿命が長く、技術と知識の継承にに重きを置くと言われるドワーフ。

 彼等もまた異世界からの訪問者だったのだ。

 アーリンと違うのは、彼らは異世界転移であるということだけ。

 そしてそれとは違う、衝撃な言葉をワールス国王は口にする。

「我らは本当の意味で人ではないのだ」

 アーリンの耳に届いた言葉は、その目によって嘘やまやかしではないと理解できる。

 だがその言葉の真意がわからない。

 ドワーフと触れ合った数カ月間。彼らをヒトだと認識しなかった日は無い。

 自分たちと同じように語り、笑い合い、恥を感じ、驚いたりもする。

 まさに人とのコミュニケーションそのものであったから。

「我らドワーフは、別の世界で人の手によって創造された生物。向こうの言葉でデザインヒューマンと呼ばれる生き物なのだよ」

 アーリンの知識、前世の中でも特にファンタジーであった人による人の創造。

 倫理という壁により、現実では弄れないとされてきた遺伝子やクローニング。それらの技術の一端、それがドワーフと言う種族なのだと王様は言った。

「とある目的により、科学技術と研究の継承のために創造され、種族を存続させる。その刷り込みはこちらの世界に来ても変わらなかった」

 初めてこの地に召喚されたドワーフたちは、その種に課せられた意義をこの世界でも同様に発揮しようとした。ドワーフたちと一緒にこの地にやってきた大量の建材を用いてLHC、ラージ・ハドロン・コライダーの建設を行ったのだ。

 この世界にも『科学』という種をまくために。


「だがな、我らの祖先の望みは潰えたのだ」

「……潰えた?」

「ああ、多くの仲間と大量の建材という財産をつぎ込んだLHCは、……ついに起動することがなかった」

 多くの血と財をつぎ込んだ、実験施設。それがこの世界では起動することは無かった。

「理論も、材料も、すべてに過不足はなかったらしい。それでも『まるで世界に嫌われたかのようだ』。そんな言葉を残して、何人ものドワーフがこの世を去った」

 そして、そんな祖先の残した遺物を守るために、ドワーフたちはこの地で生きていくのだと。

 思わぬ形で聞いたドワーフたちのルーツ。

 その中にあったドワーフたちが残したであろう言葉を聞いて、アーリンは引っかかる者を覚えた。

 

 『世界に嫌われたかのよう』と言う言葉。

 世界にまるで意思があることを知っているかのような、そんな表現。

 ……もしかして、アーリンは礼儀も忘れて浮かんだ言葉を口にする。

「最初のドワーフたち、その中に『変革者』はいたんですか?」

「変革者? いや、そんな言葉は初めて聞いた」

「そう……ですか」

 変革者はいなかった。それを聞いて、アーリンは困惑していた。

 この世界に召喚されたドワーフたち。あの神様の口ぶりを思い出すに、『科学』という刺激を期待して召喚したはず。

 それなのに世界への干渉を制限して、『科学』というエッセンスをダメにしてしまう迂闊さ。

 自分の知るあの神様による行いなのだと、理解はできる。

 出来るが、何故?

 何故そんな下手を打ったのだろうか?

 しかも、彼の神様の権能は『時を自由に操る』というモノ。

 何故、こんな失敗を放置するのだろうか?


 ドワーフたちの真実を聞いたアーリンは、人気のない廊下でそれを反芻はんすうしていた。

 そして、もしかしたらという可能性を口にする。

「……もしかして、失敗してなかった……?」

 もしくはLHCという建造物。それを建設させる目的でドワーフたちを呼び寄せたのかもしれない。

 だとしたら、何故?

 そうして何回目の『何故』に思考は到達する。

 神と言う存在にあったアーリンでも、その意志の全てを知るわけではない。

 

 悩むアーリンを見つけると、その人物は驚いたように声を出してしまった。

「……アーリン?」

 不意に呼ばれ、そちらを向いてしまう。

「し、師匠? 何でここに?」

 アーリンが全幅の信頼を寄せる人物、エルフの中で二人しかいないそんな人物がそこにはいた。

 血濡れのガントレットと呼ばれる、現状において地上最強の男。

 アルテア・ポーラスシュテルンが、ドワーフたちの王宮にいたのだ。

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