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75話「3本の指輪(トライリング)」

 魔石の中身という衝撃から数日。

 アーリンたちがディアマンティス家に滞在するようになって、一か月ほど経過していた。

 その日、ドルトネスとアーリンたちは首都ワーレストの商業区へ向かって歩いていた。

 ここ最近のドルトネスは上機嫌なことが多い。アーリンをなんとか口説き落として魔石の欠片を自分の手に収めたことが一番の理由だろう。

 アーリンの眼にはおどろおどろしい何かを内包する鉱石のようなモノ。

 だがドルトネスにとっては、生物の体内で形成される未知の鉱石。

 公爵家の呼び名、宝石ジェムが何でついたのかを説明しているかのような、ドルトネスの興味。

 歴代の当主も同様だったのだろう。


 ともあれ、今日アーリンたちが商業区に向かっているのは、魔石には全く関係ない。

 旅立ちの準備と旅費の補充のためだ。

 マーファがなめしていたアナグマの一枚革、そしてハクのおやつになりかけていたアナグマの頭蓋骨の漂白が終わったのだ。

 それをこの街にいるであろう好事家に売りつける話をしていたところ、ディアマンティス家御用達の商人はどうかとドルトネスに推薦されたのだ。

 次期当主のドルトネスがいてくれれば、話も早いだろうと了承し向かっているのだが、アーリンの希望で馬車ではなく徒歩で向かっている。

 もう戦斧の使い手と一戦交えたというのに、交戦的が過ぎるとマーファたちを呆れさせるがそうではなかった。


 アーリンは前日の夜に、こんな疑問を口にした。

「なあ、ドルトネス」

「はい?」

「何で、ワールスの国旗って3本の指輪なの?」

 ワールスの国旗3本の指輪トライリングは、一つ一つに意味がある。

 それぞれ知識、技術、探求というドワーフに欠かせない3つの要素を表していると謂われている。

 だが、アーリンにとってはその象徴がドワーフらしさから少しだけ離れているように思えたのだ。

 アーリンにとってドワーフは、強さが前面に出ている種族だと思っている。

 小さい体高であっても、その高密度の筋肉。筋骨があっても邪魔にならないほどの器用さ。

 スピードこそないが、他種族との闘いで有利な面がある。

 何より、戦争で領土をもぎ取った国家のわりにその3本の指輪の意味が大人しい。

 そして何よりの疑問もある。

「それとさ、なんでワーレストって山のふもとにあるんだ?」

「それは……」

 言いよどむドルトネス。

 ドルトネスも詳しくは知らないのだ。


 ワールスという国、その中心には標高高い山がある。

 その山の麓が優先的に開発され、その数ある都市を有力な貴族が治めている。

 だが、その先のなだらかな土地。広大な森はそれほど重要視されてはいない。

 むしろ何故か積極的に植林が行われているほど。

 ドルトネスも疑問に思っていた。

 ディアマンティス家の当主である父に聞いても、明確な答えはない。

「当主になればわかることだ」

 そんな答えしか返っては来ないのだ。

 だからこそ、ドルトネスは供もつけずに森に出た。

 ……もちろん、何かしら自分の中の特別が目覚めてくれることにも期待していたが。

 とにかく明確な答えは、ドルトネスも持っていない。探している途中なのだ。

 ただ一つ、父に教えられた謎の言葉を胸にしまって。


 そんな疑問を共有するアーリンとドルトネス。

 ドルトネス側からの提案もあって、商業区まで歩いて向かうことになった。

 途中建国時の石碑があるから、何かわかるかもしれないと。

 ワーレストの大通りはそれぞれ王宮、貴族の邸宅のある区域と商業区、平民の居住区、工業区の5つへと伸びる道で分けられる。

 そしてその道の中心に広場があり、目的の物が建てられている。

 もう誰も読むことのできない言葉で綴られた石碑。

 そこにはワールスの象徴の山とそれを取り囲む3つのリングが描かれている。

 それを見たアーリンが難しい顔をしている。

 アーリンが文字に対して困っている様子は、マーファにとっては初めてみる姿だ。

 ……いや、何処かで聞いた覚えもあるが、旅の途中でそんな姿を見せたことは無い。

「アーリン、読める?」

 だから思わず聞いてしまった。

 そんなわけが無いと思いながらも。

「……読めない。……けど」

 アーリンがはっきりと読めないといったことに、マーファだけでなくフレットも驚いている。

 ドルトネスにとっては当たり前の答え、だがそうではないのだとその態度でわかる。

 いったいエルフの国でどんな教育を受けたのだろうかと、ドルトネスは舌を巻いている。

 話し言葉は似ているが、よくよく考えればエルフとドワーフは言語が異なる。

 それをこの3人は苦も無くこなしている。その事実にようやく気が付くほどだ。

 アーリンに至っては、その異なる言語の丁寧語さえ使いこなしている。

 その事実にようやく行き着いたドルトネスは感心するしかなかった。

 それが万能眼の恩恵だとは、知らないから。


「……けどこれって……LHCか?」

 アーリンがそうこぼした言葉にドルトネスは詰め寄る。

「何で知ってるんですか!? いや、何を知ってるんですか!?」

 そう、アーリンの言葉には父に教えてもらった謎の言葉が含まれていたから。

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