74話「割る」
「見せるけど、たぶん売らないよ? それでもいい?」
「はい……残念ですけど、どうしても!!」
「わかったわかった」
「武術に対するアーリンみたいな反応」
「良い得て妙ですね」
アーリンに詰め寄るドルトネスという構図。それだけでも珍しいというのに、アーリンが押し切られるという珍事中の珍事が目の前で繰り広げられている。
当然マーファやフレット、ハクでさえもその光景に釘付けになってしまう。
アーリンの腰の革袋、そこには幾つかの魔石が入っている。
もう砂粒ほどにすり減った魔石、まだ赤い色をしているオオサンショウウオの魔石もそこにはあった。
ひときわ大きいのは、今回のアナグマの魔石。
まだ入手して時間が経ってないのも一つの原因だ。
「こんなに幾つもあるんですね」
「う、うん。あの感じの獣……俺らは魔物って呼んでるけど、そいつらを旅の途中で狩りながら生活してる」
「なるほど」
アーリンの話など本当に聞いているのか、そう想ってしまうほどドルトネスの視線は魔石しか見ていない。
手に取って太陽に掲げてみたり、指で弾いて中の音を聞いてみたりとドルトネスは一心不乱に魔石の観察をしている。
珍しく他人の行動に戸惑っているアーリンを見て、マーファとフレットは頷き合う。
まさにアーリンのようだと。
「もう一つ! もう一つだけお願いが」
「……今度は何?」
さすがのアーリンさえも呆れさせるドルトネスが、ようやくアーリンを見たと思ったら再度お願いを口にする。
この二人意外と似ているんだと、マーファとフレットは本当に感心するしかない。
「この石、割ってみて良いですか?」
「……へ?」
アーリンがドルトネスの言葉を聞き返す。
言葉が見えていて、意味も理解できるというのに。
アーリンにはドルトネスが何を言っているのかわからない。
「……割る?」
「はい!」
いったいどこから出したのか、ドルトネスの手には金槌とタガネが握られている。
そしてその姿はドワーフらしいの一言。
何とも金槌の似合うことか。
「キュン!」
いきなりハクが大きな声で鳴く。
まるで是非割ってほしいと言っているかのようだ。
いや、事実ハクはドルトネスの提案を受け入れている。
マーファとフレットも別に反対していない。
アーリンだけが難しい表情をしている。
「お願いします!!」
「え~~……割るって割るんだよね?」
「はい! 是非とも!!」
確かにアーリンも魔石に出会ってからその正体を気にしてはいたが、それでも積極的に解明に動くことは無かった。
それをアーリンが持つことで、魔法も闘気法も自由に使えるという事実だけが分かっている。
だからその発生も構造も、誰も知らない。
割るなんて頭の片隅にもない行為だ。
しかし、目の前のドワーフは知りたいらしい。
断面を見てみたいなんて並々ならぬ興味の一端でしかない。
本当であれば、その構成も生成過程もドルトネスの興味の範疇なのだ。
だが、この魔石はアーリンの所有物。
だからせめて割るだけでもしたい。
壊したいわけではなく、その断面を観察したいだけなのだ。
アーリンの拒否の視線を誰も受け止めてはくれない。
うなだれ、諦めるしかアーリンに選択はなかった。
「……はい、どうぞ」
「ありがとうございます!!」
御礼を言うよりも早く、ドルトネスの金槌はタガネに向かって振り下ろされる。
甲高い音と共に、タガネが魔石に食い込んでいく。
そして何度目かの音で、魔石は二つに割れる。
「これは……」
「……なんで?」
魔石の中はさながらジオードのようだった。
表面の石とは違う、水晶のような輝きを持つ鉱物がびっしりと敷き詰められている。
その事にその場にいたみんなが動きを止める。
一瞬綺麗に映ったそれに手を伸ばすマーファ。
だがアーリンとフレットに止められる。
アーリンの眼には、それが悪意の色を放っているように見えている。
ただの鉱物であるはずのそれから、まるで生命体の意思が放たれているように見える。
だが安全なのだろう。
ハクはその光景を見ても警戒を示さない。
安全なはずだ。
しかしアーリンはそれを手にする気が起きない。
自分の所有している石なのに。
尻込みしているアーリンをよそに、ドルトネスは無造作に魔石に手を伸ばす。
それはアーリンが止めることも敵わないほど、自然な動き。
そして顔に擦り付けるかのようにマジマジと覗き込んでいる。
「すごい……こんなものが生物の体内で生成されるなんて!」
驚きと好奇心。
興奮したドルトネスが同意を求めるようにアーリンたちを見る。
しかしアーリンの顔色は優れない。
そう、魔石とは魔物と呼ばれる生物の体内で生成される。
それは普通で言えば胆石のように、多くは摂取した物質が何らかの原因で結晶化するモノだ。
であれば、この魔石とアーリンたちが呼ぶものはいったい何が結晶化したものなのだろうか?
異常行動を示す魔物、そしてその体内で生成される魔石。
その謎がアーリンの顔色に陰りをもたらすのだった。




