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65話「逃げる場所」

 さっきまで自分の方が速いと思っていたニックは、となりにいるアーリンの顔を見て驚愕の表情を浮かべている。

 だが、それも一瞬のこと。ニックは捕まるわけにはいかないと、さらに速度を上げる。

 人ごみの中を走り抜ける二人の様子はまるで風。

 となりを通り過ぎた人々が、二人の起こす風圧で何かが通ったのかと認識するほど。

 騒ぎになる前に、二人の姿は人々の視界からいなくなっているのだ。

 アーリンはニックの闘気術の洗練に驚いている。追いついたときとはまた違う速度で走っているニックの姿。

 それはまさに何かしらの武術を収めた人の動き。そして闘気術。

 まさか自分よりはるかに年下の人物から、これほど学べるとは思っていなかったアーリンの心は踊っている。

 それとは反対にニックの心は焦りに支配されていた。

 さっきまでは圧倒的に自分のほうが速かったはず。それなのにあの男は自分と同等の速度で追いかけてくる。

 いったい何が起きたのかと困惑しかない。

 そして何より自分が追われているという事実が、ニックから平常心を奪っていく。

 捕まるわけにはいかない。

 絶対につかまってはいけない。

 追われる立場では当然の心理ではあるが、それがより強くニックを支配していくのだ。


「っく!」

「ダメだな、ニック。逃げる場所は考えないと」

 袋小路に追い詰められたニックが、自分の後ろにある高い防壁を見上げる。

 アーリンにしてもその先に逃げ場はない。そう考えるのだが、ニックにはそうではないらしい。

 ニックの視線はまだ降伏していない。

 まだ逃げる算段があるかのような思考に染まった視線を遥かな高みへと投げている。

 まさかな。

 そんな思考がアーリンに寄ってきた一瞬を狙って、ニックは高い壁に向かって走り出す。

 わずかにある壁の凹凸を蹴り、ニックの身体は壁の上へと走って行く。

「……マジかよ」

 アーリンには少し諦めが浮かんでいた。

 さっき習得した地面をける闘気術。それをニックは足の指の一点で行っている。

 面ではなく点で扱える洗練さを見せつけられては、さすがのアーリンでも追うことはできない。

 アーリンの視線の先、防壁の頂上まで到達しようかというニックの視線は防壁の向こう側にある。

「……あれ? これって……」

 何故、この街は人の出入りを門で区切っているのか。そしてそこを通らずに出ていくという行為。

 世間知らずと姉弟子に咎められるアーリンでも、ニックの行動が異常なことだと正常に認識できた。

「お、おい! ……ニック!」

 まさか自分の行動が犯罪を誘発させてしまうとは思っていなかったアーリンは、ようやく焦りを顔に出す。

 そんなアーリンを見て安どのため息が、アーリンの背中に落ちる。


「まったく、少しは反省しなさいよ」

 そう声をかけた姉弟子は、闘気を通した布をニックに向けて放つ。

 なんとなく、街に来る前の嫌な予感を思い出したマーファは、走り出したアーリンたちを追いかけてきていたのだった。

 正確には完全に振り切られ、壁を駆け上がるニックの姿で場所を特定できただけなのだが。

 いくら武術の心得があるにしても、これだけ高い城壁の上に行けるわけが無いとマーファがニックの保護に乗り出す。

 自分の身体を布で引きあげながら、上へと高く跳躍をはじめる。

 ニックの一歩をはるかに超えるマーファの布のリーチ。瞬く間に距離を縮めニックを捕捉したのだった。

「っく!! 離せ! 離せってば!!」

 自分の身体に巻き付く奇妙な布を、どうにか振りほどこうと身をよじったせいでニックの跳躍の推進力は無くなる。

 重力に負け、ニックの身体は地面へと舞い戻ってくる。

 しかし地面に叩きつけられることは無く、優しく地面へと下ろされてしまった。

 

 まさか自分が追いつかれるなんて、何より壁走りを使ってまで逃げられない相手なんて。

 ニックの経験にはないことが、今日は二回も起きてしまった。

 何より最悪なのは、こうして追手に無傷でとらえられてしまったことだ。

 あの高さから落ちれば無事ではいられなかったはず。それなのに……。

 必要以上に怯えるニックの姿に、二人は唖然としている。

 そんなに怖かっただろうかと、マーファは少し狼狽しながら。

 アーリンはさっき見ていたニックの視線の向こう。壁の向こうに何があるのかに思考を巡らす。

 そして、ある情報を思い出す。

「ニック……お前まさか」

「っ!」

 アーリンの視線に、異常なほど怯えて見せるニックを見て、アーリンは確信する。

 そう、もう彼には、ニックには元から逃げ場所なんてなかったのだ。

 厳しい表情のアーリンを見て、マーファは困惑するしかない。

 いったい何が起きたのだ? アーリン視線の意味は?

 マーファは自分の目が万能眼ではないことに苛立つ。

「アーリン!!」

「何?」

「……説明、してくれてもいいじゃん」

 拗ねたような、怒っているような姉弟子の視線。

 アーリンはため息を落として、ようやく姉弟子に応える。

「ニックは……外の盗賊の仲間だ」

 何故? と、ニックの顔に浮かんでいるのはマーファでも分かった。

  

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