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64話「面白い」

 アーリンは目的の人物、少年のニックの後ろ姿を追っていた。

 年下の少年の足にすぐに追いついたアーリンは、少し先のニックの足元を注意深く見ていた。

 目に写るのは、闘気法を見るチャンネル。

 だが、アーリンの目に写るニックの姿はすれ違う人々と変わらない微弱な闘気を纏っているニックだけ。

 しかし、アーリンには確信があった。

 アーリンが興味を持つ人は、武術を収めた人物が多い。

 つい先日訪れた村では、麦を脱穀するのに使う『から竿』と呼ばれる農具を武器として使用する人物だった。

 から竿は、こん棒の先に回転する竿が付いている器具。

 その回転する竿を器用に相手めがけてぶつけるというのが基本的な使用方法だ。

 普通にあたってもそれなりのダメージは、想像もたやすい。

 だが、その人物が扱う竿は振るった後に音が来る。

 そう、音速に迫る勢いで振られる。まるで鞭のように。

 そんな人物も知らず知らずに闘気法を収めていた。


 それだけではない。

 旅の途中であったある程度体を使い作業する人、そのほとんどはそれとは知らずに闘気法を使用していることにアーリンは気が付いた。

 即ち、何か一芸に秀でた人と言うのは、闘気法を意識、無意識の違いはあるが使用しているのだ。

 だから、アーリンの人物観察では先ずは闘気法のチェックから始まる。

 そのチェック項目は、大まかに分けて4つある。

 普段の姿の時、どの程度闘気を纏っているのか?

 行動する時、どの程度闘気を発するのか?

 そしてどこに意識を持っているのかも、闘気の密集でわかる。

 最後はどの攻撃が虚実の実にあるのかというもの。

 そう多くはない経験でも、アーリンは理解できたのだ。人は知らず知らず決定打を放とうという意識を無くせないということを。

 それは闘気法を視認できるアーリンにとっては、何ともわかりやすいものだった。

 決定打になりうる攻撃では、人はその攻撃に多くの闘気を密集させるということを。

 それこそがいわゆる得意技、必殺技と呼ばれるものになっていくのだろうと、理解できた。

 そんなチェック項目のほかにも、その人が意識して闘気法を使用しているかどうかなどあるが。

 

 そんなわけでアーリンが人を観察する際、必ず最初に行うのは闘気法なのだ。

 もちろん、そのチャンネルを使用している弊害もある。

「あっ」

 何かに気が付いたようにアーリンは小さく声を出す。

 見つかったのだ。

 ほんの些細な視線の動き。

 アーリンにとって見ようと思えば見落とすことのない視線。

 それをアーリンは見ていなかった。

 ニックがふと後ろを見た瞬間に、目があってしまった。

 後を付けていたニック本人と。

 アーリンに気が付いたニックは、その小さな身体を弾けさせるように地面をかけていく。

「速いな……けどっ!」

 アーリンは逃げるニックを追いかけ始める。

 森を縦横無尽に走れるアーリンにとって、整備された道を走るのはこれほど容易なことは無い。

 すぐに捕まえられる。

 アーリンは自分の力量を冷静に分析して答えを出した。


「やっぱり……何かやってるな」

 追いかけ始めてすぐに、アーリンの顔は笑顔に変わる。

 こんなにも容易な道を走る自分が、目の前を走るニックに追い付けない。

 それだけで十分な答えを得たのだ。

 即ち、面白いと。

 再びアーリンの視界は闘気法を捕らえだす。

 ニックの身体から発せられる闘気。

 それはさっき見ていたモノとは違い、確実に戦闘状態と言っていいほどの闘気に覆われている。

 魔石を使用している自分の闘気と同じくらいの大きさの闘気。

 年を考えれば、十分すぎる闘気の量。

 その事から、何かしらの武術を収めた達人域の武術家に師事したに違いないと結論付ける。

 ここまであの少年を鍛えることのできる人物にも興味がわく。しかし、今はニック自身の力量はいかほどかと、そこにしか興味はなくなっている。


 逃げるニックにいつまでも追いつけないアーリン。

 そればかりか少しづつではあるが、離され始めている。

 走ることに関して、それなりの自信を持っていたアーリンはさらにニックへの興味を強くする。

 その興味はニックの闘気法の仕様に気が付くほど、注視されていた。

 アーリンが離される理由。

 それはまさに闘気法の使用形態の違いと言えた。

 アーリンは身に纏って、内側に押し固めるように筋力を補助していた。

 しかしニックは逆に外側に向けて、闘気法を使用していた。

 一瞬ではあるが、ニックの足が伸びたのではないかと勘違いするほど蹴り足から闘気が放たれていたのだ。

「なるほど」

 アーリンは今までの使用法から、ニックを真似た使用法へと変えていく。

 それだけではない。

 今まで見てきた武術家、特に王都で見かけた老人のように流れるように闘気を流動させていく。

「やあ、ニック。やっぱりお前面白い奴だな」

 ニックに追い付いたアーリンは、とびきりの笑顔をニックに向けるのだった。

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