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60話「怖いもの」

「やっぱり、そうそう見つかるもんじゃないわね」

「ですが、情報もないって言うのは……」

「情報があったのは、怖い人間の話ばっかりかぁ。なんだかなぁ」

 アーリンたちは、魔物の情報を求め村々で情報を強いれながら目的の街を目指していた。

 しかし、そううまくはいかないもので、奇妙な獣の話は一向に見つからず。その代わりこれから向かう大都市ノーブル付近に現れるという野盗集団の話ばかりがアーリンたちの元に集まった。

 曰く『30人以上の集団』、『手練ればかりで駐在の警備兵を撃破して村を壊滅させた』、『大規模な商隊をつけ狙って多額の賞金がかけられている』などなど。アーリンたちには全く必要のない情報ばかりが集まった。


「だいたい。そんなに心配しなくてもさ、俺らが襲われると思う?」

 アーリンは情報をくれた人々の好意が行き過ぎていると食傷気味だった。

 村での情報収集は自分と姉弟子の二人。フレットは近くのでハクのお世話が役割になっていた。

 村の人間から見れば、子供二人旅。確かに危険に見えるだろう。

 だがその姿を見れば、金銭を多くは持ち歩いていないのは明白だ。

 事実あるのは、ハクの毛皮の中の大量の食糧ぐらい。

「まぁまぁ。心配してくれているのは善人が多い証拠ですよ」

「あ、そうでもないのよ。若い男女が住み着けば村の労働力も増えるし」

 何とか納得させよとするフレットの言葉に、マーファは経験上の反論を口にする。

 確かに情報を分け与えた人々は、裕福な村が多かったようにも思える。

「年長者がそんなことを言うから、アーリンみたいな子供がこんな風になるんですよ」

「子供じゃない!」

「そうよ。こうなったのは元々の性格のせいよね」

 三人が軽口を叩きながら進んでいくと、街道沿いの茂みから何やら不穏な空気が漂ってくる。

「……魔物?」

「……いえ、ハク様の毛は寝てます」

「……はぁ。なんでこんな場所で」

 風に乗って、喧噪がわずかに聞こえる。

 まさか、自分たちが出会うとは思ってもみなかった。

 噂の野盗に。


「っち! 手こずらせた割にしけてんなぁ!」

「本命は別の道つかわれたってことか?」

「あ~あ! あっちはさぞ楽しんでるんだろうな」

 何人かの話声が聞こえてくる。まるで日常の中のたわいない会話のような中に、短い悲鳴がいくつか。

 野盗にとっての日常がどんなものであるか、十分な説明になっている風景。

 そんな非日常から目を背けたのは、マーファだった。

「酷い」

「ああ。全くだ」

 アーリンはその目を逸らすことは無かった。

 マーファの目にも地獄のような光景。果たしてアーリンにはどのように見えているのか。

 マーファが心配そうにアーリンを見る。

「じゃあ、サクッとやってしまいますか」

「そうだな。終わらせよう」

 フレットの言葉に同調するアーリンに、マーファは不思議に思う。

「アーリン、出来るの?」

 旅が始まった時、アーリンは盗賊を逃がしたことがある。

 自分たちを襲う算段をしていた盗賊が大蛇に襲われ、それを助け逃がした過去がある。

 その時アーリンは言っていた、怖いと。

 アーリンは万素と言うヒトの意向に反映されやすい神の聴覚器官の存在を知ってしまった。その万素はいい感情も悪い感情も等しく同じに扱うと言うのがアーリンの見解。だからヒトの最期の感情が怖いと言っていた。

 そんなアーリンにこの野盗集団をどう終わらせるのか? マーファは不安に思う。


「ま、待ってくれ! た、助け……っ!!」

 アーリンの放った氷の刃が、野盗の一人の胸を貫いていた。

「終わりましたね」

「ああ」

 マーファの心配をよそに、アーリンは非情なまでの攻撃を野盗の集団に加えていた。

 嫌いだと公言した魔法を惜しげもなく使い、誰一人も打ち漏らさず殲滅した。

 マーファにとっても、至極常識的な対処。

「よかったの?」

「何が?」

 マーファはアーリンに不安そうな視線を向ける。

 アーリンはその視線を真正面から受け止めている。

「また、助けるって言うかと思って」

「ああ。あの人たちとはまた違うから」

 アーリンの目には、昔見た盗賊と今回の野盗は違う者に見えていた。

 襲う対象に向ける感情。アーリンに見つかるほどの敵意や興奮を見せるのは、襲うことに慣れていない証拠だ。非日常を感じ、襲うことを決断しないと襲えないという心の弱さをも言える。

 だが今回のは違うとアーリンは言う。

 まったく敵意などの感情を乗せない、日常の風景と共にある襲撃。

「だから、この世界を呪う人を減らす意味合いもあるし、それに……」

「それに?」

「魔法が怖いものだって、そう想って死んでもらった方がいいかなって」

 そう言うアーリンの目は、今までマーファが見たことのないものだった。

 あのエルフの里にいた時ですら見せたことのない目。

 アーリンが人を罰することを嫌う傾向にあるとマーファは想っていた。端的に言うと甘いと。

 しかし、アーリンには明確な基準があるのかもしれない。

 許すべき悪と許されざる悪。

 変革者という神に近い位置にいるアーリンのその判断基準が、マーファには少し恐ろしい。

 遠くに見える大きな街並みを見ると、本当に恐ろしい。

 どうか、アーリンを刺激しないでほしいと。

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