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58話「古き盟約」

「ん……んんっっ!!! はぁ……ずいぶんと懐かしい夢だった気がしますね」

 春の日差を心地よく受け取り、フレットはうたた寝からかえってきた。

 もう遥か昔のことを思い出す夢だ。

 大精霊の元を離れ、旅に出たあの時。

 もう思い出せもしない古い名前を棄てて、フレットと言う新しい名前を付けてもらったあの日の思い出。

 あの頃と変わらない青い空。だが目の端に移るモノを考えれば、あんな場所からよくぞまぁ、こんなところにまでこれたものだと思わずにはいられない。

 もう誰もあの頃の知り合いなど生きてはいない。

 それでも、自分はここにいる。

 新しい主人と仲間と……古い約束の名と共に。


 思いにふけるフレットの警戒線に引っかかる者がいる。

 寝ている自分を襲えば、勝率が上がるというのに。

 甘い。それでもその行動だけでこの人物がいい人なのだとわかる。

 恐らく話してみれば、懐かしさを覚えすんなりと受け入れてしまうかもしれない。

 時代が時代なら、そういう未来もあったかもしれない。

 だが、今この時にはそうれはできない。

「出てきたらどうですか? 侵入者さん……いや、勇者様御一考」

 フレットの声に応じるようにその姿を現す数人の男女。

「ふむ……少数精鋭での強襲。凝りませんね、人間どもは」

 この光景、過去何度も見てきた光景だ。

 戦線が膠着したように見せれば、簡単に斬首作戦に切り替える。

 なんともわかりやすい。いつもの光景。


「さて。今代の勇者様はいったいどなたですかね? あなた? それともあなたかな?」

 精強な人物に視線を向けてみたが、フレットの視線に答えるような人物はいない。

 まさか、囮の囮? いや、そんなことは無い。

 たとえ寝ていたとしても、自分の警戒線を越えられるわけがない。

 フレットは、頭の中に浮かんだ可能性を嘲笑する。

 そんなことが可能なわけが無いと。

 この城の入場口はここだけ。

 空も堀も、いたるところにあの方の魔法による結界が敷かれている。

 自分を通り越して、彼の方の元に行けるわけが無いのだ。

 そして、今現在。フレットの探知魔法に掛かっているのはこの場にいる人物のみ。

 であるなら、この中の誰かが自分の求める人物だと目を凝らす。

 いったい誰が、異世界の勇者なのだ?

 視線を巡らすと、一人の男児が震える足を前に出す。

 

 まさか、こんな子供が? 

 いや、そうだ。見た目で判断してはいけない。

 あの人も、かつての盟友のアーリンも見た目と中身が違っていた。

 人を見た目で判断してはいけない。

 アーリンは晩年そんなことをよく言っていた。

 強者と見えない強者が一番怖いと。

「あなたが、……今代の勇者ですか」

 勇者は震える声で、フレットに問いかける。

 何とも、ありきたりな、何度も答えた質問を。

「愚問ですね。我らは求めるものがある。だからこうして何百年と戦を続けているのです。あなたも求めるものがあるから戦うのでしょう? それに何の違いがあると言うのです?」

 ああ、この勇者は今までの誰よりも優しい人物のようだ。

 我らが同胞の死も悼んでくれるなんて。

 だが、それだけでこの道を譲るわけにはいかない。

 フレットは改めて、厳しい表情を見せる。

「優しさだけでは、この戦争は止まりません。あなたがこの戦争の英雄たり得るか、私にその力を示してもらいたい!」


 フレットは魔法を行使する。

『我、古き盟約と共に願い奉る! 炎よ、縄となり四方へと伸びよ!』

 フレットの言葉に呼応して、腰につけたモノが光りだす。

 そしてフレットの言葉の通りに、四方へと伸びていく。

 門の手前の広場、城の入り口に炎のロープが張り巡らされる。

 フレットはそのロープを飛び越えてリングインを果たす。

「私は門番! ゴブリンのフレット!! 我が王のもとに行きたければ、私を打倒して行きなさい」

 ここ数百年、何度同じ言葉を口にしただろうか?

 そして、フレットが再び魔法を行使するのだった。

 両の手に炎のグローブ。魔石がつけてあるベルトをして足元にも炎のシューズを履く。

 その姿は、挑戦者を待ち受けるチャンピオンの姿。

 幾年月を経ても尚、衰えない筋肉を見せながらリングから勇者ちょうせんしゃを見下ろしている。


「さあ! この城に入場したくば私を殺して入りなさい!」

 優しさを見せた少年が、覚悟を決めた目をしてリングに入ってくる。

「今代の勇者よ。先ずは名前を聞きましょう」

「……」

「なるほど、良い名前ですね」

 顔だちも髪の色も違うのに、どことなくアーリンを思い出す面影を携えた少年。

 きっと、この少年も仲間内でなら年のころにふさわしい笑顔を見せるのだろう。

 だが、どうだ。

 覚悟を決めた彼の顔は。

 何とも凛々しい、良い表情をするではないか。

 こんな不毛な戦いにあって、他人を気遣い説得を試みるなんて。

 優しく、そして勇敢な少年。

 まさしく勇者のそのものだ。

 

 だからこそ、フレットは思うのだ。

 こんなことに巻き込んでしまって申し訳が無いと。

 自分たちの望みのために、こんなに若い命を危険にさらしてしまうなんて。

 だが、それでもなおこの戦いは必要なのだ。

 さあ、あの時の誓いのためにゴングを鳴らそう。

 自分と同胞、そして彼らのために。

「炎の大精霊よ!! 我らが願いを、どうか聞き届け給え!!」

 フレットは目の前の敵に向かって、走り出すのだった。

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