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51話 「精霊様」

「行ってみますか?」

「え?」

「精霊様のところに」

「いいのか?」

 アーリンはゴブリンたちの顔を交互に見る。

 村長は複雑そうな顔をしているが、門番と呼ばれた方は妙に明るい。

 その違いを見て、ようやくアーリンも違和感に気が付く。

 アーリンの知る、あの大精霊の姿。

 あれをそうと知らず見てしまえば、間違いなく神の姿そのものだ。

 恐らく、村長の表情を見るにこの地のゴブリンの信仰の対象になっているのだろう。

 だから、このゴブリンたちの祖先は祠を造り崇めたはず。それが今も脈々と受け継がれているから、トラブルの絶えない人種との境界線に居座っているのだろう。

 近隣との密約をかわし、不可侵を貫いてまで。

 そうなると、近隣の村々がその密約を守っていることにも説明が出来てしまう気がする。

 

 時として、大精霊の力は周辺住民の理解の外から降り注ぐ天災になりうる。

 そんな土地に人種ではない者が住み着くのを、本来なら良しとしないはずなのだ。

 実りをわけのわからない者と分け合うほど、この土地は裕福ではない。

 ではなぜか?

 たぶん、彼らゴブリンは周辺住民にとって生贄なのだ。

 何か、大精霊の機嫌を損ねた時に捧げられてしまう、そんな存在。

 だから、トラブルの元になりうるコブリンにも目をつぶるし、こんな近所に村を構えていても襲ってはこない。

 そう考えれば、村長の態度が普通に感じる。

 気軽に大精霊の元に、ヒトを連れていこうとする、この門番の言動の方が怪しい。

 普通で考えれば、この門番の言葉には何か裏があると考えた方が安全なはずだ。

 だがしかし、アーリンの眼には門番の言葉に一切の害悪を見ることができない。

 その視線にも、言葉にも、いわゆる親切心から来る言葉しかない。

 何よりも、門番の言葉に村長が不快を示しているのに、言葉には出さない。

 もしかすると、腕力だけではなく発言力さえも門番の方が強いのかもしれない。

 こんな年若いゴブリンの言葉が?

 

「わかった。行こう」

「ちょっと、アーリン!」

「大丈夫、大丈夫だよ。……きっと」

 アーリンの眼には姉弟子の肩に器用に乗りながら寝ているハクの姿がある。

 ハクの様子は、現状に対して全く警戒していない。

 ならば、この門番の言葉は大精霊にとって気にかけるほどのことではないということになる。




 翌日、アーリンたちは門番に連れられ山道を歩いて、山の中腹まで来ていた。

 そしてそれは見えてきた。暗い木々を抜け、日の当たる場所につくられた大きな石を積み上げた柱のような建造物。それがいくつも建てられ、一つの洞穴を飾り付けている。

「ここです」

 門番ゴブリンは、アーリンたちを洞穴へと誘う。

 マーファはその光景すら疑ってしまう。

 確かに村長と門番のいうことは正しいのかもしれない。ここに大精霊がいるというのも、この柱の並び方、そして高さが真実なのだろうと思わせる。

 だが、門番を含めて何も説明していない。

 村長と門番の関係は? 門番と大精霊との関係は? なにより、何をもってして門番などと呼ばれているのか? それがはっきりしない門番ゴブリンの誘いは、マーファにとっては罠へと誘う狡猾な詐欺師の姿に見える。

 マーファは警戒を隠しもしないで、自分の武器へと闘気を流し始める。

 だが、アーリンはその目でここに大精霊がいることが確認できてた。

 万素(ばんそ)を洞穴が呼吸のように吸い込み、吐きだしている。

 こんな動きは初めてみる光景だ。

 この世の誰もこんなにも大々的に万素を動かすのを見たことがない。

 それこそが、大精霊がそこにいることの証明。

 そして、その場に気軽にヒトを招き、自分も気安く立ち寄るこの門番の姿。

 それで、アーリンはだいたいの見当がついた気がした。

 

 あの村長と門番の不思議な関係性。

 腕力だけではなく、権力まで門番が上位者のようにふるまう態度が。

 彼が門番として守っているのは、ここなのだ。

 彼があの村の最高権力者以上の振舞いをするのは、大精霊の代弁者を担っているからなのだろう。

 それならば納得ができると、アーリンは全くの無警戒で門番のあとをついていく。

 マーファの前を行く、ハクも前の二人同様無警戒で洞穴へと入っていく。

 一人緊張した様子のマーファは、臨戦態勢を崩さず洞穴を覗き込み、意を決したように足を踏み入れる。


 アーリンたちが洞穴に入って行くのを、見つめる影が一つあった。

 周囲の草木をなぎ倒しながら、四本の足を慎重に進める巨体が。

 その巨体がゆっくりと、アーリンたちの入っていった洞穴へと近寄っていた。

 周囲を警戒するように、それでも周りに生えている草木すら憎らしいとでも言うようになぎ倒しながら、一歩また一歩と洞穴へと近寄っている。

 大きな四本の足でゆっくりと、目に写った生ある者に向かって。

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