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50話 「強きもの」

「いやぁ~、まだ吐き気がしますよ」

「そんなこと言ったら、俺はまだ鼻血出てるけどね」

 さっきまで戦っていた二人は、笑い合いながら肩を並べて森を歩いている。

 そして、その二人の周りをコブリンたちが入れ替わりながらはしゃいでいる。

 まるで二人の健闘をたたえているかのようだ。

 そんな光景にマーファは不可解な視線を投げている。

「ねぇ? ハク。私の感性がおかしいのかな?」

「キュゥゥ」

 ハクもマーファの言葉に同意するように首を振っている。

 おかしいのは、貴女じゃない。おかしいのはアイツらのほうよ。

 そんな視線を投げている。


「さあ、着きましたよ。我らが村です」

 簡素な建物が並ぶ、お世辞にも立派とはいいがたい村の光景。

 だが、そこにいる村人であるゴブリンたちの表情は明るく見える。

 コブリンたちと一緒に汗を流す、農夫風のゴブリン。

 村の女と一緒に、植物の繊維を編んでいる小さなコブリンたち。

「いい村だな」

「でしょう? さあ、こちらです。是非村長むらおさに会ってあげてください」

 勝負に負けたゴブリンは、勝者のアーリンを丁寧に案内している。

 時々、マーファの……いや、ハクの様子も視界に入れながら。

 マーファは少しだけ不思議に思うのだ。

 確かにハクは、大精霊の依り代。ハクの中にいる大精霊は、荘厳な見た目で大きな力を持っていると言われても納得ができる。

 だが、今のハクは人に付き従う白い狐でしかない。

 なのに、なんでゴブリンの強者はあんなにも警戒しているいのだろうか?

 あのゴブリンのハクに向ける視線。アーリンの眼には、いったいどんな風に見えているのか?

 それに、あのゴブリンは確かに言った。

 ハクを指して『力の強い者』と。

 それを感じること、それが最大の疑問なのだ。


「村長! 友好的な強者が村に来ましたよ。あいさつしてください」

「おお! 門番殿。そちらが強きものですか」

「ええ、私を倒す程の強きものです」

 マーファの疑問はさらに深まる。

 年老いた村長と呼ばれたゴブリンと、あの若い門番と呼ばれたゴブリンの、双方の態度の差。

 何より、先ほど入ってきた村の入口。

 確かに門はあった。そしてそれを守る彼よりも若い門番もいた。

 なのに、その若い門番を見向きもしない。自分の部下であろう若者を目にも入れない。

 どこかおかしい。

 マーファの警戒心が引き上げられる。

「強き人よ、歓迎します」

 村長が自分たちに頭を下げる。

 膝をつき、手のひらを上にして。全く敵意が無いと示す行動は、人種のそれに似ている。

 しかし、その村長の眼には警戒も混じっているのをアーリンには見えていた。

 最大戦力である門番で止められないアーリンがいるのだから、仕方がないとは思う。

 しかしながら、最大の警戒が向いているのはハクのようだ。

 アーリンは感じていた。

 この敵意が無いと示す行動。これは自分には向いていないということを。

 もしかすると……。

「もしかして、あんたたち……ハクが何者か、知ってるのか?」

「ええ、精霊ですよね」

 門番が応えた。

 おそらく、エルフの従える精霊のことではない。

 あの大精霊のことを指していることは、明白だった。


 門番の答えを受けても、アーリンの警戒心は少しも反応しない。

 それは門番や村長の声に、一切の敵意などの負の感情が見えないからだろう。

 もし、ハクがその力を暴走させて自分たちを害してきたらなど、全く考慮しない姿は大精霊の力をよく知っているかのようだ。

「あんたら、大精霊を知っているのか?」

 それは知識を問うた言葉ではない。

 この地に存在をしているのかを問うた言葉。

「ええ。あの山が、霊峰と呼ばれる由縁です」

「いるんだな?」

「我らが祖先が作りし、祠に」

 これで納得したのは、アーリンだけだった。

 精霊の存在、いや、大精霊の存在を知っている。

 ならば、ハクを警戒する理由もわかる。

 おおよそ、人の力の外にある大精霊の力。

 それを知っているなら、依り代の中にいる大精霊の力を警戒するのは当たり前だ。

 しかし、警戒していても大精霊の起こす災害は神の代弁のようなモノ。

 それに畏れはあっても、怒りも何もない。

 だって、その中心にいるならもう生きてはいない可能性のほうが高いのだから。

 アーリンは納得してしまう。


 だが、マーファの疑問は少しも晴れてはいなかった。

 大精霊の存在。

 それを知っていたのなら、警戒することはわかる。

 ただその存在を感知できた、この門番と呼ばれるゴブリン。

 もしかすると、アーリンの眼のような何かを持っているのではないか。マーファは警戒心を最大に上げる。

 周囲に悟られないように、自分の武器に闘気を流し込んで。

 そんなマーファの行動をハクは優しくたしなめる。

 たしなめると言うか、マーファの頬を舐めあげる。

「っひゃ!」

 緊迫した空気の中で、場違いな声を上げたマーファに注目が集まる。

 赤くなったマーファには、もうこっそり闘気を扱うことは出なかった。

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