46話「すぐに行こう」
アーリンたちが街を去ってから数十年の時が経った。
今日は王都で盛大なパレードがもようされる。
主賓はルーディッヒ・フォン・ランスリッター勲功爵。
彼の功績は極めて大きい。彼が平民であったころ街のならず者を従え原野を走り回り、そこに巣食う怪異となった生物を調査・討伐を行ったのが始まりだった。
その活動は次第に広がりを見せ、多くの無辜の人々を救いだした。
そして一つの街で行われていたそれは国中へと広まり、国外まで波及する勢いで人々へと認知されていった。
怪異となった生き物は次第に魔物と呼ばれ、それら未知の魔物を狩ることを生業とする者たちのことも冒険者と呼ぶようになっていった。
そして未知へと挑む冒険者の数が増えるとそれを取りまとめる組織が必要になってくる。
始まりの冒険者であるルーディッヒを長として、急拡大していったその組織『狩人育成協会』通称冒険者協会は目覚ましい功績を挙げていった。
そしてその功績からルーディッヒは平民から召し上げられ、爵位を得てからも冒険者の育成と魔物の討伐に人生を捧げることになった。
そして今日、ルーディッヒ・フォン・ランスリッターは狩人育成協会の長を辞することとなる。
寄る年波に勝つことができず、若い冒険者たちに道を譲ることにした。
その旨を国王に願い出ると、こうして盛大な引退式を執り行ってもらうこととなったのだった。
街は一目人民救済に人生を捧げた英雄の花道を見ようと、近隣の街だけでなく隣国からも押し寄せた人々によってあふれていた。
ああ、人々が笑って過ごしているというのは何とも感慨深いものがある。
最初は、……そう、ただの恐怖からだった。
あのイノシシの魔物の頭蓋。アレを見たときに言い知れぬ恐怖が私を襲った。
笑い合い、時に争うそんな平和な日常のすぐ隣にあんな化け物がいる。
そしてその化け物を排除できる人間を自分の失態で失ってしまったという恐怖。
守ってくれる人がいない。例えるなら親を失った幼子のような圧倒的な恐怖だった。
そして自分の代わりに私に人々を守れとでもいうようなあの視線。
動いていなければ、走り続けなければ押しつぶされそうになる。
そんな焦燥感を抱きながら、自分にできることをしてきたつもりだった。
野山を走り回り、見つけた魔物から息をひそめて観察し人を集めて犠牲を出しながらも1匹1匹苦労を重ねながら倒していったら犠牲を超える協力者が増えていった。
そうして魔物の生態を、行動理由を丹念に調査・分析していたら周囲の人々が自分たちを頼ってきてくれるようになった。
仲間はもっと増えていき、組織として動けるようになると魔物に苦しんでいる人がさらに私たちを頼るようになっていった。
そうしていくうちに貴族が支援をしてくれ、国が支援をするようになり、報告などで城に出入りするようになり、気が付いたら貴族の仲間入りをしていた。
人生とは何が起きるかわからないものだ。
街で喧嘩に明け暮れていた、素行の悪いチンピラが貴族となり、人々に英雄だなんて呼ばれる様になるんだから。
もしあの時彼に道を正してもらえなかったら、私はどうなっていたのだろうか?
もしあの時あの頭蓋を見なかったら、いや、目を背けていたらここにいる人々はどうなっていたのだろうか?
仲間たちに出会えなかったら、支援を申し出てくれた人たちに出会えなかったら。
考えるだけでも恐ろしい。
やはり彼との出会いは天啓であったのだろう。
ただただ何をなすべきか焦っていた時に、暴力に逃げていたあの時に。……彼に殴られたおかげでこうして人々に惜しまれながら隠居できるのだから。
それにしても未だに魔物が発生する理由はわからない。
後任に引き継いでみたが、日々の依頼の多さに手が回らないだろう。
私もそうだった。
狩人……いや、今は冒険者だったか。彼らの人数は増えたがどうしても手が回らない。
圧倒的な武力を持つ者が一人でも増えてくれれば、少しは楽になるのだろうが……。
やはりあの二人を探さなければなるまい。
私の目を覚ましてくれた、あの二人を。
もしあの二人がいてくれたら、そう考えない日はなかった。
……楽隠居とはいかないな。
私が彼らを見つけに行かなければ。
彼ら本人は無理でも彼らの技を受け継いでくれた誰かがいてくれれば。
彼らの消息は何度か探らせらことがあった。
しかしそのどれも西へ行ったところで消えてしまっている。
西と言えば霊峰と名高いフォーシード山か。
この年で山道は苦労するだろうが、何としても消息をつかまなければなるまい。
未だ魔物は増え続けているのだから。
……しかし、昔と今では魔物の討伐も様変わりしたものだ。
近年に出回り始めた『魔法』という、まるでエルフの精霊術のような技のおかげで冒険者たちのケガも減ってきている。
いったいあんなモノを誰が持ち込んだのだろうか?
あれが出回り始めてすぐに、西の霊峰の先、果ての荒野で国が興ったとも聞いた。
国王陛下に聞いてもはぐらされていたが、もしやあの国が関わっているのだろうか?
同じ西に行くのだ。それもまた心に留めておくとしよう。
そういえばなんという国だったか? 神聖……王国だったか?
亜人たちがまとまって国を興し、人種の新入を病的なまでに拒んでいるとも聞いた。
そのせいか、国境付近では剣呑な雰囲気だとか。
いったい西では何が起きているのか。
どうかあの二人とその後継が無事でいることを願おう。
「ランスリッター卿、お時間です」
「わかった。すぐに行こう」
そうだ、すぐに行かなければ。
……西へ。




