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42話「ごめんね」

「信じられない、本っ当っっに! 信じられない!」

「いやいや、さっきまで俺がなにやってたか見てませんでした? あの大きさの猪解体してたんだよ? 薪なんて集めてる訳ないじゃん」

 アーリンが解体を終える頃には、周囲は薄暗く移動をするには難しい時刻となっていた。

 しかし、長旅初心者の二人はどの程度で野宿を決断するなどのノウハウを持ち合わせてはいなかった。

 結果互いを非難しながら、後れ馳せながら野営の準備を進めていた。その間ハクは猪の大半を平らげ、今はデザート代わりに猪の骨を音を立てながら噛っている。


「これくらいでいいか。マハ姉ー! そっちはどう?」

「こっちも集まったー! 急いで火を着けましょう」

 アーリンがそれを聞き枝にナイフを当てて、枝の皮を剥ぎ揉み込んで火口を作っていく。それを見ていた姉弟子は不思議そうな声で問いかけてくる。

「アーリン? なにやってるの?」

「なにって、火を起こすのに火口が必要でしょ」

 なにも知らないんだな、困った姉弟子様だやれやれといった顔のアーリンに姉弟子はアーリンにとっては衝撃の一言を投げつける。

「精霊術か魔法で火を着ければいいでしょ? それに火起こしの道具なんて持ってきてないし」

「は?」

「だから、道具ないでしょ? 私は最初からそのつもりだったんだけど?」

 

 アーリンが精霊術を嫌悪しているのは、マーファとて知っている。しかしアーリンが自身の魔法すら嫌っているのは、今日初めて知ったのだ。

 なので今日は自分が精霊術で火を起こすつもりでいた。

「今日は私がやるけど、明日も野宿ならアーリンがお願いね」

「あのさ、マハ姉? 俺の話聞いてたよね?」

「うん、嫌いなのは分かったけど。必要なら使うわけでしょ? だから明日はお願いって言ったんだけど?」

 マーファはそれはそれこれはこれ、割りきって旅を優先しろと目と態度で伝えている。

「全然わかってないじゃん。魔法はエルフを相手にするときの切り札だったの。エルフに一泡ふかせた今、積極的に使う理由がないんだって。それを火付けに使え? なに? 久しぶりに本気の手合わせしたいの?」

「はぁ!? 子供じゃないんだから妥協しなさいって言ってるだけでしょ? わかんないの? なら、森に帰ってママの膝で寝てなさいよ」

 アーリンは小さく「殺すぞ」呟き、ゆっくりと立ち上がりマーファの方を向く。するとアーリンの目にはマーファの拳が広がっていた。

 布槍術ではなく拳で襲うほど姉弟子も過熱している。意見の違いは拳で通す、師匠の教えに忠実な二人。


 アーリンは迫る拳を上体を反らしながら避け、マーファの袖をつかみ姿勢を戻す。その勢いのまま逆の腕をマーファの後頭部を目掛けて振り抜く。

 マーファもアーリンの動きを読んでいたかのように頭を下げ、髪をかすめたアーリンの腕を掴む。

「放せ、クソガキ」

「お前こそ放せ、年増」

「綺麗なお姉さまだろ、マザコン」

「鏡見たことないのか、ブス」

 お互い子供のような悪口を言いながら、まるで子供のけんかのように見えるが、お互いの重心を崩そうとそれなりに高度な手業の応酬も同時に繰り広げている。

 精神年齢30代後半と実年齢30後半の高度な醜い争いは深夜まで続く。

 ハクは我関せずと早々に眠りについていた。


 翌日、空腹のまま体力を消耗した二人の足取りは重く、昨日の争いの後からさほど離れていない木陰でぐったりと腰を下ろすことになる。

「……こうしましょ、火の回りのことはわたしが精霊術でやるからそのことに文句は言わないで。狩りとか採集はアーリンがやる。わたしもそのことには一切不満は言わない。これでどう?」

「それでいこう。……もうこんな無駄な争いはこれっきりにしよう」

 そのまま二人は疲れ切って、一日をそのまま睡眠にあてる。

 ハクは二人を餌に自分の食い扶持を調達しながら夜を明かすことになった。


 夜が明けるとハクの不満をぶつけられ、二人は再びハクの餌の調達に奔走する羽目になる。

 遅々として進まない旅ではある。

 だかナメクジに等しい歩みであっても前には進む。ようやく新しい街がアーリンたちの目に写る距離となった。

「やっとついた」

「でも今日中には無理ね、もう少し行って準備を始めましょ」

「うへぇ、まだ野宿かぁ~」


 二人と一匹は街道脇の開けた場所でいそいそと野営の準備を始める。

「アーリン、物見台から見えるところにかがり火お願いしていい?」

 街に近い場所で野宿する場合、守衛に位置を知らせて害意の無いことを伝えるのが慣例と〇〇は言う。

「よく知ってるな」

「伊達に外で暮らしてないわけだよ、アーリン君」

 得意満面なマーファに素直に関心するアーリンの顔が直ぐに曇る。

「……えないんだけど」

「え? なにか言った?」

 渋い顔をしながらマーファから目をそらすアーリン。

「俺……火の魔法使えないんだけど……」


 マーファはアーリンの言葉を理解できないように繰り返す。

「火の魔法が? 使えない? どういうこと?」

「いや、火を出す感覚ってのがさっぱりなんだ……」

「アーリン、あなたね! ~~!! ……火は私の管轄だった。 わかった、食料お願い」

「マハ姉、なんかごめんね」

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