41話「嫌いだ」
「どう? もういいんじゃない?」
「まだまだ。ほら、あそこの3匹」
「はいはい」
振り向き様にアーリンは矢を3射放つ。
木の枝に当たった獲物が、激しく音を立てながら地面に落ちていく。
地面に転がっているのは二羽の鳥。暖かい陽気のわりに丸々とした喰いでのある、見事な鳥が転がっている。
「アーリン、貴方下手になった?」
「ひどっ! 一人で頑張ってる弟弟子にキツくない? 手伝ってくれてもいいじゃん!」
アーリンはかれこれ2時間ほど、一人で狩りをしている。
二人旅であればとても消費出来ないほどの成果を挙げている。
しかしハクは足りないと納得しない。しかもマーファは一切手を貸す素振りを見せない。それどころか獲物の回収やモツヌキすら手を出すこともない。
「街でハクの面倒を一人で見ていた姉弟子に、まだ働けって言うの? ヒドイ弟弟子もいるのね、ねぇハク?」
「キュー! キュー!」
ハクもハクでアーリンの裾を引いて、まるで早くしろとせっついているようだ。
「わかったよ。……それにしても大食いになるっていってもほどがあるぞ、鳥じゃ賄えないな」
目に写る鳥という鳥を打ち落としている。その量は鳥たちの生息域を奪うのかと言われるぐらいの成果だが。
しかしハクの食欲が衰える様子は未だに見えてこない。
とてもじゃないが鳥だけては無理だと、アーリンは大型獣を求めて藪漕ぎに切り替えていく。
ハクもアーリン後を早く食べ物を寄越せと追いかける。
「意外とぬけてるよね」
マーファは気がついていたにも関わらず、助言すらしなかったらしい。本当に手伝う気がないようだ。
藪漕ぎを初めてすぐにアーリンは異変に気がついた。
(大型どころか小型の獣すらいない。……これ、もしかしたら)
アーリンの不安は的中する。
「フゴー! フゴー!」
やけに興奮した異様に大きいイノシシが、モシャモシャとなにかを咀嚼しているところに出くわす。
イノシシの足元に転がっている鹿とおぼしき物体も、異様な程大きな角を持っていたようだ。
周りの木々は軒並みなぎ倒され、地面も黒々とした土がむき出しとなっている。まるで大規模な開墾をしているかのような有り様だ。
よく見ればイノシシの泥の鎧は一部が削ぎ落とされている。
二頭の激しい争いがあったのが容易に想像できる。
「こりゃすごい。石持ちか……ハク、アレでもいいか?」
ハクは仕方がないと頷く。ハクは鳥の口になっていたのかもしれない。
同意が得られたアーリンは久々に弓を全力で引き絞る。
放たれた矢はイノシシの頭の急所目掛けて真っ直ぐに飛んでいく。
サクッと短い音を立てただけでイノシシの注意を自分に向けさせただけ。
食事を邪魔されたからなのか、それとも自分の縄張りに命あるものがいる不快感か、はたまたその両方か、イノシシはアーリンを明確に敵と認識している。
「やっぱり下手になってる、アレ相手に弓は効かないでしょ」
弓自体ではなく闘い方が雑になっていると、マーファは指摘していたようだ。
「ハク、姉弟子が厳しいよ……でも、言われてもしたかたないか、っな!」
突進してきた巨猪を避け、壁のような腹にアーリンの拳が振るわれる。
ギャリンと鉄をこすった様な音があたりに木霊する。
「固ったー! まさに鎧だ」
「拳が柔らかくなっちゃたんじゃない?」
マーファは布を高い木の枝にかけてぶら下がり、アーリンの戦いを眺めて呆れたように嘆息する。
「石持ち相手に拳はやっぱり効かないか、なら!」
『神の名と革命者たる我は願う、命の根源よ! 祖はすべてを押し流す荒れ狂う暴威の化身よ! 我が前に力の一端を! 我、望むは石穿つ槍!』
アーリンの目の前に水の塊が現れ、膨れ上がっていく。
「水槍連弾!」
アーリンは大地を蹴り、渾身の拳を水の塊に繰り出す。
弾けた水の塊は4つに別れ、形を変えて巨猪へと襲いかかる。
4つの水の槍は、アーリンを追撃するため木々をなぎ倒しながら方向転換をしていた巨猪の腹をえぐり、黒い大地へ縫い止めた。
巨猪の四肢が土を大量にかき出すように踠く。
しかしその巨体はまったく動き出す様子もなく、腹を縫い止めている水の槍は赤黒く染まっていく。
「これで血抜きと腸の洗浄が一緒に済むから食べる量増えるぞ、ハク……いった!」
ハクはアーリンの差し出した手をかむ。手抜きをするなと若干お怒りのようだ。
「食べれればいいじゃん! 獣なんだし!」
ハクの牙がアーリンの頭皮に刺さる。大精霊の自我のあるハクの逆鱗に触れたようだ。
「アーリン、貴方なんで最初から魔法使わないの? 下手したら死んじゃうよ」
姉弟子のあきれ顔にアーリンは冷たい目を向けて告白する。
「精霊術に似てる魔法を俺が好き好んで使うと思う?」
「でも……」
「今回は仕方なしで使ったけど、使いたくて使った訳じゃないよ。……俺は精霊術も魔法も嫌いだ」




