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37話「にぃ?」

 王家との夕食。それはマーファにとっては緊張という味しか感じなかった。

 しかしアーリンにとっては、またとない収穫であった。

 年上の王子二人、年下の王子と姫様。その双方ともに自分たちに興味を示し、友好的であった。

(だとすると、やっぱりこの眼のせいか)

 自分の最大の武器である眼、万能眼がもたらす弊害というモノを確認できた。

 王との話の中に生きていれば、自分と同い年になるはずだった王子がいた事を知るとそれは確信となる。

 ならばと、アーリンは自分が答えを得たという確信は悟られないよう深く胸の中に沈める。

 

「お待ちください、もう少しお話を聞かせてもらってもいいでしょうか?」

 10歳になる王子が、アーリンとマーファを呼び止める。

 用意された部屋の直ぐ近く、不思議なくらい誰の気配も視線もない。

 アーリンは辟易とした表情のマーファを先に部屋に戻すと、幼い王子と共に城のテラスにむかう。

 何かを確信しているような幼い瞳。それをどう言いくるめるのかアーリンの頭の中はフル回転している。

 日の落ちたテラスには、かがり火がたかれていた。

 そのかがり火が夜の深さを強調している。

 案内されたテラスには、先客がいた。

 幼い姫を抱えた年上の王子二人。

 手を引かれながら、アーリンは二人の王子に会釈をする。

 気が付いた王子二人も、同じ様にアーリンに会釈をかえす。


「聞きたいことがあるのです」

 幼い王子は、年長の二人の王子のことを意にも介さず自身の確信を口にするのだ。

「あなたは、私の兄さまですよね? なぜエルフの里にいたんですか?」

 あまりにも率直な質問に、どう答えていいものか迷うアーリン。

 視線を年長者に向けても答えをくれはしなかった。

「殿下。仮にわたしがあなたのご兄弟だとして、この眼を持つわたしが王家の利益になるでしょうか?」

「なります! 素晴らしいではないですか」

 眼の話をした際、一番目を輝かせたのはこの幼い王子だった。

 精霊とはどんな姿をしているのか、アーリン眼に世界がどう映っているのか興味を強く示していた。

 しかし、アーリンは具体的には答えはしなかった。

 その目に映る物が、必ずしも綺麗ではないことを伝えるのは憚れたからだ。

 

 素晴らしいとほめてくれるのは、正直にうれしい。

 だがしかし、利益かと考えればそうでないことをアーリンは知っている。

 それを伝えてもいいのもか。思案していると年長者たちは優しくうなずく。

「……いいですか、殿下。人は特異なものを見つけた際、最初に行うのは必ず排除なのです」

 そしてアーリンは思いつく限りの不利益を列挙する。

 虚空を見上げる王子の姿を見た臣民の抱くであろう心情と、それを見た反応。

 そして王家という権威の失墜につながるであろう可能性とその後に起きる事件の可能性。

「なので、仮にわたしがあなたのご兄弟であることは、大変な危険を抱える事もあるのです。なのでそのようなことはこの場以外では言わないほうが賢明かと思います」

「……ですが!!」

「そして、そのような親しみを持っていただけて大変光栄なのですが、私はあなたがたのご兄弟ではないのです。第三王子がご逝去なされたのはこの国に周知された事実。王家が発した事実にほかなりません」

 幼い王子に納得してもらうには、時間がかかるだろう。

 しかし納得してもらわないと困る。

 なぜなら、アーリンの旅はまだ始まってもいないのだから。

 留め置かれる時間は、世界の崩壊にもかかわる。

 しかし血には抗えず、うつむいた幼い王子の頭をなでる。


「だそうだ、もう寝る時間だ。ほら我らが妹もこのありさまだ」

 王子の手の中にいた姫は、いつのまにか夢の中に旅立っている。

 アーリンが覗き込むとそこには、愛らしさの塊が眼をこすっている。

「ここにいてはお風邪を召してしまいそうですね。おやすみなさいませ」

 そういいながら、愛しい妹だったかもしれない少女の頬をなでる。

「にぃ?」

 幼い少女の手は、アーリンの袖を強く握っていた。

 アーリンはそれをそっと外して、王子たちと別れたのだった。


 ◇ ◇ ◇ 


 翌朝、アーリンたちは王家の見送りを経て王都へと移動していた。

 旅に必要なものをあれこれと物色している。

 飲食物に調味料、それらはアーリンの前世の記憶は役に立たない。

「んーと、単調な味だけじゃ飽きちゃうから……これもちょうだい!」

「あいよ!」

 今マーファが購入した調味料、アーリンの眼には虹色のトウモロコシに見える。前世の記憶をたどるとそれでポップコーンを作っていた動画を思い出す。

 だが、これが調味料だというのだから異世界とは恐ろしい。

 先ほど、マーファの言葉を疑い赤い実を一粒口に入れたところ、火を噴くがごとく大声を上げ、しかも店主や通行人に世間知らずのレッテルを張られることになった。

「あ~、まだ辛い」

「ふふ、だから一かじりって言ったでしょ。まったく世間知らずなんだから」

「しょうがないだろ、義母さんは使ってなかったんだから」

 アーリンの現在の記憶では、香辛料の類は見知ったものに見えていた。だが、ここにきてそうではなかったのかもしれないと思いなおす。


「それはそうと、あれ献上しちゃってよかったの?」

「ああ、あれで周囲に警戒しないといけなくなるだろうからね」

 城を後にする際、アーリンは国王に大蛇の皮を渡してきた。

 大変な驚きようではあったが、それを渡した意味も理解してくれたと思うしかない。

 世界は変貌を始めているのだと。

 それまでの常識の外側に、世界は一歩踏み出しているのだと。


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