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34話「ハク」

 目的の王都目の前で、アーリンたちは野宿の準備をしていた。

 日は傾きいくつかの簡易的なかまどには火がともされている。

 4人の追いはぎが無抵抗に姿を現した後、アーリンは4人にとある作業を手伝わせた。

 大蛇の解体。

 そして大蛇の犠牲者の埋葬だ。

 大蛇に飲まれた4人は、その腹の中で圧死しているのが確認された。幸い消化までは至らず消化液まみれの遺体を穴の中に埋葬する。

 そうしているうちに日が傾き、マーファの号令で野宿の準備が始まる。

「マハ姉、……それ食べるの?」

「だって、この子だけじゃ食べきれないでしょ」

 大蛇をブツ切りにしているマーファに、アーリンが声をかける。

 その横で盛大に尻尾を振りながら、行儀よく鎮座している白い狐がいた。

 

 最初マーファは怯えながら、白い狐に対し「大人しくそこにいなさい」と虚勢を張りながら強気で命令を与えた。

 白い狐はその言葉を忠実に守り、空腹の切ない声を漏らしながら今か今かと蛇の肉を待っている。

 その白い狐の態度は、マーファの中にあった肉食目の、あの狂暴な狐の記憶を若干ではあるが和らげる。

「この子……ねえ、アーリン。そろそろ名前つけてあげたら?」

 マーファは小さくそう訴えた。

 マーファの中で、ようやくともに旅をするという芽生えが生まれたのだった。

「名前ね……どうしようか、……そうだなシロなんてどう?」

 アーリンは前世で白い犬に最も多いであろう毛色から付けた名前を挙げる。

 すると、意図したことがバレたのか狐は獰猛な声で抗議を始める。

「気に入らないみたいよ?」

「ん~、これじゃないなら……ビャクかハクは?」

 どっちにしろ色から連想される名前に変わりないのだが、狐の声は小さくなっていく。

「ビャク」

 ツンとした表情のまま返事はない。

「ハク」

 キャンと明るい返事が聞こえる。


「じゃあ、お前はこれから『ハク』な」

 焚き火に照らされ明るい空気が、2人と1匹をつつんでいる。

 それとは対照的に、4人の追いはぎたち、元追いはぎの4人は暗い表情のまま切り分け与えられた蛇肉を食べられるように調理していた。

 これが自分たちの最期の晩餐。

 見事な、身の毛もよだつ大蛇ではあったが、所詮は蛇肉。

 こんなものが自分たちが最後に口にするものなのか、口には出さないが皆そう感じている。

 しかし、それも仕方がない。

 自分たちの行っていた行為は、罪なのだ。

 こうなることはどこかで理解していた。

 それを見ようとはしなかったが、確かに知っていたのだ。

 許されざる行為であると。

 生い立ちやどうしようもない立場を理由に暴れまわってはいたが、それがそれは言い訳であると。

 しかしそれを、安易な逃げだと理解しながらも仲間と共にする高揚感には抗えなかった。

 その報いを受ける時が来たのだと。


 出来た料理をそれぞれ口に運ぶ。

 白い獣は大量に焼かれた蛇肉を全身で味わっている。

 唸り声を挙げているが、それは歓喜の声。

 静かな闇の中、歓喜の声と木皿の音だけが夜の闇に響いていた。

 わずかな塩味と野草の味が広がる質素なスープ。

 そして塩を振られ焼かれただけの蛇肉。

 もくもくと咀嚼される音の中に、不意に鼻をすする音が混じる。それは連鎖的に広がり次第に嗚咽へと変わる。

 4人には鉄の味が加わった、何とも塩辛い食事であった。


 最後の晩餐を終えた4人にアーリンの声がかかる。

「で? あんたらこれからどうするんだ?」

 これから……その言葉の意味が一瞬4人には理解できない、全く新しい言葉のように聞こえる。

「……これから?」

「ああ、どうする?」

 4人は顔を見まわし、なにが起きているのか確かめ合う。

 しかしそこに答えはない。

 皆何が起こるのか理解できていない顔をしている。

 エルフ耳の少女は少年の言葉に呆れた表情をしているだけだ。

「泣くほど後悔してるんだろ? だったらこれからどうする?」

 4人の顔には流れたまま乾いた涙の痕が残っていた。


 アーリンはイケると感じていた。

 正直人を殺す術を身に付けているとはいえ、実際に奪う心構えはできていなかった。

 きっと仕方がない理由で殺し合いになるなら、相手の命を結果的に奪うことになるときは来るだろう。

 けど、大の大人が涙を流した後に、無抵抗に命を奪う作業はできないと。

 この世界の基準で言えば甘いのだろう。

 しかし、もし万が一奪い損ねた、逃げられた後今度は自分が狙われるのでは?

 なら、この状況を利用してどこか目の届かない場所に行ってくれれば当面の安心を得られるのではないだろうか?

 そんな淡い期待と自己保身の両得を狙いに行った。

「けど、俺たちは晒し首になる他道がない」

 大丈夫、彼らは罪の意識を感じている。

 追い込まなければ、暴発はしない。

 するとしても、自分たちはその時は街の中だ。

「あんたらは、今日あの瞬間に死んだんだ。なら生まれ変わって生きることもできるだろ」

 表情には出さず、真面目な表情を崩さない。

 きっと、焚き火の明かりが厳格な雰囲気を演出してくれる。

 しんみりとした空気でなら、言葉で押し切れる。


「例えばどこかの森とか、林を切り開いて人が住めるようにする。そんな偉業をなした人間が過去になにか後ろめたいものがあったとして、誰が責める? 脛に傷を持つ人間を受け入れながら人に迷惑をかけない。そんな風にできた街があっても誰も困らないと思うんだけど」

 めちゃくちゃで性急な話しだ。

 しかしどうにか自分には敵意がないと理解してもらい、そして自分への敵意を手放してもらわないといけない。

 そんな消極的で壮大な話は、夜の間繰り返し行われることになる。

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