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2話「生き抜く」

(それで、特別な力って?)

「うーん、何がいいかなって思ったんだけど」

 神様は今から赴く世界の話をし始めた。

 その世界は所謂ヒトだけが存在する世界ではなく、人に似た種族も存在する世界だという。

 魔法といわれるものはないが、それに似た技術を使う種族もいて都市国家を形成する程度には発展している世界だ。見た目の違いから多少の小ぜり合はあるものの互いの生存域は守られている。

 他種族を極端に迫害するわけでもなく、それなりの距離感を保って成長してきた世界だという。

「ただし、科学技術なんて期待しないでね。アレは君たちの世界だから均衡が保たれてるんだよ」

 上手くいかなかったっけなぁ~などとぼやき始める神。

「まあ、多少はあるよ。多少はね」


「早い話がアレさ、ファンタジーな世界? あれだと思って」

(うわぁ、神様が絶対出しちゃいけない単語で説明してきた)

 まあ、魔法はないんだけどねなどと笑っている神様の横で、光の玉はこれまで以上に暗くなっていく。

(本当にダメな神様が運営してるんだな)

 そう思わずにはいられなかった。

「そんな世界だから、特別って言ってもね。魔法があれば楽だったんだけど」

 と、思案顔を続ける神は何かを思い出したように勢いよく顔を上げる。

「そうだ、あれがいい! うん、これしかない!!」


「君みたいな子には世界のすべてを見てもらって、何ができるか考えてもらった方がいいと思うんだ! だからあの世界のすべてを見る権利を上げよう! そうだな、名付けるなら『万能眼(ばんのうがん)』ってところかな」

(……考えるのめんどくさくなった?)

「い、嫌だな。そんなわけないじゃない」

 光の玉から目をそらしながら、神はあからさまな白々しさをにじませている。

(世界に刺激を与えてくれって、あなたが頼んだんですよね? なら、指標になるようなものがあってもいいんじゃないですかね? 自分で見て考えてって、それって丸投げって言いませんか?)

「指標ならあるじゃないか! 社会に貢献してって。……! それにほら、レールを敷いてその上を走らせるだけじゃ、十分な刺激にならないじゃない! うん、そうだよ」

(それ、今思いつきましたよね?)


 そんなことはないと言い張る神は、強引に説得にかかる。

「とにかく! 世界を見て何をするのかを自分で決める。これに勝る満足感はないでしょ! そう、未来は君の手の中にしかないんだから!!」

(口調次第で意味合いが随分と変わるな)

 反論を聞かないふりをして、神は両手を大きく広げ神妙な顔を精一杯作りながら祝福の言葉を紡ぐ。

「君の未来に幸多からんことを」


 光の玉はさらなる光に包まれていく。

 そのまま場所を移し、新しい生が始まるんだと思わせる。

 しかし、認識する光景は変わることなく目の前の髪を映している。

「あ、あれ? やだな。そんな簡単に戻ってこないでよ。仕方がない、サービスでもう一回ね」

 そう神は言いながら、再び光が発せられる。

 それでも光の玉が認識する光景は変わらない。

(? ……何も起きないけど?)

「いや、そんなことはない。確かに君は二度転生した。でも、どうしてだ? 生まれて早々に死んでしまうなんて?」


 神はあり得ないと表情で語っている。

「も、もう一度だ」

 同じことが繰り返される。

「お、おかしいよ! なんで? 保険のために生まれまで変えたのに! あり得ない!」

 動揺を隠せない神に、光の玉にも不安が募る。

(ね、ねえ? 何が起きてるのか、そろそろ教えて貰える?)

「言った通りさ! 僕にだってわからないよ。生まれも時間も変えたのに。生まれた直後に君は殺されてる。そう、自然死なんかじゃない。明確な意図で殺されてる」

(殺される? なんで? ただの赤ん坊をか?)

「ああ、おかしい。そもそもなんでわかる? 君を狙って殺すなんてできっこない! ……いや、もしかしたら」

 何かに思い当たった神は、中空をにらみ眼球のみを忙しなく動かしている。

 そうして、何かを見つけたのか大きく目を見開き、顔をゆがめる。


「やっぱり、やっぱりだ! どこのだれかは知らないけど。この僕に戦争を仕掛けてきたやつがいる」

(戦争?)

「ああ! ほかの神が世界を成長させないために、邪魔をしてるんだ」

 世界に介入するもうひと柱の神。しかもそれは悪意を持って世界を押しとどめ、世界自ら成長を求めて動き出すのを狙っているようだ。

 時に世界そのものが破滅する可能性を秘めた天災を引き起こすために。

「なんてタイミング悪い。でもこれで、君への指標を与えることができる。生きるんだ。何が何でも。生きて生きて生き抜いて、介入してる神の鼻を明かしてくれ!」

(生きる?)

「ああ、生きるんだ! これほど君を狙うのは君が生きていたら介入している神に都合が悪いからだ。逆に言えば君が生きているだけで、世界は何かしらの刺激を受けるってことだ。だから、どこまでもしぶとく、惨めでも生き抜け!」


 再び光が発せられる。

「あんまり好ましくはないけど、とある筋に君の保護を依頼しておく。そこで力を蓄えるんだ」

(……チカラ?)

「そうだ、どんなものでもいい。生き抜くすべを身に着けるんだ。もう僕のほうには君に使える祝福はそう残っていない。だから、自分の力で生き抜くんだ」


 そうして光の玉は神の下から消えていく。

 安堵の表情を浮かべた神は、先ほどまでいた魂に向けて呟く。

「……すまない」

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