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25話「俺が行くよ」

「もう少し、あなたとの時間を楽しみたかったけど……」

 そう言って、水の大精霊は初めてその表情を暗くする。 

「何か……なにか手はないのか? 万素を回復する手立ては?」

 万素が少なくなったなら、増やせばいい。

 確かにそれしかない。

 しかし、水の大精霊の首は横に振られる。


「万素がどうして少なくなってるのか、それすらわからないのに?」

 少なくなった原因、それがわかれば手立てもあるかもしれない。

 しかし、水の大精霊の知識を持ってしてもそれは分かってないらしい。

 だから、自分は消えるしかないのだと。

「あなたが消えたら、世界はどうなる?」

 神が世界を創造した当初から、神に創造され世界と共にあった存在。

 その水の大精霊がいなくなったら、少なからず影響はあるだろう。

 そして被害が少ないとは、誰にも言えない。

 水の大精霊でさえも。


 アーリンの脳裏には、一つ直接的な原因でないにしろ関係している可能性大な存在が浮かぶ。

 侵攻してきたというもう一柱の神の存在だ。

 どこに潜んでいるかもわからない、何をしているのかさえ分からない神の存在。

 その神が原因である可能性は確かに高い。

 世界を破滅に追い込み、世界の有する力を我が物とすることで、侵攻は完了する。

 ならば、世界と共にあるはずの大精霊を害するのは意味があると思ってもいいだろう。

 

「侵攻してきた神様を、見つけたらなにかわかるかもしれない」

 アーリンは確信めいた口調で、それを口にした。

 しかし、それが何を意味するのか大精霊も理解している。

「神様との約束は? あなたが生き抜かないと結局は同じよ?」

 そう、現状わかっていることは、アーリンの死ですら世界にとっては致命的になり得る可能性を秘めている。

 敵対する神様が、執拗にアーリンの転生先を潰したのも侵攻が理由と考えられる。

 であるなら、アーリンが直接敵対する神と対峙するのは、世界にとって有用とは言えない。

 むしろ、逆の要素になる可能性のほうが高い。

 神にとって世界を害するより、人を害する方が簡単であろう。

 そんなことは、アーリンにも理解ができている。

 しかし、大精霊と言葉を通じ、神の姿を知っていて、原因を知ることができる人物。それもアーリン以外には現状いないというのも事実だった。

 

 世界と敵対していようが神は神。

 他人がその姿を誤認する可能性がある以上、アーリン自身が赴かないと自体の打破にはつながらない。

 この世の神を騙られたら、大義は向こうに取られてしまうのだから。

 だからこそ、自分で行かないといけない。

 他人には任せることはできない。

「やっぱり俺が行くよ、俺じゃなきゃダメだ」

 アーリンの眼は揺るがなかった。

 そして自分が行く以上、確かめないといけないことがある。

「どのくらい時間は残ってる?」

 そう、猶予の時間だ。

 

 世界の終わりかもしれない、その時間。水の大精霊の消失までの。

 それを知らずにいて、タイムアップは意味がない。

「長くないのは事実よ、でも正確には……」

「……そうか」

 長くない、その言葉は大精霊と人種のアーリンとでは大きな開きがある。

 もしかしたら、すぐ近くかもしれないし、アーリンの寿命のはるか先かもしれない。

 確実に言えるのは、この時以降は全部が危ないということ。

「……確実じゃないけど、遅らせることはできるわ」

「本当に!?」

 多少でも遅らせることができるなら、手立てを講じる時間を確保できるかもしれない。

 そう思い表情を明るくしたアーリンが見たのは、大精霊の暗いままの表情だった。


「どちらにしても、こうして話すのはこれが最後になるわ」

 大精霊も意を決したように告げる。

「それって……」

「憑依するの、人以外の何かに。そうすれば栄養自体は経口に置き換えることができる。けど、それをしらたその依り代が死ぬまでわたしは出てこれないわ。それとその依り代はもう自然ではいられない、同族の寿命をはるかに超えることになるはず」

「……どのくらい?」

「そうね、エルフと同じぐらいは生きることになる思うわ。しかも大喰らいの化け物に見られるでしょうね」

 そもそも万素を一番取り込みやすいのは、大精霊だ。

 空気中から取り込み、空気中へと排泄する。

 むしろ大精霊自体も万素であると言い換えてもいいかもしれない。

 

 栄養としながらも、その総量を変えることなく還すのだから。

「だから、物から取り込もうと思えば含有量の関係で消費も多くなるし、自然なら生態系も無事じゃなくなるわね」

 増えた消費は、千年以上続く。

 だが、今一番延命できる唯一の方法でもある。

「それで行こう。生態系なんていずれ崩れて、新しく均衡するものだ」

 もちろん、意図して崩していいものではない。

 しかし、世界との天秤だと考えれば?

 比べるわけもない。

 

 神様の勝手で世界を乱されているんだから、それを救う手立ての一助にするなら悪い取引でもないだろうと、アーリンは結論付ける。

 どちらにしろ、望む結果以外は世界の破滅なのだから。

 それを個人で決めていいのか? 

 アーリンは嘯く、変革者なのだから。

 この世界の神様が勝つための手段の一つなのだからと。

 やらせるわけにもいかない、自分も世界も。


 大精霊との別れは、アーリンの成人の儀の後ということにした。

 そして別れは、大精霊とだけではない。

 里との別れも、養母との別れも同じ時とした。

 それ以降は、旅になる。

 当てもない、まだ見ぬ神様を探す旅路。

 ただ里を離れると口にしたアーリンの心は、少しだけ軽くなるのを感じていた。

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