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21話「必殺技」

 アーリンの手には、鈍く光る石があった。

 そして初めて魔法らしい魔法が発現したのだった。

 手にしたのは確かに偶然、だが魔法については偶然として片付けることができない。

 万能眼のチャンネルを変えながら、その石がなんであるのかアーリンは、必死に探っていく。

 いくつかチャンネルを変えたところで立ち上る何かを捉える。

「これか?」

 アーリンはそのチャンネルのまま、石に顔を寄せて立ち上る何かを見ていく。


「くっさ! なにこれ? くっさ!」

 アーリンは泉で手を洗い自分に不快なにおいが移っていないのを確認する。

 先ほど見たのは、なるほど臭気であったようだ。

 よく見れば地面からも木々からも似たようなものが出ている。

 ただしそれは先ほどとは違い、見るからに清涼をうかがわせる。

 木々と石を見比べれば、よくぞあんな禍々しいものに顔を近づけられたなと思う。

「ねえ、そこわたしの住処でもあるんだけど?」

「しょうがないだろ、これじゃ手も洗えない」

 そういって、やはりつま楊枝しかない自身の魔法を確認するように大精霊にも見せる。

「でも……さっき……?」

「ああ、多分これのせい。……これなんだと思う?」


 大精霊によれば、それはあの狐のように異常をきたした獣の体内から見つけたという。

「……あのへんな所から見つけたのよねぇ」

 あのへんな所。

 流れから言えば、狐の心臓の下部に付いていたこぶの中から見つけたということになる。

 大精霊にもわからない、謎の臓器の中から。

「それってほかの動物にもあったってことだよな?」

「ええ、例外なくすべて、ね」

「例外なく……か」

 それはおかしい。アーリンはそう思わざるを得なかった。

 通常食性によって、内臓機能は変化するのが動物というモノだ。

 例えば草食の動物には胆嚢が無かったり、胃袋が複数あったりという内臓に特徴的な変化を持つ。

 それは口にするものから効率的にエネルギーに変換するための当然の進化。

 人間を基準にすれば、欠けたり増えたりするのが当たり前なのだ。


 それが例外もなく全ての動物にあるなら人間にも例外でなく、なくてはならない臓器であるはず。

「ちなみにだけど、人間にそんな行動は出るのかな?」

「ん~、わたしが知ってる中ではないと思うけど」

 大精霊も知らないことがある。

 大精霊の知覚も万能ではないのだろうと、アーリンはそう結論付ける。

 そうなると、あの石に対する不気味さは増していく。

 だが、魔法の向上には多分なくてはならないものだという予感も同時に増していく。

 神様が言った、この世界には魔法がないと。

 似たモノはある、そう言っていたがそれは精霊術や大精霊が使うものだろう。

 ならば神様でさえ知らない可能性のあるこの石が、この世界になかった新しい技術の誕生に関与できる可能性は大きいのではないだろうか?

 

 臭気も相まって禍々しく見えるそれを再び手にするアーリン。

 何度も大きな水の塊を作り出しては、その中で石を洗う。

 そう何度でも再現できる。

 この石があれば魔法の使用が可能であることはこうして証明できた。

 魔物のような存在から入手できるこの石を、アーリンは魔石と名付けた。

「これ、もらっていいかな?」

「別にいいけど、大丈夫かしら?」

「わからないけど」

 そう、わからない。これが何であるのか、どのような成り立ちなのか分らない。

 ただ魔法に必要な何かであることは分かっている。

 アーリンの考えでは、世界は変革に必要なものが必要とするところに刺激として送り込まれる。

 ならば、この魔石も世界がもたらした悪戯の一種なんだろう。

 だからありがたく使わせてもらう。

 そしてめまいが起こる寸前まで、魔法の手ごたえを確かめていた。


 ◇ ◇ ◇


「ねえ、最近何やってるの?」

 ある時姉弟子であるマーファからアーリンに問いが投げられた。

 自分たちに隠れて森の奥に入っているのがマーファにとっては疑問だった。

 確かにそれなりの時間は経過したが、あの異様な雰囲気をまとった獣と遭遇した森の奥に死闘を繰り広げたであろう本人が、無警戒で乗り込む姿は異常行動以外の何物でもなかった。

 アーリンの異常性を疑うマーファが見ても、それは大変に異常に見える。

 まるで森に対する恐怖が皆無であるかのように映る。

 アーリンにとっては、あの遭遇は事故のようなもので大精霊が異常をきたした獣を排除している森は里にいる以上に安全なのだが、それを知らないマーファにとっては当然の疑問だ。

「あー、うんとね。必殺技の訓練かな?」

「必殺技? なにそれ?」

 アーリンたちが修練している武術、盾拳は師匠のアルテアが考案した武術でどれも最終的には敵を死に至らしめるための手段だ。

 要するにすべてが必殺を目標にしている。

 なのにさらに必殺を求める?

 マーファの疑念はさらに強くなっていく。


「だ、だってさ、マハ姉はそれ使い始めたじゃん? なら俺もさ、新しいこと考えないと、ね?」

 マーファは自分の手にある布に目をやる。

 叔父に渡された母愛用の武器だ。

 布槍術(ふそうじゅつ)。 

 布に闘気を流し槍に剣に変化させて戦うマーファの新しい牙だ。

 もちろん刃のついている本物よりは劣るが、その場の状況に応じて変化させることができる強みがあった。

 母が使っていた武器ということで、ひときわ愛着をもって修練も行っている。

 そのせいか、アーリンと自分の実力差にまた新し距離が生まれた。

 なら、アーリンの言うことも理解はできる。

 でも、素直に受け止められないのはアーリン自身に対する疑問のせいだろうか?

「じゃあ、確かめてもいい?」

 マーファはアーリンに対して構えをとる。拳を交えればアーリンの言葉を補強できるのではないか? と。


 アーリンは非常に焦っていた。

 口から出まかせを言ったら、それを確かめさせろと言われたのだから焦るのも無理がない。

 確かに魔法という新しい武器の調達は行っていた。

 だが、それを見せても良いものか。

 幸いにして、魔石自体は身に着けているから魔法の行使はできる。

 だが魔法の存在が知れれば、魔石はおろか大精霊の存在も魔物のようなあの獣のことも話さないといけない。

 ともすれば、自分の生い立ちすら説明しなくてはいけないかもしれない。

 自分が転生者であると。

 

 ただでさえ、里において奇異の眼で見られる自分がそんなことを口にすれば、姉弟子であってもそうならない保証はない。

 養母と師匠を除くとまともに会話できる唯一の存在である姉弟子に、里の者のような目を向けられることに耐えることができるかどうか。

 話の伝わりによっては、養母も師匠ですら失う可能性もある。

 なんとしてもこの場を取り繕う必要があった。

 アーリンは脂汗をにじませながら、ゆっくりと構えをとる。

 

 二人は緊張に包まれていく。

 種類は全く違う緊張が、二人を覆っていく。

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