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20話「なんだ、これ?」

 世に魔法が出て数日。

 アーリンは未だにつま楊枝より大きな創造物を創れないでいた。

 何よりアーリンが使える時間はそれほど多くはない。

 子供の身体という制限は、抗いがたく成人していればできるであろう無理すらできないでいた。

 要するに成長に伴う睡眠欲の充足には勝てないでいた。

 早朝に起きるという習慣にはなれたものの、武術の修練の時間を削ることができない。

 そして養母の精霊術講座をやめることができないでいた。

 今もってわからない言葉との格闘は、苦痛ではある。それをやめようかとそれとなく切り出したこともあった。

 しかし養母の見せる悲し気な表情に負けて、今も一日の数時間を精霊術に使わないといけないのであった。


 その中で何とか無理をしたうえで、捻出した時間を使いエルフの里から少し離れた水の大精霊の泉まで走り、そこで進まない魔法を産み出す作業を行うのであった。

「~~!! なんで? なんでできないんだ?」

 何度もなんども世界に対してお願いしてみても、世界からの返答は変わらなかった。

 つま楊枝サイズの水の創造物。球状にしてみても辛うじて見える程度の水滴が宙に浮いている程度。

 対してアーリンが感じる負荷は相当である。

 2・3回行うと息が切れ、それ以上行えば膝が笑う。

 下手をすればそのまま数時間の強制睡眠におちいる始末。

 そうなればアーリンにとって、恐怖の夜の森を通って帰ることになる。


 そもそも里の近くでやればいいのでは? と、アーリン自身も考えたことがあったが、里の近くでは妨害行為が多く集中すらできない。

 しかも野良試合をする羽目になり、魔法どころではない。

 多少のリスクはあっても、泉に行く方が結果的に時間を活用できることを理解しての行動だった。


「はぁ~、今日も変わらず……か」

 ガクガクと言うことの聞かない足で体を支えるのをあきらめ、地面に座り込むアーリン。

 するとそれを狙ったかのように、近くの茂みからアーリンめがけて飛び込んでくる影が一つあった。

「わっと! なんだまたお前か、こいつ」

 茂みから飛び込んできたのは子ぎつねだった。

 尻尾を振りながら額をこれでもかとアーリンに何度もこすりつける。

 そのくせアーリンが伸ばした手は器用に避けていく。

 たまらずアーリンが捕まえて持ち上げると、高い声をあげて手に向かってあまがみを繰り返す。

 身をよじってアーリンの手から逃れると、座ったままのアーリンの背中に乗って甘えるような姿になる。

 アーリンがこうして泉まで来る一つの理由になりつつある。

 

 何のかんの言って、こうして遠慮無用でじゃれてくる存在はアーリンにとって代えがたいものであった。

「あら、また来たのね。おチビちゃん」

「キューン」

 なぜか子ぎつねにも大精霊の姿と声は聞こえているようで、一通りアーリンの背中と楽しむと今度は水の大精霊の創り出す水の遊び道具にとびかかっていく。

「……まったく」

 口角を緩ませながら、アーリンは子ぎつねと大精霊の遊びを眺めている。

 変幻自在の大精霊の水の創造物を見るのは、アーリンにとっていい教材に見える。

 生物のかたちをしたかと思えば、ボンボンのような形まで創り出し、しかもそれが子ぎつねにとって飛び掛からずにはいられないような動きも加えられている。

 手足のように思い通りに、そして自由な姿がそこにはあった。


 水の大聖霊や精霊術と自分。

 なぜこうも違うのだろうか?

 アーリン思考は次第に深みに潜っていく。

 何が違うのか。

 差異はどこにあるのか。

 視界を色々と変えながら、大精霊の手元から周囲に至るまで細かく観察をしていく。

 周囲の万素が水の大聖霊の体を通り、手元の水に変化を加えているのは分かる。

 しかし同じようにイメージしても、自分の体ではそれほど水の流れのように万素を扱えない。

 精霊術は正直今でも直視するのは嫌だが、似たような流れであることを確認はした。

 となると、体のつくりが万素の扱いに関係しているのかもしれない。


 もう一つ考えられるとすれば、アーリン自身が万素の扱いが下手だという可能性。

 闘気術は人種には扱えない?

 だが、師匠は人種の技法だと言ってた。

 となると、アーリン個人の問題となる。

 そうなると、エルフには……。


「キューン」

「いった! お前!」

 思案にふけっていたアーリンに向かって、飛び込んできた子きつね。

 いつものように受け止めることができず、地面に倒されてしまう。

 まるで初めてか獲物を仕留めたと言わんばかりに、アーリンの上で跳ねまわる子きつね。小さな体とは言え、何度も落下を繰り返されればたまらない。

「ちょ、っ! お前なぁ!」

 アーリンはいつものように水球で鼻先を濡らしてやろうと呪文を唱える。

『神の名と変革者アーリンの名をもって万素に願い奉る。水の球を我が前に!』

 そういつも通りに唱える。

 結果もいつも通り……のはずだった。

 

 アーリンの水球は、子きつねの鼻先どころか全身を覆う。

 子きつねの口から空気の塊が吐き出される。

 とっさに水球を弾けさせるよう念じる。

 それに応えるように水球は弾け、アーリンの服を濡らす。

 子きつねは水の大精霊のもとに走り寄り、体についた水を必死に振るって落としている。どうやら無事なようだ。


「なんで?」

 自分の周囲を見回す。

 何があったのか? 何が起きたのか?

 そして、その手に握ったモノに気が付く。

「……なんだ、これ?」

 アーリンの手には、一握りの石がある。

 鈍く光るひとつの石が。

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