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1話「君は僕たちの目に留まった」

 白い空間を漂う光の玉が一つ浮かんでいる。

 それはまるで意思があるかのように、周囲を警戒しているように思える動きをしている。

 いや、それには確かに人の意志があった。

 上下もわからない空間で、必死に自分の置かれた状況を把握しようと努めていた。

(……ここは? 俺はいったい?)

 必死に考えてみたが、置かれた状況に思い当たるが一つあった。

 しかし、それはあっては欲しくはない状況といえる。

(まさか、神様の空間だとでも? だとしたら、俺、死……いや、だって俺は!)

「『まだ、何もしてない』かな?」


 振り向くと、そこには男が佇んでいた。

 ゆったりと座っている。何もない空間に腰を置いて。

「やあ、ようこそ。君のような人の魂を待っていたんだ」

 優し気に微笑むその顔は、中性的で特徴らしい特徴さえ見当たらない。

 だが、なぜか重くのしかかるような存在感だけは十分に感じられた。

(あなたは? まさか)

「そう、そのまさか。神様というやつだね」

 

 光球は思った。

 まさか、本当に自分を神様だって言うやつに遭遇するなんて。

 こいつが何者だとしても、何を言っても信用しないほうがいい、と。

「あれ? なんで? 変にキャラ付けしないほうがそれっぽくない? だって急にこの顔立ちで関西弁とか話しだしたら200%やばい奴だと思うでしょ!」

(やっぱり、さっそくボロが出始めたな)

「いや、ボロとかじゃなくって! ……やっぱり先輩の言うことが正しかった? いや、そんなことない」


 咳ばらいを一つして、勝手に仕切り直しをして自称神は話をし始める。

「残念ながら、君は死んでしまった。あまり若いとは言えないけど、周囲の人はまだ若いのにと嘆いてくれてたね。君の感じる無念は相当なものだと思う。けど、残念ながら本当に死んでしまったんだ」

 一度は頭によぎった状況だが、突きつけられる現実としては受け入れがたい。

 心に否定の言葉が並んでいく。

 何より、自分は何もしていないという言葉が多く並べられる。

「そう、君は何もなしえなかった。歴史に名前を残すことも次代に紡ぐことも、そればかりか自分にとっての掛け替えのないものすら見つけることすらできなかった。もしかしたら先にはあったのかもしれないという希望だけが残った」

 ぎくりとした。

 まるで自分の一生と自分の頭の中を覗き見られたかのような不快感だった。


 男は光の玉の動揺を読み取ると、にこりと目元を崩す。

「だからこそ、君は僕たちの目に留まった」

(僕たち?)

「そう、世界を創造し運営している僕たち神と呼ばれる種族にね」

 男は光の玉が動揺が収まる前に、なぜに答え始める。

「世界って言うのはね、簡単に言ってしまえば……とびきり気難しい女性と一緒さ。常に刺激に飢えていて僕らに何かないのかと無茶ぶりをする。それに応えないと予想外のしっぺ返しをする極上の気難しさを持っていてね。例えばとんでもない災害を起こしたり、それに匹敵する人物を産み出したりする。ある程度成熟した社会なら、それに対するワクチンみたいなものが出てくるんだよ。そうではないときはその災害たちは、魔王なんて呼ばれることもある。そうなったら社会では対応できないから、僕たちが抗体的なものを作って送り出すんだ。……でも、それが毎回うまくいくわけじゃない。そうなると、世界は自家中毒みたいなことになって最悪滅んでしまう」

 男は、昔にひどい目にあったと苦笑いを浮かべている。

「だから、対応可能な範囲で刺激してあげるようになったんだ。世界の不満がくすぶり始めたときにそれに見合った刺激をね。世界が喜ぶ傾向は色々あるけど、その時栄えてる種族の社会が変化するのが受け入れやすいみたいでね、でもそうそう社会って言うのは変化してくれないのさ」

 そして光の玉を指さし、言葉を続ける。

「なら、その世界より先を行ってる世界の子供を送り込むのが手っ取り早いとは思わないかい? 個人の不自由を打開したいって気持ちは、意外と馬鹿にできない。その世界に間違いなく適度な刺激を与えてくれるだろうってね」


 男はそこまで言うと、今度は両手を上げて顔を伏せながら再び話し出す。

「でもさ、誰でも彼でも送ればいいってものじゃないみたいなんだよね。適応力優先だと意外と保守的で刺激になる前に社会に埋もれたり、かといって不満が強いとその子供が魔王なんてことになりかねないし。意外と人選が難しいんだ」

 再び顔を上げて、手のひらを光の玉に向けてやけに芝居がかった口調が続く。

「そこで、君みたいな適度に不満があって順応性の高い子は僕たち神にとっては貴重なのさ。まあ、あくまでも経験則だから実際行ってもらわないとわからないんだけど」

(でも、俺は……なにも)

「そう! それさ。何もできなかったっていう心残りを持ってるからこそ、どうにか何かしようって気概がある。しかも世界を壊すほど大それたことを起こせる気概はない。何せ君の名前を語り継ぐ人々がいなかったら何もやってないのと変わらない。功名心と社会規範のバランスがいい」


 ほめられたとすんなり受け止められない誉められ方をされて、困惑している光の玉を置いて自称神はさらに芝居に傾倒していく。

「適度な刺激を受けた世界は満足して、大人しく君の行く末を見守るだろう。そして私も安心して社会と世界を見守っていける。そして君は自分の心の安定を手に入れる。誰も損をしない素晴らしい案だと思わないかい? 控えめに言って完璧だろう」

(うわぁ)

 光の玉に若干の陰りが見える。

 簡単に言うと、ドン引きである。


「あ、でもでも君みたいな子って特別な何かがないと行動に移さないって傾向もあってね。あげるよ、特別な力。だからさ、お願い! 手伝って」

(神様の頭って軽いんだな)

 自分より低くなった神様の頭を見ながら、光の玉は思った。

 この神様の運営している世界って、大丈夫なんだろうかと。

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