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18話「……なんなのそれ」

 今後の方針が決まったので、とりあえずアーリンは師匠たちと合流することにした。

「また来ますね」

 水の大精霊にそう言い、立ち去ろうとすると水の大精霊に串刺しにされた異形の狐が目に留まる。

 自分が見たあの闘気の循環。

 それが思い出され、頭から離れない。

 子ぎつねの前でそれをするのは、少々心が痛む気はするが確かめないといけない気がしてならない。

 

 恐る恐る近づき、解体用に渡されていたナイフを狐に当てる。

 毛皮をはいで、ろっ骨を断ち切り胸を開く。

 確かに止まっていた心臓の周辺で、闘気を循環させていたように見えたその場所を実際に確かめたかった。

 開いてみた胸部には、前世の記憶にもないある臓器にくぎ付けとなる。

 心臓のすぐ下に、見たことのない臓器があった。

 

「……なんなのそれ」

 覗き込んでいた水の大精霊もおもわず呟いてしまう姿を見るに、そんなものがあることは子の世界であっても異様であることがわかる。

 最初は胆嚢がそこにあるのではないかと、アーリンは考えた。

 しかし肝臓の下に確かに胆嚢はあり、謎の臓器は肝臓とはつながってないので胆嚢ではないと見てわかるよになっている。

 ならばこの臓器は?

 何と呼ぶべきなのか分らないが、これがあの異形の姿の元凶であるのは水の大精霊の反応を見ても明らかだった。

 

 もしかしてと思い、水の大精霊に疑問を投げる。

「万素でできた可能性は?」

 水の大精霊は即座に返答をくれた。

「そんなことはあり得ない」

 まあそうだとろうとアーリンも考えてはいた。

 水の大精霊がどれくらいを最近といっているかは知らないが、あのような行動を見せる動物が現れたのは最近といっていたのだから。

 万素が原因であれば、少なくとも万素と共に生きていた大精霊がこれを知らないことが不自然だ。

 そしてあの神様が、創造した世界にこんなものを仕込むようにも思えなかった。

 ならば、世界そのものが?

 それも可能性は低いように思える。


 神様は世界が暴走しないようにと、アーリンを送り込んでいる。

 ならば、アーリンがこの世界に降り立つ前にも世界に先んじて何者かを送り込んでいるはず。

 その証拠に神様はアーリンを送り込むときに暴走しているとは言わなかった。

 だとすると?

 考えられる可能性が、アーリンには心当たりがあった。

「戦争を仕掛けている神様か?」

 故意に世界の暴走を引き起こし、世界に混乱を与えようとする見たこともない神様。

 それが影響しているのでは?

 そう考えるのが自然な気がしてならない。

 

 自分にとっても、世界にとっても死神となりうる可能性のある危険な神の存在。

 その魔手が自分にとって、意外なほど身近に迫っていたのだ。

 そのことを思うと、奇妙なほど背中が寒く感じられる。

 そう思うと、この狐が途端に恐怖の対象のようにも思えてくる。

 アーリンはナイフを使って、深めに穴を掘り狐の遺骸を視界から消去する。

 自分からその存在を遠ざけるように。


 改めて水の大精霊に向かい、また来ると告げて森へと帰っていくアーリン。

 来た時とは違い、その足取りは重いものだった。


 しばらく森に対する警戒心を高めて、進んでいく。

 森に入った当初とは違い、そこが異形の住む世界のような錯覚に陥りながら恐怖心を押し殺しながらそれでも進むしかなかった。

 自分の踏み抜いた枝の音に体を震わせながら一人でいることの不安が生じた。


 ふいに近くの茂みが音を鳴らしながら揺れた。

 アーリンは恐怖心から素早く近くの木に飛び移り、その葉に身をひそめる。

 息を殺し、何者かがいるであろう茂みを凝視する。

 

 何も出てこないその茂みに、警戒心は最大限へと引き上げられていく。

 突如背中に軽い衝撃が襲ってきた。

 アーリンは無警戒であった後方からの衝撃に、それまで押し殺していた恐怖心が限界へと達し乗っていた枝から滑り落ちてしまう。

 受け身も取ることができず、足に走った衝撃に次の行動もとれず死を予感する。

 アーリンの肩に何者かの接触があった。

「ああああ!!」

 思わず恐怖が口からこぼれる。

 一度死んだと言われても、その瞬間を知らないアーリンは死の恐怖に耐性はない。

 純粋な恐怖がアーリンを支配していた。


「うるさい」

 そんな言葉と覚えのある頭への衝撃。

 アーリンが振り向くと、そこには慣れ親しんだ髭があった。

「……し、師匠」

「し、師匠じゃないわ! ……なんだお前、泣いてるのか?」

「だって! だって!!」

 ようやく恐怖心から解放され、アーリンの涙腺も解放されてしまった。

 音の鳴った茂みからは姉弟子であるマーファもその姿を見せていた。

 アーリンの見せる子供そのものの姿に、二人は思わず顔を見合わせる。

「アーリン……どうしたの?」

「……わからん」

 師匠であるアルテアはそんなに強く殴ったかと、自分のげんこつをみてから不思議そうにアーリンの顔を覗き込む。

 

 少女は少女で、あの狐がそんなに怖かったのかと思わず少年の頭に手を伸ばし慰める。

 森の中も暗くなりこれ以上の狩りは難しいだろうと、3人は未だに涙を流している少年を中心にエルフの里への帰路に就くのだった。

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