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17話「練習」

「魔法を創る!」

 そう宣言してはみたものの、いったいどうやって世界とやらに自分の意志を伝えるのか。

 そこが最大の疑問だ。

 アーリンにしてみれば、世界に意思があるとも思ってはいなかったし、その意志とやらがまるで人格をもって人々に影響を与えているとも思っていなかった。

 アーリンのなかで世界という一人格が、突如として現れたかのような奇妙な感覚であった。

 何より自分の目に映らないそれにどのように自分の意志を伝えるのか、その術を知らない。


 アーリンはひとまず目を閉じて、頭の中で架空の世界という人物を作り上げ心の中でその人物に魔法を使わせてくれと願った。

 どのような魔法がいいか思う悩み、近くにいる水の大精霊が見せた水の槍が出る様にと考える。

 どのように出て、どのような形だったか頭の中で映像を再現し何度もなんども繰り返し思い描く。

 完全に再現できたと思い、薄く目を開ける。

 自分の周囲にそれらしい魔法の痕跡が見当たらないと思うと、再びきつく目を閉じて映像の再現を繰り返す。

「駄目か」

 アーリンの行動に水の大精霊や子ぎつねも不思議そうな目を向けている。

 

「さっきから、何をやってるの?」

 水の大精霊も目を閉じては開くアーリンの行動に怪訝な表情を隠さず声をかける。

「何って、世界に魔法を使わせてくれってお願いしてるんですけど」

「ん~、お願いって口にしないと伝わらないと思うんだけど?」

 ああ、と納得を見せるアーリン。

 さっき自分で万素を聴覚器官だと考えていたことを思い出す。

 口で伝える。

 要するに呪文が必要なのかと考え、前世の創作物を思い出す。

 

『我変革者アーリンの名のもとに命ずる。万素よ、我が意をもって水の槍をここに!』

 森にアーリンの声が響き渡る。

 そしてアーリンの周囲には、沈黙だけがあった。

「駄目か」

「ねえ、あなたは初めてあった人のお願いが命令だったら従うの?」

 水の大精霊が少し不安げな表情で問いかける。

 どうやら変革者といえど、世界に対して命令はできないのだと理解する。

 ならばと、言葉を変え再び世界に訴えかける。

「どうかお願いします。下賤な私に力をお与えください。水の力を!」

 やはり声だけが木霊し、周囲には魔法の痕跡らしきものはなかった。

「そんなにへりくだらなくっていいと思うの」


 水の大精霊は少し可哀想なものを見るような目線を向ける。

 どんな言葉が適切なのかアーリンは頭を悩ませる。

 へりくだらずにお願いをする。

 命令にならないように、あくまでお願いというのはどんな言葉なのか?

 悩んだ末に、アーリンは一つの答えを見出した。

『神の名とその変革者を願い奉る。万素よ、水の槍を我が前に!』

 神様を出すことで、自分だけの言葉ではなく世界の運営者である神様もそれを望んでいるんだと訴えかける。

 本来なら名前を出す方がいいのだろうとアーリンは思ったが、そういえば自分を転生させた神の名前は知らないのだと思い出す。ならばとりあえず神様を知っているのだと、神様の使わせた者であると伝えてから願い出てみよう。

 要するに偉い人の威光を拝借しようという浅ましさがそこにはあった。


 しかし、それは正しかった。

 前に出した手に、つま楊枝程度ではあるが確かに水の造形物が現れたのだった。

「……うぉぉ!」

 初めてできたそれは、槍というには小さすぎる。

 だが、確かに精霊術に似た現象がそこにあった。

 アーリンの心はその小さな、だが確実にある成果に対し歓喜で満たされていた。

「できたみたいね。おめでとう!」

 水の大精霊もその小さな成果に、祝福を与えてくれた。

「ありがとう!」

 そう水の大精霊に返礼すると同時に、水の造形物は地面へと落ちていく。

 飛び跳ねるように喜ぶアーリンの周りで、子ぎつねも飛び跳ねて回っている。

 まるで子ぎつねも祝福してくれているかのようだ。

 ただし裾に牙を立てようとする様子も見えるので、きっと動くものに対するただの反応である可能性のほうが断然に高いようだ。


 しかし、アーリンにとってはそんなことは問題ではない。

 目に映った子ぎつねを抱きかかえ、回りながら喜びを共にしている。

 ひとしきり喜びを表現し終わると、再びアーリンは先ほどの造形物の再現を試みる。

 出ては消え、消えては現れる水のつま楊枝。

 何度もなんども同じ言葉を繰り返すその姿は、新しいおもちゃを手に入れた子供のようであった。

 いや、少なくとも姿かたちは子供そのものではあった。


 何度も繰り返していると、確かに楽しいのだが良く言えば小さな槍、端的に言えばつま楊枝でしかない水の造形物はそれ以上ではその姿を見せてはくれない。

 いつまで経ってもつま楊枝なのだ。

 喜びが最高潮を過ぎると、どうしても現実が見えてきてしまう。

 この小さなもので、エルフの精霊術と渡り合えるのだろうか? と。

 言葉にするまでもなく、無理である。

 彼らの精霊術は世代を重ねた技術であり、先人が丁寧に教えていることもあり子供であってもこんなに弱弱しいものではない。

 思い当たることは一つしかない。

 闘気術でも感じていた、万素の操作の練度がエルフより低いということだ。

 

 とはいえ、師匠の言葉を信じるのであれば人種とエルフで先天的な違いはないようだ。

 であるなら、アーリンが行うことはこれまた一つしかなかった。

「練習あるのみ……か」

 こうしてアーリンの日課はまたしても増えていく。

 

 ただ少しだけアーリンの悪戯心が刺激され、師匠と姉弟子にも内緒でこの新しい日課を行うことを決めたのだった。

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