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16話「魔法」

「なんて言いました?」

「だから、万素にお願いしてみたらって」

 聞き直してみては見たものの、やはりアーリンには理解が及ばなかった。

 そもそもお願いを聞き届ける聴覚器官があるのか? 大前提として意思があるんだろうか?

 もしお願いできたとして、一体全体……万素って何なのだろうか?

 そんな疑問でアーリンの頭は埋め尽くされていた。

「できるんですか? そんなこと」

 いろいろと意味を含ませた結果、言葉が探せず浮かんだとおりに言葉が口から洩れてしまう。

「できるんじゃない? だって、あなた変革者でしょ?」

「え?」

「だって、神様に世界に刺激を与えろって言われて、何をしてでも生きろって言われたのよね?」

「……はぁ」

「だったら変革者なんじゃないの?」


 じゃないの? と聞かれてもアーリンには何がなんなのかという表情を作ることしかできなかった。

 もちろん、アーリン自身も奇妙な表情を浮かべてしまっている自覚はあった。

 だが、この世界において変革者とやらがどのような意味で、どんな存在なのかわからないのだから仕方がないと割り切るしかなかった。

「ん~、神様に話は聞いたのよね? 神様と世界の関係」

「まあ、一応?」

「なら良いんじゃない? 好きにお願いしちゃって」

 と、結局理解できないまま最初の問答へと帰結してしまう。

 アーリンはそもそもそこら辺の事情をよく理解する前にこの世界に来たことを丁寧に説明する。

 そして加えて最も疑問な点を強調する。

「万素って結局なんなんですか?」


 万素というモノがわからないと、水の大精霊のお願いするという言葉に対して理解が及ばないことに、ようやく考えが追い付いたようだ。

「万素って言うのは、わたしたちの栄養であり、世界の意志に通ずるものなの」

 聞き方が悪かったのだろうかと、再度頭を悩ませる。

「もっと言うと、人々の想いをくみ取って世界に何が起きているか見せるための情報器官であり、文字通りすべてに通じる最小単位、世界が興味を示せばなんにでも変化してくれるの」

 アーリンは思った。

 この世界の言葉は難解すぎると。多分水の大精霊もわかりやすくかみ砕いて説明をしてくれているのだろう。

 だが、世界に興味を持たれるとか、世界を擬人化したかのような説明ではやはり理解ができない。

 この世界の住人と自分では、世界に対する世界観に相違があることに気が付く。


「例えば、こんなものあればいいなって考えるでしょ? けど技術も知識もないあなたにはそれは作り出せない。でもどこかの誰かがそれに似た発明をすることなかった?」

 なるほど。確かに電話が発明される以前にどこかの誰かが遠方の知人と遠出せずに話がしたいと願った可能性はあるだろう。

 それを世界がくみ取って、グラハム・ベルに何らかの刺激を与えて電話を開発させるに至った。

 そんなオカルトの中でも下の下ではあるが、それがまかり通る世界観であるとすれば?

 世界はすべての生き物と繋がり、世界の刺激に世界への刺激として返礼する。

 その刺激の伝達回路として万素があり、その伝達回路に直接働きかけを行える人物。

 それが変革者である。

 アーリンはそう理解することにした。

 というか、そうとしか理解ができなかった。


 そして精霊術のような現象を、万素に直接働きかけて行使すればいいのではないか。

 そう水の大精霊が言っているのだ。

 前世の記憶にあてはめ、それは何を意味するのかを言語化してみる。

「俺に『魔法』を創れって、そういうことですか?」

「『マホウ』が何を意味するか解らないけど、多分そう。あなたの意志を世界に伝えて生き延びる手はずを整えればいいのよ。ついでに世界に興味を持ってもらう。それなら神様の願いもかなえられると思うのだけど?」

 確かに神様も言っていたと、アーリンは思い出す。

 神様同士の戦争とやらに巻き込まれて、遠からず死に直面するような出来事が自分を襲うはず。

 その危機を乗り越えるために、何をしてでも生き残れと。

 自分の死という最悪を避けるために自分が魔法を創る。確かにそれは自分の身を守るために重要な手段になるかもしれない。

 だが、こうも思うのだった。

 それだけでは、足りないのではないか? と。


 今の自分がエルフとさえまともに戦える土俵にいないという事実。

 もしも、魔法が使えたなら……。

 目先の目標とその先の目標に必要なものは、一緒なのではないか?

 そして水の大精霊を信じるなら、その手段を手にする権利を自分が有しているのかもしれない。

 必要は発明の母という言葉も前世ではあった。

 ならば、産み出すという選択肢を選んでもいいのではないか?


「やってみます……魔法を、この世界に魔法を!」

 アーリンはザラリとした何かを心の奥に隠し、水の大精霊をしっかりと見てそう宣言したのだった。

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