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12話「すぐ戻るから」

 しばらく二人で獲物を狩って来いと、子供二人を森に投げ出し師匠たるアルテアは、木々の中に消えていった。

 アーリンが獲物を見つけマーファと交互に矢を放つ。

 闘気術も精霊術も忘れずに使い、それなりに獲物を得ることができるようになっていく。

 それでも子供の非力さでは、射程は限られている。

 獲物に近寄るために、藪を鳴らしてしまい逃げられることも少なくはなかった。

 自分で糧を得るという行為を前世でも経験していなかったアーリンは、狩猟のスリリングさと少なくない獲物にやや興奮気味に狩猟にのめりこんでいく。

 それとは反対に、マーファは集中力を欠くようになっていく。

 それは命のはかなさを感じて、手心が加わったわけではなく別のことへと意識を奪われているせいであった。


 藪の切れ間でアーリンは、見つけた獲物を指さし隣の少女へと合図を送る。

 しかしいつまで経っても矢は放たれなかった。

「おい、マハ姉。……おいってば!」

 声をかけても反応がないマーファの肩を揺らす、それに驚いて立ち上がってしまう。

 人の姿が突然現れたことに驚いて、獲物の鳥は慌てて羽を広げ飛び去って行く。

 アーリンは急ぎ弓を放つが、飛び立った後の鳥の全速力には到底及ばず矢は止まり木を超えて森の中に消えてしまう。

 こんなことが数度続けば、いくら精神が大人だと思っているアーリンでもついつい声が荒くなってしまう。

「マハ姉。何やってんだよ、さっきから」

 遥か年下のアーリンにとがめられたマーファも羞恥と怒りで、顔を赤らめて声を荒げる。

「わるかったわね! でもしょうがないでしょ!!」

 めったに口を開かないマーファの聞いたことのない大きな声に、アーリンは面食らってしまい言葉を失う。

 マーファも自分が悪いのは理解しているが、一回でも感情が言葉に乗ってしまえば、心の中の激情を抑えることはできず感情のまま年下のアーリンに言葉を投げつけてしまう。


「あんたはいいよね! 血がつながらなくってもお義母さんとの絆を感じられて! 優しいお義母さんと一緒に居られるんだから!! ……でも! ……でもわたしはここでも一人なの!!」

「……マハ姉」

 アーリンは初めて見たマーファの激しい感情に戸惑いを隠せないでいた。

 確かにその感情はアーリンの眼にはっきりと映っていた。

 いろいろな感情をかき混ぜた、はっきりと分けることのできない感情。

 一言一言に違う感情を乗せ、アーリンの眼には色とりどりの言葉が宙に舞っているように見える。

 自分のほうに飛んでくる言葉もあれば、力なく自身の足元に落ちていく言葉もある。

 これは会話ではないとようやく理解する。

 そしてこれが感情というモノなんだと、理解できる。


 マーファの母は、とてもきれいな女性だった。

 エルフの里に居てもきっと幸せな家庭を持つことができただろう。

 しかしその美しい女性は、里の男性陣には興味を示さず兄をまねて各地を放浪するようになった。

 ふらっと出ていったかと思えば、20年も帰らず出ていた時のように何事もなかったかのように帰ってくる。そんな生活をしていた。

 もちろん里の住人からすれば面白くはないだろう。

 自分たちに興味を示さないばかりか、里の仕事(そう多くはないのだが)もせずに遊び惚けているように見えるのだから。

 親しい友人もそれとなく注意はしてみるが、聞く耳を持たずまた旅に出てしまうなんてこともしばしばあった。

 長老衆もいい顔はしなかったが、なにより新緑の貴婦人と懇意であり、自身も里の中でも上位に位置する戦力ともなれば彼女への発言権など無いに等しい。

 加えて彼女の兄が破格の戦力ともなれば、当たり前の言葉が自分の首を絞める可能性もあった。


 しかしそんな彼女は、里を本当に出て行ってしまった。

 旅ではなく移住すると聞き、何人かはやめるように説得を試みた。

「私はかつての森も、今の森も興味がないの。私はこの世界にちゃんと根を張ろうと思う」

 そういって彼女は自分が住み着く場所を求めて行ってしまった。

 兄であるアルテアが、偶然彼女を見つけたときは人との子供を宿していた。

「お兄ちゃん。この子の父親はね、お兄ちゃんみたいな強さはないけど、ちゃんと強い男の人よ。この子は強い子になるわ」

 そう笑っていたという。

 兄は姪が生まれてからもたびたび訪れては、親子の元気な姿を確認していた。

 精霊術は使わず、人と同じ暮らしを何年か続けていた。

 ところが、あっという間に状況は変わってしまう。

 

 親子の住む村の近くで戦争が起こった。

 戦争の熱に充てられた群衆が、村を飲み込もうと押し寄せてきたのだ。

 軍という群れが、小さな村で行う行為はぞそう多くはない。

 略奪、殺戮。

 それを怯えた村の人たちは、こぞって近くの山や森に逃げ込んでいく。

 住みやすい村を捨てるのはつらいが、命のほうが大事だから。

 そんな中、だた一人マーファの母だけが軍隊に立ち向かっていった。

 娘に「すぐ戻るから」そう告げて。

 結果、村は形を残した。残したが娘を置いて立ち向かった母と、それを追っていった父が命を落とした。

 

 それを知った叔父が娘を保護し、エルフの里に連れてきたのだった。

 恩人の娘ではあるが、村では互いの時間が違う女の子にどう接していいのかわからず持て余して、叔父も叔父でやったことのない子育てと弟子の育成で十分に接することができないでいた。

 子供が孤独を理解するには十分な時間が過ぎていた。

 マーファは無口な性格ではなく、心を閉ざしていたのだった。

 周囲にはそれを知ることができなかった。

 今もマーファの心は、父母の帰りを待っていた。

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