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126話「なんで」

「んぐんぐ……っん! ハク、岩肌におかしな万素の流れがあるんだ。確認してくれるか?」

「……」

「ハク?」

 サソリの味見を終えたアーリンが戻ってくると、さっそくハクにも捜索に加わってほしいと話しかける。

 ハクは拗ねたようにアーリンから顔を背けて応えようとはしない。

「お前……もしかして独り占めできなかったからって拗ねてるわけじゃないよな?」

「……」

 まるでその通りだというようなハクの態度。

 アーリンはマーファに抱えられているハクに手を伸ばす。

「キュッ!」

 アーリンに触れられるとさっきまでの態度がウソのようにハクがアーリンの手にじゃれる。

「ハク、お前の身体は俺の手から逃れることはできないんだ」

 ハクはもともとエルフの森周辺に住み着いていた野生のキツネ。

 魔物化した同族に襲われ、アーリンに助けられたのをきっかけにアーリンに懐いた。

 そして、アーリンが成人し旅に出るまでの間、ともに遊び成長してきた仲なのだ。

 そんな最初の友達の琴線に触れる場所をアーリンが忘れるはずもないのだ。

「美味しい魔物もまずい魔物もともに分け合うのが、仲間だろう?」

 心とは裏腹にハクの身体は、久しぶりのアーリンの戯れに屈服している。


「それに……フレットが頑張ってるんだ。手伝ってやってくれないか?」

 そう、今回の探索で一番気合が入っているのがフレットなのだ。

 それはかつて師匠と仰いだヒトが世界に致命的な打撃を与えているかもしれない。

 そしてそれは、若かりし頃のフレットに止められた可能性があったという自覚が彼を責めている。

 長くそばにいた、ボクシングを教えてもらっていたあの時であれば、炎の大精霊を地底深くに追いやることは無かったのではないだろうかと、大精霊の守護者としても悔やんでいるのだ。

 それを口にするフレットではないが、アーリンたちはそれを感じている。

 そして思うだ。

 フレットがそこまで自分を責めることは無いと。

 特にアーリンはそう想う。


 そもそもアーリンがこの世界に来た時点で、この世界は得体の知れない神様からの攻撃を受けていた状態だったのだ。

 時を操る神様と世界に認識されている神様が、この状態になるまで気が付かなかった攻撃を受けていた。

 ならば、それはフレットの責任ではなくあの神様の責任だ。

 そしてその神様に気が付かれず、攻撃を進めてきた相手の神様を一枚上手だったと褒めるべき事案でもある。

 もちろん大元であると思われる、前任の変革者の企みを暴く必要があるし、それを阻止する必要もある。

 アーリンたちはこの世界が壊れていく事を良しとしないのだから当然の行動だ。

 そしてそれに賛同し、協力をしているフレット。

 責められるべきではないというのが、アーリンの答えだ。

「だから……そろそろ手伝ってくれないか?」

「キュ」

 水の大精霊であったハクもフレットに対する想いは一緒だ。

 もう返事をするようにアーリンの手から、問題の岩山へと歩き出す。


「ハクもダメか」

 ハクが問題の岩肌に到着しても何も起こる様子はない。

 流れ込んでいく万素をハクが奪い取ってみても岩肌自体に何も変化は見えない。

 いっその事、岩山ごと破壊してしまった方が速いのではないかとアーリンが決断を下す時だった。

「マハ姉、新しい魔石持て来てくれる?」

「そう言うと思って、ここに持っていてるわよ」

 そう言ってマーファが、一歩岩山に近づいたときにそれは起こった。

 いつもはマーファの近くに佇んでいる小精霊。

 マーファが精霊術を使う頻度が少なくなっても、マーファのそばを離れようとしなかった小精霊がマーファから離れていく。

 小さな精霊が、誘われるように岩肌へと飛んでいくのだ。

 まるで何かに操られているかのように。

「どうしたの?」

「精霊が、……小精霊がマハ姉から離れた」

「っえ!?」

 それは精霊術を知る者にとっては不思議な出来事だった。

 エルフの多くの者は小精霊を見ることもできない。それでも精霊術を行使できるという事実が、自分の周辺には精霊が離れずそこにいるという証になるのだ。

 実際、エルフの森での講義でも精霊は、エルフが生まれると同じ精霊が死ぬまで共にいると教えている。

 だから、マーファについている小精霊がマーファの元を離れると言うのはおかしい出来事なのだ。


 だが現実にアーリンの眼には小精霊がマーファより何もない岩肌に興味を向けている。

 そして万素の流れ込んでいる岩肌に小精霊の手が触れると、それは起きた。

 まるで小精霊を歓迎するかのように、閉ざされていた扉が開いたのだ。

 そう、扉は比喩ではなく実際に扉だった。

 明かな人工物なのだ。

 表面は天然の岩。

 だが、扉の内側は明らかな人工物だとわかる。

「……なんで」

 呆然としていたアーリンの口から漏れ出てしまった言葉。

 この場所は先代の変革者に由来する場所だ。

 それなのに、……エルフの小精霊がその扉を開けた。

 信じたくはない光景だった。


 いや、もしかしたらもうすでにアーリンのどこかの片隅では気が付いていたのかもしれない。

 なぜなら、師匠のアルテア・ポーラシュルテンは若いエルフの中で、実力者だと言われている瞬きのガーランドを派遣したのだから。

 瞬きのガーランドを派遣してでも、この地にある何かを得るつもりだったのだ。

 もちろん、ガーランドも小精霊を伴っている。

 そう考えれば、この地はエルフにゆかりのある人物が何かを隠している土地なのだとわかりそうなものだ。

「……っ。……行こう」

 扉の向こうには、地下へと続く階段が見える。

 暗く深い場所へとアーリンたちを誘う階段が。

 アーリンが知りたくないと反応してしまう、知らないといけない事実がそこにはある気がするのだから。

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