123話「一撃」
ガーランドの放つ変則的な抜刀術。
アーリンの眼にはどれも必殺足りうる斬撃。
それを繰り出されてなお、アーリンはまだ生きている。
ガーランドと対峙してからずっと感じていた、重苦しい圧力。
それが少しだけ、取り除かれていた。
そしてその心で見るガーランド構えは、何処かおかしい。
極端な前傾姿勢に戻ったガーランド。
アーリンが同じ姿勢をとっても恐らく踏ん張りがきかず、まともに前進すらできない。
何よりアーリンの遥か昔の記憶にある抜刀術とは、全く違う。
彼が帯剣するところを見たことがない。
常に利き手の逆、左手に握っているのだ。
聞きかじった記憶では、腰の展開と鞘走りで抜刀するのが通常なはず。
それなのに……。
「変位抜刀、地位……繚乱!」
まるで鞘を空中に固定するかのように抜刀するガーランド。
刀は地面を斬るかの如く低空から登っていく。
そして精霊術を利用して、登り切った刀はすさまじい速度でアーリンにむかって降り注ぐ。
アーリンは拳を振り上げながら刀の進行を阻害する。
だがアーリンが拳を振り下ろす前にガーランドの刀は遡上をはじめるだろう。
間に合わない。
そう判断したアーリンは、拳を振り上げたまま背撃を行う。
闘気の流動で重心を操作したアーリンの背撃はタメエモンのような巨体でも揺らすことができる。
まともに当たれば、勝負を決するダメージを与える。
だがアーリンの肩に冷たいものが当たる。
ガーランドの刀が、アーリンとガーランドの間にいたのだ。
アーリンの激しい踏み込みで威力を増した背撃は、ガーランドの身体を吹き飛ばす。
アーリンの肩、刃の触れた箇所が切れている。
薄皮一枚が斬られ、うっすらと血がにじんでいる。
しかし、それを気にしないアーリンはガーランドを睨む。
「とうとう一撃を喰らってしまったな」
嬉しそうに笑うガーランドが納刀する姿。
……おかしい。
何故か手順が多い気がする。
無意味そうに見えるかかとをそろえる動作や何故か鞘尻と呼ばれる先端を叩くような動作まで見える。
恐ろしく速い速度で行われるそれは、ガーランドの所作から流派によるモノだと理解はできる。
だが、抜刀して納刀するという一連の動作からかけ離れた動作のように見えるのだ。
それでも一連の動作をするガーランド姿は、どういうわけか様になっているとも思える。
そんなガーランドを見ると、一つの言葉をどうしても思い出してしまう。
「……儀仗兵……だったか?」
「フ……ハハハ!! なんだ知っていたか」
否定されない。
それが答えならそれはそれで疑問が浮かぶ。
エルフの森には軍隊はない。兵と呼ぶには個が強すぎるし、実力に差がありすぎる。
「改めて名乗らせてもらおう。エルフ儀仗剣術、奥伝。ガーランド・カノープス」
「意味がわからない」
この世界で存在するどの国もエルフを従えた歴史は存在しない。
少なくとも養母も師匠もそんな歴史を語ったことは無い。
それなのに、権威の装飾である儀仗がエルフに存在する?
アーリンの知るエルフが揺らいでいた。
そして名乗りを終えたガーランドは、動揺するアーリンを見据える。
「そろそろ、おしまいにしよう」
ガーランドの構えが、また変わった。
まるで下賜された刀を受け取る様に、頭上高く構えている。
それで抜けるのか?
……愚問だ。
ガーランドの構えから放たれる斬撃は、どれも必殺の一撃。
気を抜いたらアーリンの身体は左右に別れることになる。
慎重に息を吐いて、降りかかる必殺に備えるアーリン。
だが、まだアーリンに勝ちに続く道筋はない。
純粋な武術では、まだアーリンはガーランドを捕らえることはできない。
ではどうするか?
アーリンは鯉口を切ったガーランドに一言訊ねる。
「なぁ、抜刀する時って息を吐いてるのか? 吸ってるのか?」
「何? ……考えたこともないな。どうしてだ」
「いや、ただ何となく気になってさ」
ガーランドがアーリンの眼を見ている。
いったいどんな意図が、その発言に乗っているのか?
アーリンの瞳からは読み取れない。
楽しかった対戦相手の言葉。そこにある意図すら斬り捨てるべきだろう。
じゃないと、あの人と戦うことはできない。
完全なる勝利をもって、最強のエルフに挑む。
その方がきっともっと楽しいはずだから。
「抜刀の時か……たぶん吐いている気がするかな」
「へ~吸ってないんだ」
アーリンの眼をみれば、その言葉は単純な好奇心からの言葉に見える。
「ああ。そうだな」
何度か呼吸をして意識を集中させる。
そしてそれに乗せて自分の動きをイメージする。
ん?
どうにもぬぐえない違和感がガーランドを襲う。
違ったか?
何回も繰り返すと、感じる違和感が強くなる気がしてしまう。
アーリンの眼には、ガーランドの動揺がはっきりと映っている。
「来ないなら俺から行くぞ!」
「ちょっ! ちょっと待て!!」
ガーランドの動揺は、見ているしかなかったマーファたちにも伝わってしまう。
「アーリン……やったわね」
「ええ。よくない駆け引きを覚えましたよね」
「口の上手いバンパイヤを知らないのが、ガーランドの敗因ね」
「アーリン!! 本当に待ってくれ!!」
「いや、待たないでしょ」
心身の調和なく技を行うことはできない。
動揺したガーランドはまともな脚運びすら困難になっていた。




