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122話「糧」

 自分との戦いをアーリンが面白いと言い放った。

 そして自分自身も。

 仲間をかばうアーリンの姿が珍しく面白かった。

 アーリンとの闘いはあの人との予行演習のようで面白い。

 何より人種の身で、精霊術のような魔法を使うアーリンは面白い。

 いったいいつぶりだろう?

 誰かと戦うのが面白いと思うのは。

 成人の儀で勝った時はそれほど思うことは無かった。

 むしろなかなか刀を抜かせてくれない同輩にイライラしたほどだ。

 それなのに、アーリンには二度も本気で抜いたにもかかわらず……誰も殺せていない。

 ……そうか。

「お前も面白かったのか」

「ああ。あんたは楽しそうに刀を抜くよな」

「そうか? ……そうかもしれん」

 ガーランドは刀を構える。

 先ほどとは違い、まるで敬礼しているかのような構え。

 直立のようにまっすぐに立ち、顔の前に刀を置く。

 柄は頭の先ほどの位置、左手は鞘を握っている。


「……知らない構えだ」

 アーリンは心の中で舌打ちをしてガーランドの太刀筋をうかがう。

 刀の軌道は今の位置で柄が反転し、袈裟斬りの軌道。

 問題の抜き打ちの速度は、……不明。

 抜き打ちのタイミング……不明。

 アーリンが舌打ちするのには理由がある。

 軌道がわかっても、それ以外は運に賭けるしかない。

 この抜刀術の天才相手に。

 思わずアーリンは、ガーランドの刀の軌道を避けてしまった。

「!」

「ッチ!」

「……そうか。お前の眼はそれすら見えるのか」

 いらぬ情報を与えてしまったとアーリンは本当に舌打ちするしかなった。


 エルフの森でアーリンが小精霊を見ることができるのは、周知の事実だ。

 森でも特別視される精霊視が出来るエルフよりも詳細に見ることができるのだろうと予想もされていた。

 もしかしたら、あの眼には人の視線すら映っているかもしれないなどと噂もあった。

 それほどに特別な眼を持つアーリンという人種の子供。

 ガーランドはアーリンを迫害する子供たちを理解できなかった。

 あんな弱弱しい子供以下を相手にするより、刀を抜き放つ方が面白かった。

 だが次第にアーリンはエルフの森で存在感を高めていった。

 将来を期待される子供と引き分けたり、そこまでではないが何人かの子供たちには殴り勝ったとも聞いたことがあった。

 ようやくガーランドの目にも映るようになったのは、成人の儀の事件だった。

 あのアルテア・ポーラシュルテンの技を使い、その年大人になるはずの子供たちを一掃したのだ。

 ただ勝っただけではない。完勝でもまだ足りない。

 ただ一方的に狩ったのだ。

 人種の子供が、エルフを。

 しかも自分たちのフィールドのはずの森で。


 まるで憧れのアルテア・ポーラシュルテンを見ているようだった。

 圧倒的な武力。

 誰も寄せ付けない戦闘センス。

 無手とは思えない破壊力。

 いつかは挑むつもりっだったあの人と同じ技を使う、森に住まう狂気の獣。

 その前にアーリンだけは、自分の手で斬っておかないといけないと思っていた。

 時間はある。

 もっと成熟したアーリンとなら……。


 そう思っていたら、アーリンは森を出ていった。

 だがいつかはやり合う日も来るだろう。そんな風に楽観的であった。

 だが、ある日。

 ガーランドは耳を疑った。

 アルテアがアーリンを始末したと言ったのだ。

 久しぶりに森に帰ってきたと思ったら。

 あの手塩にかけて作り上げた獣を……自らの手で。

 おかしくなったのだと思った。

 とうとう彼にも限界が来たのだと。

 だが、彼の目は本気だった。

 エルフの悲願を全うするために、あの獣を始末したと。

 大人たちは彼に賛同し、世界各地を調査し始めた。

 エルフの悲願、その障害はいないかと。

 何もかも面白く無くなったガーランドも仕事をすることにした。

 やることがなくとも、腐るほどの時間を本当に腐らせるほどつまらないものはないから。


 何度かの帰還のあと、別の土地に向かった弟の同期がボロボロになって帰ってきたのだ。

「嘘つき! 生きてたぞ!! アーリンは生きてるじゃないか!!!」

 森に帰ってくるなり、そう言ってアルテアに詰め寄っていた。

 気が触れたかのように何度も何度も、アーリンは生きていると叫んでいた。

 アルテアはそんなことは無いと、珍しく狼狽していた。

 間違いなく眠らせてきたとうわごとのようにつぶやきながら。

 そんなアルテア・ポーラシュルテン見たことのない、大人たちも同じように騒いでいた。

 そして、今日この仕事。

 まさか、こんなに早く出会うことになるとは思ってもみなかった。

 まだ未熟なアーリンであったことに少し残念に思いながらも、もう誰にも採られないように摘み取るつもりだった。

 だがそんな自分の想いとは裏腹に、アーリンはたった一合の斬り合いで自分との闘いを楽しいと言えるまで成長したのだ。


 だから、もっと成長してもらいたい。

 自分の本気の抜き打ちを打ち破るほどに。

「もっと、教えてくれ。お前のことを」

「は!?」

「お前を知れば、もっと高みに届く。だから俺の糧になるぐらい強くなれ」

「お前を俺の糧にしてやるよ」

「……フ。そうか! じゃあもっと俺に喰らい付け」

 再び先ほどの構えをとるガーランド。

 だがさっきまで見えたガーランドの刀の軌道は見えない。

 無心で刀を振るえるほどかと、アーリンは再び舌打ちをするしかない。

変位抜刀へんいばっとう……人位じんい、一意専心」

 今度は抜き放つ音さえ聞こえない。

 だがほんの一瞬、ガーランドの軌道がアーリンの眼に映る。

 突き出された切先にガントレットを割り込ませ、軌道を変える。

 短い間に二度も火花が散った。

 カキンとつばが鳴る。

「やるじゃないか、アーリン」

「ハッ! 納刀も見せないくせに……そろそろ刃こぼれしてるんじゃないか?」

「だとしても、お前を斬れさえすればいい」

 ガーランドの目にはアーリンだけが映っている。

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