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120話「瞬きのガーランド」

「どう? アーリン。何かあった?」

「いや、それらしいモノは……」

 大地の大精霊の助けを得て、怪しい巨岩の周囲を探索するアーリンたち。

 それらしいモノは一向に見つからない。

 だた、それを口にしようとしたアーリンが押し黙る。

 何かを察したらしいアーリンを見て、仲間たちは周囲を警戒し始める。

 魚人のアディは、その未熟さ故目視で周囲を確認してしまう。

 その行動は警戒するべき相手に、自分たちは警戒しているということを教えているようなものだった。

 だが、アーリンたちはその軽率なアディの行動を注意すらしない。

 そんな余計な行動を挟むくらいなら、相手を探し出す方が先だと自分の警戒範囲を広げる。

 誰もが最大限の警戒をしている中、アーリンとマーファは相手の正体を見極めていた。

 他者の視線を可視化するアーリンの万能眼。

 それが未だに相手の視線を認識できない。

 それだけで正体は判明したも同然だった。

 相手は間違いなくエルフだ。

 大精霊の存在に近いはずのフレットの警戒線にも引っかからず、アーリンの万能眼を知りながら自分たちを監視するなんて芸当。

 それができる存在は限られている。

 何より、アーリンの万能眼を知っているかもしれないという行動がとれるヒトはほぼ存在さえしない。


「いるんだろ! いい加減出てきたらどうだ!?」

 もはや自分たちが警戒していても埒が明かないと、アーリンは声を上げる。

 巨岩に反射したアーリンの声が反響している。

「マハ姉」

「ええ。どうやら年上のお出ましみたいね」

 ここで言う年上とは、単純に年齢のことを言ったわけではない。

 エルフと人種、ハーフエルフを比べれば、大抵はエルフのほうが当たり前に年上だ。

 アーリンの背丈の半分でも、アーリンの倍以上生きていても不思議ではない。

 ここで言う年上。それは自分たちより武術に費やした時間の長い者を言う。

 要するに格上のエルフが、この場所にいるのだ。

 そしてそのエルフは、アーリンたちを完全なまでに警戒している。

 それの意味するところは、完全なるエルフとの対立を意味していた。

 

 アーリンの背中に付けたい汗が落ちる。

 久しぶりに感じている緊張感。

 明確に敵として退治する格上のエルフの圧力にアーリンは気圧されていた。

 カツンと巨岩が鳴った。

 自分たちが発したわけではない音に敏感に反応する仲間たち。

 それを見たアーリンの視界の端に、ようやく相手の視線が映った。

「っ!! タメエモン!!!」

「ッガ!!」

 とっさに衝撃に備えたオーガーのタメエモンが崩れ落ちる。

 周囲を紅いシミと血の匂いが支配する。

 打撃ではない。

 それを確認したアーリンたちは、崩れ落ちたタメエモンを残して大きく飛びのく。

 オーガーの皮膚を切り裂く刃物。

 それは飛び道具ではあり得ないと判断したのだ。

 

 鮮血と鉄の臭いを纏って現れたのは、金毛の純粋なエルフ。

 その姿かたちは、アーリンよりも年下のようにも見える。

 だが纏う空気は、達人のそれ。

「……ガーランド」

瞬きまたたきのガーランド」

 エルフの森で若い世代で唯一二つ名を持ち得る実力者。

 アーリンたちより20年早く成人した若き達人だ。

 その名は師匠のアルテア・ポーラシュルテンが、面白い相手だと言っていた相手でもある。

 彼の得物は刀。

 収めた武術は抜刀術。

 音より速いと謂われた彼の抜刀術をアーリンは以前に目にしている。

 神に万能と称された目であっても捕らえることのできない抜き打ち。

 エルフの森を出ていく前に、殴り倒す相手として最初に想定した相手でもある。

 だが、当時のアーリンでは勝てないと諦め、成人の儀を破壊して出てきたのだ。

 あの惨劇が第二案だと知るエルフはいない。

 アーリンが数少ない顔判別できるエルフ。

 若いエルフの中で最も警戒する人物が、目の前に現れたのだ。


「磔になった弟の敵討ちに来たってわけね」

「弟が負けたのは、未熟だったからだ。ここに来たのは別の目的だ」

「……別ってなんだ」

「……言うと思うか?」

 アーリンの問いかけに応える必要はないと、ガーランドは刀を構える。

 低く腰を落とし、極端な前傾姿勢。

 そして肝心の刀は顔の前に構えている。

 アーリンとマーファは、相手が本気であることを認識した。

 だが、ガーランドを知らないフレットとアディは一瞬油断した。

 あんな体勢であの長さの刃物を抜けるわけが無いと。


 瞬間、フレットの眼前に刀の鞘が大きく映し出されていた。

 視界を塞ぐ鞘。

 濃い藍色だけがフレットの視界にあった。

 ッキンと短い金物音が鳴った。

 フレットの身体が後ろに引かれ、激しい摩擦音が鳴り響き目の前に火花が飛び散っていた。

「ッぁく!! ……フレット、油断するなよ」

「っは! ……アーリン、すみません」

 ようやくフレットの視界に周囲の状況が映し出される。

 そこでようやく自分がとんでもない失態を犯したことに気が付くのだった。


 一足で飛び込んできたであろうガーランド。

 自分の視界を塞ぎながら、刀を抜き放ち大上段からの一撃を見舞ったのだ。

 それに気が付いたマーファが、布をフレットとアディに巻き付け下がらせ、開いた空間にアーリンが飛び込んでガントレットで刀を防いだ。

 その状況は一目で理解できた。

 そして、自分の失態でアーリンが負う必要のないダメージを受けたことも。


 アーリンの口元から血が流れている。

 それはアディの初めて見る姿。

 フレットもヒトと相対しているアーリンが見せる初めての姿でもあった。

 アディもフレットも知っている。

 アーリンの防御を通り越してダメージを負わせる難しさを。

 無防備な一撃を受けたわけではない。

 防御してなお、受け流すことのできない衝撃がアーリンを襲ったのだ。

 盾拳の拳士であるアーリンがただ防御するだけしかできない。

 しかもその防御さえ突破する一撃。


 ようやく理解した。

 アディとフレットは自分の勘違いを。

 あのエルフの構え。

 あれは致命的な一撃を見舞うための最善の構えであったということに。

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