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119話「通信手段」

「ここがそうか」

「驚くほど……何もないですね」

 アーリンたちの眼下には荒野が広がっている。

 切り立った崖や隆起した岩山。

 草木の一本すら見当たらない。だがアーリンの視界には蠢くように這いずる命たちがいる。

 何とも不気味なフィールドがそこにはあった。

「大地の大精霊はなんて?」

「ん~……通信不良」

「なにそれ?」

「ラモンの感度が悪いみたい」

「もぉ~!! なんでバンパイアになんか任せたのよ!!」


 この大精霊でも見通すことのできない地域に来るにあたって、アーリンたちは一つ作戦を立てたのだった。

 アーリンの万能眼はもともと神から授かった魔眼、神眼と呼べるモノだ。

 神に造られたという点では、大精霊も同じ存在だ。

 そして大精霊はもともと万素を通じて世界を見渡していた。

 であるなら、万素の減少に伴い見渡せなくなった地域でも万能眼という万素を元にして機能する瞳を通せば大精霊にもその情報を共有できるのではないかという考察がバンパイア一族の首魁であるラモンからでた。

 結果から言えば、可能だったのだ。

 考えてみれば、フレットも炎の大精霊の門として力の行使の際には大精霊と情報を共有していた。

 アーリンは大精霊の依り代ではないが、機能としては同じ役割を担うことができたのだ。

 しかし、それは送信機としてアーリンが使えるというだけで、受信機の問題があった。

 依り代として感覚を共有することができないアーリンだけでは、大精霊にこの地を見せることができないのだ。

 そして白羽の矢が立ったのは、バンパイヤのラモンだ。

 彼の瞳もいわゆる魔眼に属する力を有している。

 万素を見て、他者の元気を操作することに特化した魔眼ではあるが。


 能力の書き換えは、魔法で行っている。

 だが、急造の魔法と急造の術師では不具合なく力を行使しろと言うのは、いささか難しいらしい。

「あ、今見えるみたい」

「やっぱり、映像を送るのと指示を受けるの担当は分けた方が良かった気がするんですが」

 そう言ってフレットはマーファを見る。

 この旅の一行で、誰よりも魔法に慣れ親しんでいるのは、他の誰でもないアーリンだ。

 魔法という技術をこの世界に産み出し、この世界の誰よりも魔法を行使してきた一日の長がある。

 次に慣れているのは、マーファなのだ。

 もともと精霊術を使うことのできるメンバーで、誰よりもアーリンの使う魔法を間近で見てきた実績がある。

 アーリンと同様、慣れ親しんだ作業であるはずなのだ。

 例え初めて使う長距離の通信魔法であっても、アーリンと同様程度には使える可能性が一番高い。

 だが、マーファはそれをすることは無い。

 なぜなら……。

「何で私が、バンパイヤと意識を繋げないといけないのよ」


 そう、この世界で初めて行使された長距離通信魔法は、対象と意識を繋げる必要があるのだ。

 ダイレクトに考えていることが、相手にわかってしまうというデメリットも存在する、この魔法。

 便利であるという理由だけでは、積極的に使いたくはない代物なのだ。

「……」

「どうしたの? アディ」

「兄貴が考案したにしては……大人しい魔法だなって」

 まだ旅に加わって間もない魚人のアディが訝しむのも無理はない。

 アーリンたちにとって魔法は武器の一つ。

 攻撃性が備わっていて当たり前の代物だ。

 そうじゃないと、魔物に対抗できない。

 明確な武器を持たないアーリンたちにとって、魔石という資源を使用している以上魔法にはそれなりの威力を持たせないと次に手に入れる魔石が遠くなる。


「前の港町やバンパイヤの森で必要を感じたんダロウ」

「タメエモンさん、それはどういう?」

「散り散りに逃げる状況や街での活動を考えれば、仲間との連絡手段は必要でしょ?」

「あ~……確かに」

 人種の街を訪れなくては必要な情報も手に入らない。

 だがアーリンたちの大半は亜人と呼ばれる人種から外れた者たちだ。

 亜人であるアディたちも人種の街に入ることに抵抗はあるし、街の人たちも亜人が街にいる状況を好まない。

 仲間たちと離れる状況が常にあるにもかかわらず、アーリンたちには連絡手段が存在しない。

 街の外にいるフレットたちの状況によっては、アーリンとマーファが街の外で何日か野宿するなんてこともこれまではあった。

 この通信魔法はそれを無くせる画期的な魔法ともいえる。

 戦力を整えるという時間の消費を抑える魔法。

 そんな画期的なアイディアはどこから来たのか?

 それは精霊術を元にしている。


 ふとマーファは考える。

 エルフの里の大人たち。

 彼らはこの世界で上位に位置付けされる実力者だ。

 大抵の種族よりも強い。

 精霊術があるというアドバンテージ。

 何より武術にかける膨大な時間がその地位を確かにしている。

 単独のエルフを相手にするには、人種ならそれこそ軍隊が必要になるケースもある。

 それなのに、通信を精霊術で行う必要性があるのだろうか?

 単に便利だから?

 それとも……。

 何か重要な見落としがあるのではないかと、マーファは不安になるのだった。


「とりあえず、怪しいところ見つけてもらった! あの一番デカい岩の下だって!!」

 大精霊との通信を終えたアーリンが笑っている。

 あの笑顔も何かを見忘れているのではないか?

 そう想ってしまうマーファだった。

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