表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/220

116話「世界」

「とまぁ、動物だけじゃなく植物性の元気も認識出来たおかげで、周囲の村々への影響も少なくなったというわけなのだ。……それとだな、デザー、いやマハとやら」

「なによ」

 ひと先ず話すべきことは話せたとバンパイアが視線を落とす。

 知らなかったことにしておけば、穏便に過ぎること。

 だがアーリンとマーファ、2人の激情とも言える殺気を受けて、思うところがあったのだ。

 これを話すだけで、不利になってしまう話。

「おぬしの母親の敵……確かにバンパイアなのだな?」

「ええ」


 迷いなく返事をするマーファを見て、彼女は確信があるんだと理解した。

 これから話すモノに確証などありはしない。

 だが、事実は事実として話しておかないと、後で判明したときに、一族の不利益になることだけは、確信がある話。 

「バンパイアなのだとしたら、おぬしの敵……心当たりがある」

「へぇ~」

 感心したような、驚いたようなマーファの返事。声色にまで殺気を乗せられる人物を初めてみた。

 恐ろしい。恐ろしいからこそ、ちゃんと伝えないといけない。

 かつての仲間を売ることになっても、今自分のもとに残ってくれている同族を保護しなくてはいけない。

 それが今は矜持しか残っていないとはいえ、自分という貴族の在り方なのだから。

 失ったとはいえ、錬金術で財を成した大貴族。

 その末裔として最後に残った財産なのだから。


「お話はひと段落かしらね?」

「ああ」

 目のまえのバンパイアが敵ではない。

 その事については、全員が認識を共有できた。

 マーファだけはまだ少し時間がかかるだろうが、詳細を聞けば納得するはず。

「それじゃ、今度は私の番ね」

 バンパイア一族がここにいる理由はわかった。

 これからはアーリンたちの旅の目的に関わることだ。

 目の前に敵がいなくなったとはいえ、現在進行形で世界は滅びに向かって歩み続けている。

 水の大精霊も炎の大精霊も理由がわからなかった。

 だが、この口ぶり。

 大地を司る大精霊には心当たりがあるのだろう。


「端的に言えば……原因は、先代の変革者のせいよ」

「っ!?」

「まさかっ! そんな……」

 一番の反応を見せたのはフレットだった。

 かつて自分にボクシングを教えた師匠でもある先代の変革者。

 それが自分たちの旅の目的だと言われて、何とも言えない表情をしている。

 炎の大精霊の守護者、大精霊の力の発現者であるフレットの胸中は複雑だった。

 あてのない旅路、目的が出来ることは喜ぶべきことだ。

 世界を救う。

 そんなアーリンとマーファに協力しようと、今度は炎の大精霊を守り切ろうとともに旅をしてきた。

 師から教えて貰ったボクシングをゴブシングと昇華して。

 体得した拳は誇るべきものだ。

 今この世界で唯一の拳。

 だが、この拳があるという事実が、世界の崩壊という事実を示している。

 信じたくはない。

 だが、大精霊は嘘をつかない。

 アーリンの眼にも真実だと映っているだろう。

 そして、どこか納得している自分がいることも認識している。

 あの師匠が言葉の端々で言っていたのは、この世界への怨嗟なのだから。

 元の世界へ帰りたい。

 こんな世界で死にたくはない。

 この世界で次代を育成なんかしたくはないんだと、彼は事あるごとに言っていた。


 そして彼は、変革者だったのだ。

 変革者の言葉は、この世界では特別な意味を持つと炎の大精霊は言っていた。

 変革者の言葉とは、世界を、次の世代を導く道しるべ。

 そして言葉の性質には差がない。

 悪意を持つ言葉のほうが……はるかに強い。

 ボクシングを教えていた笑い声の混じるあの言葉たちよりも……。

「……フレット」

「あ、いえ……大丈夫です」

 大地の大精霊やアーリンたちの視線が自分に集まっているのがわかると、フレットは心を押し殺す。

 かつての師匠が何を想い、何を考えてこの世界を崩壊に導いているのかはわからない。

 だが……今の仲間、当代の変革者たるアーリンは世界を救いたいと願っているのだから。

 せめて今回は、変革者の助けになろうとともに旅に付いてきたのだから。


「……精霊は、各々任された領域というモノがあるわ」

 フレットが大精霊に話の続きを促すと、大精霊はわずかにうなずいて話始める。

「水なら水辺や水中の出来事、炎なら人々の生活のありようを観察できる。私なら地中の出来事や大地で起こる出来事を知ることができるわ。……今はその領域に繋がる時間も減っているけどね」

 本来の大精霊の仕事。

 それはこの世界で何が起き、何がなされたかを知ること。

 その共有を万素という伝達物質で伝えているのだという。

「……誰に共有してるんだ?」

「それは、世界そのものとよ」

「世界……?」

 大精霊の答えは、アーリンの予想していたモノとは少しだけ違った。

 アーリンは万素の行き着く先は、あの神様だと考えていたからだ。

 だがそうではないらしい。

 前に聞いた過去のドワーフの言葉を思い出す。

 まるで世界を擬人化したかのような言い回しを。

 似たことを大精霊が口にしたのだ。

「世界って……何なんだ?」

「ゆりかごであり、神様そのもの」

 そう言った大精霊の顔。

 それが誰に似ていたのか、アーリンは思い至った。

 彼女に似ている。

 夢であった……泣いていた少女に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ