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111話「女神」

「眷属って……いったい何のことだ?」

「ヴァンパイアなんだろ! だったら人襲って、生き血を飲んで……死体を支配するんじゃ?」

「……あ~、訂正させてくれ。人は襲うが目的が違う、我はちょっと皆の『元気』をもらうだけだ。その証拠に我に襲われて死んだ者はいまい? 襲って殺してを続けたら我らの生活が持続せんではないか」

 まるで自分は悪いことをしていないとでも言うような態度のヴァンパイア。

 実際そうなのだろう。

 彼の倫理観では、悪行ではないのだ。

 糧を得るために他者を襲うのは仕方がない。だって他の生物もしていることだし、ただ自分たちはその命を奪うまでのことはしていない。

 だから自分たちは他の生物より高貴で崇高な生き物なのだと。本気でそう思っているのだ。

「それに隷属した者の元気は美味しくない。興奮も絶望も無くなってしまうからな」

「……きゅ、吸血鬼……じゃないのか?」

「血は……繁殖の時に少しだけ飲むが……殺しはせんなぁ」

「アーリン……また別の世界の知識でモノを考えてたのね。だからあなたって……」

「わかったわかったって! 非常識でした」

 アーリンを責めるマーファだったが、それでも未だに戦闘態勢を崩していない。

 例え殺しはしていなくとも村を襲うという行為はしているのだ。

 それはこの世界においても紛れもない悪だ。

 まして他者を害して生活をするのが日常ならば……それは山賊・盗賊のたぐいと変わりがない。


 それでなくとも、マーファには許せない事情があった。

「よくも……お母さんを!」

「待て待て! デザートの! 我はお前の母など知らん。エルフを見るのはお前が初見だ! 誓って本当だ」

 復讐相手を見つけたマーファの眼光に焦るヴァンパイア。

 身に覚えがないと弁明をはじめてしまう。

「お前は今まで食べたパンの枚数を覚えているのか?」

「嫌な引用を……! お、覚えているぞ! もちろん覚えているとも!!!」

 アーリンの言葉で飛び出そうとしていたマーファを必死に押しとどめようと言葉を重ねるヴァンパイア。

 その姿を見て、アーリンはもはや戦闘の意思を感じない。

「マハ姉。とりあえずさ、聞くだけ聞いてみようよ」

「……アーリン! ハァ……わかった」

 ヴァンパイア相手に戦闘を続ける。

 それは二人にとっては簡単なことだ。

 マーファが精霊術を行使したことで、いつでも決着が付けられる状態になっている。

 魔物のように処分しようと思えば、それほどの時間もかからない。

 アーリンは少し落ち着きを取り戻していた。

 何より気になる一言を聞いたのだ。

 彼らヴァンパイアが、異なる世界から来た。

 そんな一言を発したのだから。


 自分と同じように異なる世界から、ドワーフのように連れてこられた可能性が出てきた。

 それはアーリンには放っておけない可能性だ。

 なぜなら、あの神様が関与している可能性があるから。

 時を自由に操ると言われているこの世界における絶対神。

 現在他の世界の神様と交戦中の、自分をこの世界に連れてきたあの神様。

 自分の死が他の神様との闘いにおいて重要だと言っていた、神様の所業。

 アーリンはドワーフたちのTLHCトリプル・ラージ・ハドロン・コライダーの失敗をそのままにしていた意味を時々考えていたのだ。

 それはアーリンの生存に必要な可能性ではないのか?

 今はあの装置を使用する目途は立たない。

 だがあの装置があるからこそ、今の自分はいるのではないかという可能性の話。

 そんなもしかしたら、神様の助力なのではないかと思ってしまうのだ。


 だから、神様が連れてきた可能性のあるこのヴァンパイアの言葉を聞かなくてはいけない。

 自分の生存のため。

 何を使っても、泥臭くとも生き残れと言ってくれたあの神様の言葉を信じたい。

 あの神様に目を付けられたから今の生活がある。

 巻き込まれなくともいいことに巻き込まれたという事実は変わらない。

 だが自分に生きていてほしいと願われたのも事実なのだ。

 この世界に誕生する以前に、産まれてもいないのにだ。

 生誕を祝われたことはある。

 生まれてきてくれてありがとうと。

 だが生まれる前の願いを聞いたのは初めてだ。

 だから叶えたいと思った。

 神様の願いを。


「聞かせてくれ。この世界に来た経緯と何を求められたのかを」

「貴様……あったことがあるのだな」

「ああ。お前は転移なんだろうけど、俺は……転生している」

「なるほど……ならば話さなくてはいけないな。我らバンパイア一族のことを」

 ヴァンパイアがアーリンたちから視線を外したことで、ようやくマーファの戦闘態勢は解除された。

 マーファも気が付いたのだ。

 彼の言葉がアーリンの旅に必要なのだと。


「……ここで話すことでもないな。招待しよう、我が住処へ」

「この森の中にあるのか?」

「ああ。……それと彼女にも会ってもらわなければいかんだろうね」

「彼女?」

 問い返したアーリンには確証があった。

 それは予感だ。

 何故あんな夢を見たのか? その理由はこの土地にあったのだ。

「女神に会ってもらう」

 ヴァンパイアの言う女神。

 それは十中八九、大精霊のことだろう。

 やはり偶然ではないのだ。


 異世界からの渡航者が、大精霊の元に居を構える。

 そんな偶然はないのだ。

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