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106話「変態」

 アーリンたちがその人物と出会ったのは、深い森の中だった。

 手入れもされていない、常に薄暗い森の中。近隣住民が怪しい何者かがいると言っていたのだ。

 広大な土地、近くには鬱蒼としげる森があるというのに、その村の住人たちは貧しい身なりをしていた。

 話を聞く限り、それほど辛い重税もない。かと言って、住民が怠けているわけでもない。

 ただそこに『悪魔の森』と呼ばれる森があっただけ。

 何故かその森に入ると、誰しもが倒れた状態で発見される。

 老いも若くも男も女も。誰隔てるわけでもなく、立ち入った者すべてが。

 ただ幸いなのは、発見された者すべてが生きて帰ってくるという事実だ。

 生きて帰ってくるが、数日は寝込んでしまうがその程度。

 誰しもが何かしらの脅威にさらされるが、怪我もなく数日間寝込むだけ。

 最初はその程度ならと、燃料や食材探しに森に入っていったという。

 だがその人数が増えると、段々とその話が周辺の村々に広がっていくのだ。


 もしかしたら、奇妙な病気なのかもしれない。

 もしかしたら、倒れたのは悪魔のせいかもしれない。

 もしかしたら、倒れて目を覚ましたけど、実は悪魔に乗っ取られているのかもしれない。

 もしかしたら、あの村の住人は悪魔なのかもしれない。

 そうして噂として広まっていくうちに、村には致命的な現状が出来上がった。

 近隣の村々との交流がなくなったのだ。

 村としての最小単位では問題がない。

 しかし、どうしても村の外の力が必要な時に、誰も頼ることができない。

 発展しない村と認識されれば、行商人も寄り付かない。

 村として問題が明確にあるのに、それを取り除く力がない。

 段々と村として存続していく限界が見えてきてしまった。

 そんな時に、アーリンたちは来たのだ。

 怪しい森の近くにある村の話を聞いて。


 当然村の住人としては、複数の亜人種を従えているように見えるアーリンとマーファにすがる。

 悪魔の森をどうにかしてほしいと。

 人々が倒れる原因を解明してほしいと。

 アーリンたちは思った。

「もしかして……魔物?」

「けど、結構昔からある村だって言うじゃん?」

「そもそも死人が出てナイ」

「オーガーみたいに何かしらの契約があったとかじゃないですかね?」

「お前……焼いて喰っちゃうゾ」

「話し合って解決したらこの村の現状にはないらないんですよ」

「じゃあ、どうするのよ」

「そんなの……ねぇ?」

 フレットの言葉で全員が立ち上がる。

 そうなのだ。

 あれこれ言っても仕方がない。

 百聞は一見に如かず。

 何より万能眼というモノがある。

 それを活用もしないで言葉を並べて何になるのか。

 それもそうだったと、赤くなった顔を並べて森へと来たのだ。


 そうして出会ってしまった。

「ようこそ! 我が領地、我が森へ!」

 薄暗い森の中、燕尾服を着た紳士風の尊大な輩に出会った……出会ってしまった。

 服には一切の汚れもなく、履いている靴は一切の汚れもない。

 まるで移動もせずにそこにいたかのような出で立ち。

 薄暗い森の中、光を放っているかのような眼光。

 森の中だと忘れてしまう優雅な態度。

 そんな姿をした男に、アーリンは思わず叫んでしまった。

「逃げろ!! あいつは変態だ!!」

「なっ! 初対面の人に対して失礼ではないか!!」

「うっさい! マハ姉はわかる、俺もフレットもタメエモンだって百歩譲ってわかる! けどアディもなんて変態以外の何物でもないじゃないか!!」

 アーリンは何がとは言わない。

 ……言わないが、全員がナニかを察した。

「本当に失礼極まる子供だ! 我は分け隔ての無い、真なる博愛主義者なのだ!!」

「好色変態男の間違いだろ!」

「好しょっ! ……そんなことを言う子供には……折檻です!!」

 

 光を放っていたような眼光が、アーリンを見つめ、本当に光った。

「くっ! ……いったい、何……を」

 急に崩れ落ちたアーリン。

 さっきまで興奮していたアーリンが、突如として寝息を立てている。

 急激な眠りを与える。

 それはこの場にいる全員が攻撃だと認識している。

 その攻撃にアーリンが晒された。

 方法もわからない眠りの攻撃。

 タメエモンはアーリンを担いで逃走をはじめる。

 それに続いてアディも慣れない森の中を器用に走り逃げる。

 フレットも森の中では、自分は無力だと知っているのでタメエモンに追従する。

 殿しんがりは必然的にマーファが請け負うしかなかった。

 本来なら森の中の疾走は、この中では自分が一番得意なはず。

 自分よりも遅い仲間たちを追いながら、追ってくる変態を躱さなくてはいけない。

 しかも方法が不明な強力な攻撃を仕掛けられる変態を。


「おお! 麗しい乙女……君はデザートだな。盛大にもてなしてあげよう!」

「何をわけわかんないことを!!」

 何かしらの攻撃をされているのはわかる。

 だが、方法はわからなくともその攻撃の始点は一瞥しただけで理解できた。

 目だ。

 あの怪しく光る眼が、攻撃の起点なのだと瞬時に理解したマーファは、イラつきながらも自分にしかできない仕事だと理解した。

 通常の戦闘であれば、それほど視線や相手の目に注視する必要はない。

 相手の行動に意図するものは何だと思考を割くのが通常だ。

 しかしマーファは違う。

 相手の視線や目の動きすら注視して、そこから相手の意図を読み取る。

 アーリンを相手に一番組手や喧嘩をしたマーファだからこそ行える、一種の不要な工程。

 相手の眼球の動きを瞬時に察する能力は、他者が見たら超能力かと思うほどの練度。

 この部分に関しては、アーリンの使用する万能眼をしのぐかもしれない。

 だから自分が適任。

 適任なのだが。


「さぁ! デザートの君よ。我が施しを受けるのだ!!」

 獲物を追うことで興奮した変態が、体術もそれなりに強いのが更にマーファをイラつかせるのだった。

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