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103話「アリアンティア」

 人種の国において、最も警戒される国がある。

 それが全魚人族を統一した国、現存する国家の中で最も広大な面積を有すると言われている国家がある。

 それが『アリアンティア』という海洋国家だ。

 このアリアンティアは土地としての面積は非常に狭い。

 始まりの岬と呼ばれるトリストンから西に数キロ離れた岬からさらに南の海上20キロ離れた場所にある名もない小島。その一つだけが国際社会で正式に認められたアリアンティアの土地だ。

 おおよそ人種には住めないような、何もない土地。

 だが、そこを国民が使用するのは限られた時期だけだ。

 アリアンティアの本当の国土は海の中にある。

 多種多様な姿の魚人族が海中を自由に行き来する、最も古く最も複雑で活気のあふれる国。

 アリアンティア。

 長く人種の到達を拒んできた国でもある。

 

 事の始まりは亜人と人種の争いが原因だった。

 そしてそれが拡大し、しだいに人種は亜人たちを魔族とまとめて括った。

 もちろん、亜人に数えられる魚人族も魔王軍に多くの者たちが参加していた。

 魚人族の英雄と呼ばれる者たちも、この戦争で名を上げた者たちが多い。

 名将と名高い『ランゲルス』や人種の船乗りたちに最も恐れられた『バルバロット』船長なども有名だ。

 彼らと他の魔族が懇意にしているという証言はあまり出てこない。

 どちらかというと、魚人族は亜人として魔族と同族として活動していたわけではなく、協力関係にあったという見方が有力だ。

 しかし、その戦争の恩恵を一番受けていたのが魚人だという事実は変わらない。

 部族ごとにばらばらだった魚人がまとまり、海中ではあるが巨大な国家を建国するに至ったのだから。

 

 ただし、アリアンティアを建国した初代国王だけは話が別だ。

 初代国王の『アドニス』は、魔王と非常に仲が良かったことが記録に残っている。

 歴代魔王の姿で判明している者は、数少ない。

 圧倒的な力で亜人たちを従えた魔王。そしてそれに従った、太古の10の亜人種から始まった魔王軍。

 そんな人種の敵たる魔王の姿が判明している人数が少ないのは、正体を知った者はその大半が人種の生活圏には帰ってはこれなかったからだ。

 それほど人種への情報漏洩を厳格に取り締まっているにもかかわらず、アリアンティアには一つの伝承が残っている。

 もうすでに人種との戦争が開戦し、幾度かの魔王軍の派兵が行われている中で建国したアリアンティア。

 そんな奇妙なタイミングでの建国に関わらず、魔王はその姿を魚人族の前に晒ほどだった。

 歴史的には、魔王の国が建国されてほどなくの時期。

 タイミング的にも初代魔王であろうと目される人物が、建国時のアリアンティアにいたのだ。

 もちろん、多くの歴史家たちがこの文献を無視できなかった。

 歴代魔王という謎の多い王様の、数少ない情報。

 歴史を紐解こうとする誰もが、アリアンティアの文献を読み解こうと必死になったのだ。


 しかし、結論から言えばすべてが無駄骨だった。

 初代魔王と目される人物、その姿は文献には記されておらず、それでいてすべての文献がこう評していた。

 「多くの亜人の中にあって、その眼光、立ち姿は異様に見えた」

 そう書かれているだけだった。

 初期の10の亜人種の中で、こうまで言われる種族とはいったいどの種族なのか?

 非常に活発な議論を呼んだ。

 見事な体躯を誇るオーガーではないか? 岩のように大きく、それに加えて下あごから伸びる牙。

 いやいや、おそらくゴブリンではないか?

 緑の表皮にスラリと伸びる手足。何でも後期の魔王軍には最強のゴブリンがいたと聞く。建国の時期にも隠れた実力者がいたのかもしれない。

 いやいやいや、この眼光という記述。現存する文献には必ず書かれているではないか。目が特徴的な種族に違いない。

 闇夜に光る鋭い眼光。バンパイア族に違いない。

 などなど。その学者の考える異様さによって数多くの説が提唱された。


 もしかしたら海中には、アリアンティアの本国にはもっと有力な文献があるのではないかと目された。

 そのために、人種が海中でも活動する魔法が生まれた。

 魚人族のように圧倒的自由はないものの、それまでの人種の活動に比べれば海中でも圧倒的自由を手に入れた偉大な魔法も、歴史研究の一環で開発された。

 そうして訪れた本国にも目新しい文献などあるわけもなく、人種の最大の敵であった初代魔王の正体は未だに闇の中だ。


 そんな歴史学者の苦悩とはお構いなしに、魚人国家の日常は今日も続いている。

 今日は成人の儀式。

 多くの魚人族が、唯一の地上に集まる。

 新しい成人の魚人たちは、この土地で力比べをするのが習わしだ。

 建国当初から続くとされる伝統儀式。

 参加者は周囲を威圧するように見回している。

 異様な殺気がアリアンティアの唯一の大地を満たしていた。


 それもそのはず。

 この儀式は、異性へのアピールの場でもあるのだから。

 意中の相手へのアピール。それがこの儀式の本質だ。

 海中で生活する魚人族が、陸に上がり一本の綱を引き合う力比べ。

 優秀者には国王から褒美と意中へのアプローチ権を得ることのできる綱引き。

 初代国王が考案したという伝統儀式は、今日も魚人族を興奮へと導くのだった。

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