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99話「エルフ」

「貴様らは、我らが民と触れ合う資格はない。早々に立ち去れ」

 目の前の魚人は明らかな敵意をアーリンたちに向ける。

 その目は全員でかかってこいと言っている。

 門番としては正しい判断なのかもしれない。元門番であるフレットは彼がその選択をした事を好意的にうなずいている。

 ただ残念ながらアーリンたちは、全員でかかってくわけにはいかなかった。

 明かな格下相手に、腕に覚えのある者たちが一斉に迫るなど恥以外の何物でもない。

 ではこの状況をどうすのか?

 視線はアーリン一人に集中する。

 魚人の門番は最初の相手だと認識し、仲間からは一番煽ったんだから責任を取って穏便に済ませろと視線で語られる。

「……え~。俺かぁ?」

「……」

 アーリンの問いに誰もが視線で返答する。

 相手の眼を見てみろと。

「はぁ~~。……わかったよ」

 明かにやる気がないアーリンの態度。

 それは相手の自信のなさだと魚人の門番は判断する。……それが間違いなんだと認識するのに、それほど長い時間は必要がなかった。



「……っく! なら!!」

 魚人とアーリンの立ち合いが始まって数分で、魚人の門番は明らかな劣勢に立たされていた。

 一方的に攻撃を繰り出しているにもかかわらず、劣勢だと思ってしまった。

 アーリンをまともにとらえた攻撃は、未だに一つもない。

 まるで演武の相手をしてもらっているかのような錯覚。

 これは稽古だったか? そんな思考が怒りに染まった頭によぎる。

 拳を突き出して初めてわかる。相手が途方もないほどの手練れだと。

 それこそ自分の師匠と近いほどの手練れ。敵うわけはない。

 ただ自分は実力を認められて、海と陸の連絡役を任命された。

 ある程度の武力を収めたからこの任務を命じられたのだ。

 そして敵対した相手は自分で仲間たちに近づくのにふさわしくないと判断した。

 ならば命を賭しても相手を引かさなければならない。

 そんな必死の覚悟が拳に宿った。

 宿ったとしてもアーリンに届く攻撃は一向に繰り出せない。

 そして相手の攻撃も一向に行われない。

 そんな状況が長く続いた。


 そんな入り江を見下ろす一つの視線が合った。

 初めはやっと目的の入り江に着いたと、なんでこんな所に自分は寄越されたのかと辟易した視線で魚人を確認する視線だった。

 しかし、魚人が戦っていると確認するとその実力を測るような視線に変わる。

 なんだ、魚人とやらはそれほど大したものではないじゃないかとあきれるような視線へとかわり、自分をこんな辺鄙な場所に寄越した者への怨嗟に変わっていく。

 汚名を雪がせてくれるというから、こんな面倒を引き受けたのに。

 こんな弱い相手を支配できたとしても、仲間には認めてもらえないだろう。

 あの恥を忘れてもらうような、そんな手柄ではないと忌々し気な視線だった。

 

 アーリンはその視線を見て、何やら自分の望んだ以上のことが起きそうだとため息を落とす。

 そのため息が自分に向けられたものだと勘違いした魚人はなりふり構わず攻撃を繰り出す。

 入り江にたまった潮を足のひれですくい揚げ、相手の眼を攻撃する。

 しかし、慣れたような手さばきで水のつぶてをすべて叩き落とされた。

 普通であれば見逃してしまうような、微細な水滴すら自分の攻撃ごと叩き落とされた。

 打つ手がない。

 魚人の頭に負けの思考がよぎると、身体はそれに反応したように一歩下がってしまう。

 魚人との距離に余裕が出来たアーリンは、自分たちを見下ろす視線の主を確認する。

 そしてアーリンの顔色が変わる。

 

 さっきまでは年下相手に、武術の手ほどきをしているような微笑みすらあった。

 しかし、アーリンは視線の先を確認したことで、思い出したくもない出来事を思い出してしまった。

 アーリンの視界に映ったのは、風に漂う美しい金髪、そしてまるで宝石のような緑色の瞳。

 何より特徴的な笹の葉のような長い耳。

 実家を離れ、これほど見慣れた特徴を見る日が来るとは。

 やはりあれは、夢でも幻でもなく本当にあった出来事だったんだと認識するしかない風貌。

 懐かしさと嫌悪感からアーリンの眉間にしわが刻まれる。

 自分に手ひどいいじめを行っていた種族の特徴。仕返しを完了して二度とは見ないと思っていた風貌。

 意識してあの森から離れた場所に来たというのに。


「なんで……こんなところに」

 アーリンはどうしても言葉を止めることができなかった。

 複雑に入り乱れた心では、止めることができなかった。

「え?」

 アーリンの言葉にマーファはアーリンの視線の先を確認してしまう。

 そこにはまだその人物がいた。

 久しく見ていなかった種族。

 アーリン同様、あまり好意的に映らないその金髪が、その耳がそこにはあった。

「……エルフ」

「なんですって?」

 フレットも驚いて背後を確認する。

 その表情は、アーリンとマーファとは違い好意的。

 タメエモンもフレットにつられてエルフを探すが、見つからない。

「どこダ?」

「ほら、あの上ですよ」

「ン? あの耳は確かに。ダガ髪の色ガ……」

 タメエモンの知る唯一のエルフ、マーファの髪色とは違う。

 それが疑問だと首をひねるタメエモンにフレットがエルフとはと講釈を開始する。


 元々本気の闘争の空気ではなかったとはいえ、明らかに和やかな空気が流れてしまうとアーリンと相対していた魚人は面白くはない。

 苛立ったように繰り出した理合いもない拳。

 本来なら触れることなどできないはずのアーリン頬を捕らえる。

 そしてぎろりと睨まれた魚人は、初めて当たった攻撃に歓喜する余裕もなく委縮する。

「わるい、お前の相手をするのは後だ」

 初めて感じたアーリンからの圧力。

 たじろいだ魚人をよそに、アーリンはいて欲しくはなかった人物を再び睨む。

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