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二 キャンプ

 道なりに歩いて行けば、遠目にぽつぽつと建物の群が見え始めた。あれが春乃の言う街なのだろう。街、と呼ぶよりは村に近い気もするなと春斗はその影に目を向ける。


 ここまで広大な平野だと農地にでもされていそうなものだが、そういうわけではないらしい。ぽつぽつと中身のない会話をしながら歩けば、いくらか平静を取り戻してきたような気がした。


「お、ハルノじゃん」

「久しぶり。また採取? 精が出るねー」

「生業だからね。そっちのはどちら様?」


 声をかけてきたのは明るい髪の女性だった。つかみ所がないように見える女性は、その目だけが血のように赤い。


 それが古い記憶を思い出させるようで、なんとなく身震いをしたくなってしまった。


「紹介するね、こっちは春斗。さっきそこで知り合った冒険者。で、こっちがカナメ。腕のいい錬金術師」


 やっほー、と軽いテンションで右手を振られたから、どうも、とつられて返した。


 悲しいことにカナメは春斗たちよりも背が高い。それがそこそこむなしく思えて、春斗はカナメから目をそらした。


 それよりも、と建物がある方向に目を向ける。近くにキャンプがあると言っていたはずだが、もうそろそろ見えないものだろうか。


 空の色は青から茜色へ移り変わり始めている。この場所がどういう場所だか知らないが、ぼうっとしていればあっという間に暗くなってしまうのは目に見えていた。


「ああ、キャンプに来たのか。それならあたしも行くところだし、ご一緒させてよ」

「もちろん。春斗もいいよね」

「そもそも俺は案内してもらってる側だ」


 両手の平を上に上げれば、あら意外、と春乃がわざとらしく口元に手を当てて驚いた風に言った。腹立つな、とつい口に出してしまえば、けらけらとカナメが笑う。


「しっかし、ただ者じゃなさそうね。もしかして期待の新人……いや、隣国から来たとか?」

「知らん」

「強者の風格ってやつ? いいねー、嫌いじゃないよ」


 それは本当に知らない。そもそも春斗は冒険者ではないのだが、話を合わせた方が都合がいいため黙っていた。


 そうして歩き始めてものの数分でキャンプ地が見え始める。近いと言っていたのは嘘ではなかったらしい。空の色は柔らかな赤が青を覆うように変化している。


「さて、今日はあたしたちだけか。運が悪い」

「見張りは私がやるよ。カナメはなれてないでしょ」

「さすがにそれは罪悪感がなー」


 薪の跡と、申し訳程度の寝床がある。すぐそばには大きな木と、人間二人分ほども背丈のある巨大な花が生えていた。


「寝ずの番が要るなら俺がやる。何度かやったこともあるし、問題ないだろう」


 花に目を向けたまま口を挟んだ。春乃とカナメはきょとんとした顔をしていた。仕草がぴったりと一致していたのだが、そもそも二人の方を見ていない春斗は気がつかなかった。


(魔術の痕跡も魔法の痕跡もないが、気配はあるな)


 悪意の類いではないことが分かれば十分か、と春斗はようやく花から視線を外した。


「寝ずの番の……」

「……経験がある?」

「何かおかしなことでもあるか?」


 そう問えば、春乃は眉間にしわを寄せ、カナメは顔を輝かせた。あまりに対照的な反応に驚いていると、カナメが先に口を開いた。


「もしかして、結構偉い人のおつきだったりしたの?」


 春乃が苦笑いを浮かべた。

 そういう話が好きなのか、とどうでもいいことを知りつつ、別に違うが、と正直に答えた。


 そもそも春斗が暮らしていた現代社会において、「いと尊きご身分」など古い時代の話でしかない。教科書や本の中でしか知らない話だ。


 全くないと言えば嘘になるだろうが、少なくとも春斗にカナメの言うような経験はなかった。


「あはっ、言ってみただけ。それじゃあハルトにお任せしちゃっていい感じ?」

「罪悪感がどうとかっていってたのはどの口さ」

「あはは、いいじゃんいいじゃん。ここは男の子の好意に甘えときなって」


 その代わり外の支度はあたしたちがやるからさー。カナメは手際よく乾いた枝を薪の跡に放り込んで火をつけた。


 ほう、と感心するようにそれを見ていれば、カナメは得意げにウインクをして見せた。


「研究室にこもる錬金術師も多いけど、あたしは断然フィールドワーク派なんでねー。こういうのは結構得意」

「魔物から逃げるのも得意、と」

「そりゃもちろん。素材を求めて死んじゃったら元も子もないじゃん」


 茶化すような春乃の言葉を肯定して、夕食はリップサービス、などと歌いながら乾いたパンを春斗に投げてよこした。

 ぱっさぱさの、いかにも携行食といったパンであった。


 訳の分からない状況で人間の食べ物が食えるだけ贅沢か、と春斗はパンをちぎって口に放り込む。もともと乾ききっていたパンが口内の水分を一気に吸い取っていく感覚がなんとも形容しがたい。


 あたりはあっという間に暗くなっていった。赤色が差し込んだ空が藍色に覆われ、そしてきらきらと瞬く星が顔を出す。真っ白な月が夜空に空いた穴のようだ、と思った。


「寝ずの番はしたことあるのに、野宿したことはないんだ?」


 好奇心からか、カナメは春斗によく疑問形で話しかけてきた。もそもそとパンを食べている間もそう話しかけてきていたから、それはまあ気になるか、と気にしていなかった。


「いや、野宿したことがないわけじゃないが、星はあまり見えないから物珍しかっただけだ」

「星が?」

「森の奥とか、洞窟とかでしょ」

「そっか、冒険者だもんなあ」


 不思議そうな声にフォローを入れたのは春乃だった。うかつな発言は慎むべきだな、と春斗は背中に冷や汗をかきながら揺れる炎を見つめた。


 暗くなってできることと言えば話すことぐらいで、そもそも日中活動していたカナメは疲労も溜まっていたらしい。先の会話を終えると、一つ大きなあくびをした。


 雑に敷かれた薄い布の上に座って、大きな木にもたれかかる。おやすみー、と気の抜けた声が落ちれば、すぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。


「じゃあ私も寝るね」


 おやすみなさーい、と体育座りをするように春乃が丸まる。おやすみ、と一泊遅れてから小さく声をかけた。

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