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男装令嬢、”白熊”に拾われる

作者: さんっち

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


pixivでも創作小説投稿をしております。

家族の誰とも違う紫の長髪、淑女とは言い難い性格、特に何か優れた才能もない。それが下級貴族モルト家の娘、レミー・モルトだ。モルト家の血を持つ女性(現当主の妹)と、紫の髪を持つ使用人の間に産まれた彼女。幼少期は父親の元で長く過ごしてきたためか、口調も仕草も明るく自由。良く言えば天真爛漫、悪く言えばお転婆だった。


しかし一応モルト家の血筋を持っていたため、8つの頃からモルト家に引き取られた。以来、彼女はモルト家の者として育っていたが、正統な当主を父に持つ従兄弟(従姉妹)とは、扱いに大きな差があった。当主の実の子供たちがとりわけ愛されて育つ中、レミーは家族からどこか距離を置かれる。それが彼女の家族の形だった。


元々の人間性の違いも大きい。従兄弟や従姉妹は勉学や武術などで才能を見いだされており、紳士淑女の姿勢も身につけ、将来有望な跡継ぎになると期待されていた。一方で彼女は、何をやってもダメだったのだ。必死で勉学に取り組んでも、中盤の成績しか取れない。身なりや仕草を改善しようと努力しても、どうも無理で耐えられない。家の名に合うような功績は、何1つ残らないのだ。


もはや親族は誰も、レミーに期待などしていなかった。「レミー・モルトは優秀な我が家に相応しくない」という烙印を押され、厄介者のように扱われる日々が長く続いていた。


そして14の時、レミーは伯父夫妻にこう告げられる。


「レミー、貴女はこの家で活躍するような人材ではないわ。メリーナ(姉)は学者、ポアール(兄)は騎士として活躍する中、貴女だけ何もないなんて、何て恥知らずな子!我が家の繁栄のため、嫁ぎなさい」


まぁ「この家で活躍できるような人物になれなかった」ことに関しては、自分でもよくわかっていたことだ。だから、特に反論する気にもならなかった。だが嫁ぐように言われたことに、遠回しで家から消えろと突き放されたのだと理解する。


「いいか?ハッキリ言ってやろう、お前はこれくらいしか家に貢献できることがないんだ。この家のために、私たちの言うことを聞け!」


彼らの冷たい言葉が、胸に突き刺さる。自分は、彼らにとってただの権力を得るための道具なのだと自覚した。自分の存在価値を否定された気分になった。


しかも提示された嫁ぎ先というのも、とんでもない場所だと知る。相手は広大な地主であり、この婚約によってモルト家は安定した土地代を得ることが出来るという。


しかし、相手はかなり年上の老体。しかも金遣いは荒く、酒癖や女癖も悪いらしい。既に女相手は指の本数を超える。そんな男のところへ、20歳にもなっていない娘を送り出すと言うのか!?そう考えるだけでゾッとする。こんな男の元へ行ったら、どんな目に遭うか分からない。考えただけでも恐ろしい。


それでも両親や家族の無言の圧力が、レミーに襲いかかってくる。受け入れるでしょう?拒否するはずがないよな?まさか断るなんて、馬鹿げたことは言わないだろ?と訴えかけてくるのだ。もはや彼女には、否定の意志を示すことすら許されない。


その夜、レミーは狭い自分の部屋で思い悩んでいた。愛されてもない家の利益のために、私はこのまま一生この家で飼い殺しされるのか?死ぬまで道具のような扱いを受けるのか?そんなことばかりが頭の中で渦巻き、彼女を不安や孤独に追いやらせる。


「嫌だ、利用されるだけなんて絶対に嫌だ!この家には育ててはもらったけど、この家のために生きたいなんて思わない!私は私のために生きるの!私が決めた道で、生きてやるんだ!!」


この時、彼女は大きな決断をした。逃げよう。このまま最悪な老いぼれの下へ嫁ぐくらいなら、この家から逃げた方がマシだ。平民の生活も知っている、働くくらいなら自分の力で出来るはず。それに、自分だって幸せになれるはずだと信じたかった。


だが逃げた後、モルト家はレミーのことを追うはずだ。婚約という名で追い出すだけで、それなりの利益を得ることが出来るのだから。自分がレミー・モルトだと気付かれてはいけない、とはいえ「紫の髪を持つ娘」は目立ちやすい。とすれば・・・・・・。


「髪色を視覚的に変えることは難しいから、見た目を変えよう。そうだ、ならいっそ「男」になろう!」


肩ほど伸びていた髪をバッサリ切り落とし、父のお古である長袖シャツとズボンを身につけた。帽子を深く被れば、髪や顔は見えにくい。


「これならきっとバレないよね?どう見ても、出稼ぎの少年でしょ」


鏡に映った自分を眺めながら、レミーは笑みを浮かべた。そして深夜、最低限の荷物を持ち、行く当てもなく家を飛び出す。これからどうするか不安に思う暇もない、とにかく逃げるだけだ。


レミーは持っていたお金を大半使って、朝一の馬車に飛び乗る。その日の午後には、異国の全く知らない町へと辿り着いていた。早速仕事を探そう、と張り切っていたが・・・帰る宛のない14の少年が住み込みで働ける場所など、そう簡単に見つからない。犯罪臭いものや、女だとバレる売春のような仕事ばかり残っていた。


「そりゃあ、そう簡単にいかないことは覚悟してた。でも・・・・・・」


すっかり日の暮れた路地裏、レミーは1人うずくまり、レンガの壁に寄りかかる。どうしよう、どうしよう・・・・・・。焦りと不安が一気に襲いかかってきた。あの家に戻るという選択肢は、とっくに消した。でも本当に平民の少年として、この町でやっていけるのか。今日の食事と寝床すら危ういというのに・・・・・・。



「少年、こんな場所で靴磨きか?にしては道具も何もないが」



俯く彼女に、低い声がかけられる。見上げると、少し年のいった男性のシルエットが見えた。白髪の混ざった短髪に、口元に生えた短い髭。鋭い眼光に小馬鹿にするような物言い。本で見る素敵な王子様のような雰囲気ではない。一見すれば、あまり良い印象を持たれなさそうな男だ。・・・しかし何故か、レミーはその男性に対して妙な安心感を覚えた。


「どうした?これから寒くなる一方だぞ。誰かを待っているのか」


「・・・仕事を、探しているんです。ワ・・・、僕、家にはいられなくて」


レミーは“レオ”という少年だと名乗り、家を出て仕事を探す出稼ぎの少年だと偽った。嘘をついているのがどこか後ろめたく、男と視線が合わせられない。そんな中、男は笑う表情こそするが、疑いもせずにウンウンと話を聞いてくれているようだ。その姿勢も相まってか、つらつらと先ほどの思いもぶちまけていた。


「体を売るのも嫌、犯罪に関わるのも嫌。随分要望が多いと、良いところの子のようだな。・・・まぁ、訳ありというものか」


ふぃー、と男は息を吐く。やがて自ら着ていたコートを、レミーに羽織らせた。


「袖触れ合うも多生の縁とは言うが。1日くらいなら泊めてやろう」


男の言葉に「あ、ありがとうございます!」とレミーは頭を下げ続ける。もしかしたら下心があるかもしれないとも思ったが、彼はただ優しかった。小さな部屋で温かい食事と寝床を用意してくれた、ただただ優しい人だった。今日はここで休んで、明日からまたやっていけそうな仕事を探そう・・・。レミーは再び希望を持てた、この人で良かったと素直に思った。


男はイトベと名乗った。それ以上は、自己紹介では言わなかった。



「どうだレオ、私の仕事場でも行ってみるか?長期的な雇いは難しいが、多少は続けられるだろう。それにどういう仕事が合っているか、知っておく機会にもなるだろうし」


翌日、イトベにそう言われたレミー。断る理由もないので、案内されるがままについていくことにした。彼の職場は比較的都心部で、古くも隠れ家のように佇む綺麗な路地裏。高級そうな雰囲気が漂っているように感じる。ここ、私が入って大丈夫!?と、薄汚れた衣服のレミーは心の中で焦っていた。何食わぬ顔で進む彼を慌てて追っていくと、彼に気付いた人物が声をかける。


「おや、旦那。珍しいですねぇ、そんな弱そうなガキと一緒にいるなんて」


いくら嘘をついているとはいえ、堂々と馬鹿にされたことに、レミーはついムッとした顔になる。するとそんな彼女を庇うように、イトベは前へ出た。


「まぁ、知り合いの子だ。家を出て仕事しなくちゃいけないらしくてね、ウチの手伝いでもしてもらおうか考えてるんだ」


「あー、確かに。旦那は掃除とか出来ませんもんね。でもそれなら、せめて女の子の方が良いでしょうに。もしかしたら【嫁】になってくれるかもしれないんすよ?」


「・・・っ!」


嫁、という言葉にレミーは一瞬震えた。あの時出された嫌な見合い話が、ここでふと蘇ってきたからだ。相手は激怒しているのではないか、家族は死に物狂いで探しに来ているんじゃないか・・・。そう思うと、怖くて仕方がなかった。レミーから醸し出される負の雰囲気を感じ取ったのか、イトベは「急ぐので失敬する」と会話を切り上げ、あの男から距離を取ってくれる。


「失礼だな、男をあたかも女のように扱って」


「え、あ、その・・・」


そこまで気にしてませんよ!という建前で上手く取り繕った。一方で、女だとバレたんじゃないかという不安もあった。性別を騙るのがこんなに大変なことなど、今更だが・・・。


それから目的地に着いてようやく、イトベという男のことが分かってきた。彼はとある小さな路地店を構え、様々なモノの修理屋を営んでいる。ここで彼女は、店の雑用をさせて貰えることになった。店の掃除から配達など、裏手で支えることが仕事。食事と寝床付きの下働きは、彼女が望んでいたような職場だ。勿論作業や家事は体力勝負で、イトベのこだわりもそれなりに覚える必要があった。それでも、感謝されてやりがいを感じることが喜びだ。


ところで・・・白い見た目と時より見せる性格から、なんとなく彼が“白熊”のように感じてきたレミー。動きがゆっくりだし、日なたぼっこが好きだし、おっとりしているし。色々考えては可笑しくなり、クスクスと笑う。


「どうしたレオ?何か楽しいことでもあったみたいだな」


うっかり笑っているところを見られ、慌てて視線を反らすレミー。「き、今日は暖かいな~って思って」と、適当なことを言って誤魔化した。


「レオ、寒さが苦手なのか。温暖な地域の出身と見えるな」


「え、えぇ。そこまで寒くない場所で育ったので」


「そんなお前がこんな北国に出稼ぎとは・・・。苦労してるな」


「え、えへへ(とにかく遠くに行きたくて、行き先を見てなかったなんて言えないな・・・)。でもイトベさんのお陰で、なんとかやれてます」


嘘ばかりつく自分を、こうして必要と思ってくれる人がいる。それだけで彼女は救われていた、心はずっと晴れやかだった。



そんなある日、町中にとある号外がばらまかれた。それは異国より消えた貴族令嬢の捜索を求める内容。


【・・・レミー・モルト・・・紫の髪・・・】


自分の本当の名前が記され、自分の本当の姿がはっきりと出ている記事。レミーは心臓が止まる思いがした。「どうした?」と何も知らないイトベに悟られまいと、慌てて紙を折りたたみ、何食わぬ顔を装う。


「い、いえいえいえいえいえ!ぼ、僕らには・・・関係ない内容です。き、貴族令嬢なんて・・・平民の、僕には・・・なんか・・・」


何もないとは思えない様子、何かあったとしか思えない表情、それを見られたくない。それに気付かれて、変な顔をされているのを見たくない。そのためか、レミーは怖くて視線が合わせられない。この瞬間さえ、うやむやにすれば良い。必死に明るく振る舞い、何事もなく距離を置こうとした・・・・・・が、レミーの左腕は、イトベがガッチリと掴んでしまった。


「え、イ、イトベさん!?そろそろ、仕事に・・・・・・」


「待て、まずは話だ」


店先をCLOSEにして、扉に鍵をかけ、イトベはレミーをソファに座らせる。強引さはないが、逃げられない空気が店中を覆っていた。彼はココアを淹れると、ゆっくり渡す。そして隣に座り、真剣な眼差しで見つめた。


「・・・何故、そんなに震える。何がお前を苦しめる」


「あ、あの、だから、僕は平気で・・・・・・」


「・・・お前は誤魔化すとき、視線を反らす癖があるようだな」


図星を当てられて、レミーは言葉を失った。彼はどこまでも優しい目で、彼女を見る。その優しさが、彼女の心を締め付けた。瞳は既に、涙で滲んでいる。


「安心しろ、誰にも言わない。ここで聞いたことも忘れよう」


「・・・・・・ありがとう、ございます」


それからレミーはゆっくりと、これまであったことを全て彼に話した。自分が本当は女・・・レミー・モルトであること。家族から距離を置かれて育てられ、道具のように婚約に利用されそうになり、逃げたこと。見つけられたくないから少年だと偽り、遠いこの地まで逃げてきたこと・・・。見たものや経験したこと、そして自分の思いを、包み隠さず全てを吐露した。イトベはそれを静かに聞き、時折相槌を打ってくれる。


話し終えると、イトベは深く息をついた。まるで重荷を下ろしたように、肩の力を抜いていた。しばらく無言だったが・・・ふと、ポツリと呟く。


「コイツは・・・・・・・・・・・・”白熊”になる事案だな。この家々には、そろそろ天罰を下す時間だ」





「まだ末の娘さんは見つからないのか?そろそろ若い子が欲しいんだが」


「申し訳ない、近くの国々に探している知らせをばらまいたところでね。まぁ紫の髪を持つ娘だ、すぐ見つかるさ」


モルト家当主は老いぼれの屋敷まで足を出向き、密会をしていた。このままでは契約通りいかないのではないか、という老いぼれの不安を取り除くためだ。


モルト家の当主と、レミー・モルトの婚約者とされる老いぼれ。2人は昔から裏でひっそり繋がっており、互いの悪事を共有した上で隠蔽する、共犯者のような関係だったのだ。現在の当主はモルト家は代々続く名家であることを利用し、権力を振りかざし横暴な態度を取っている。老いぼれは地主故の財力を使い、色欲にでも取り憑かれているかのように、大勢の女性との関係を築き上げていた。当主は定期的に彼に女性を紹介することで、それなりの収入を得られているのだ。


「あと娘ではなく姪、出来損ないの妹の子だ。使用人と関係を作った上に、紫の髪なんぞ産みやがって。まったく」


「まぁまぁ、腐っても若い女じゃないか。私の遊び相手くらいにはなるだろう」


そう、婚約者というのは建前。実際は籍など入れず、ただの愛人の1人という扱いなのだ。レミー・モルトはただの使い捨て道具、彼らにはそうとしか見えていない。


「拉致でも強引でも良い、その娘を連れてきてくれ。金ならいくらでも出す」


「こちらの不手際で申し訳ない、なんとかしてみせよう。約束通り、また金を頼むよ」


密会に相応しい汚れた話だ、それもここでは当たり前といったところだろうか。


なら、余計に制裁する腕が鳴るものだ。



ーーーそうやって甘い蜜を吸うのが、貴様らの幸福か。穢れた権力者どもめ。



バンッ!!と蹴破られた扉。そこにはイトベが仁王立ちしていた。突然の乱入者に驚く2人を他所に、イトベは堂々と部屋に入り込む。


「なんだ、貴様は!?誰も入れるなと言っておいたのに!?」


「おい、衛兵!侵入者だ、早くこの男を・・・」


声を上げる当主に、イトベは1発腹へと蹴りを入れた。鈍い音と悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちる当主。老いぼれにも同じように蹴りを入れ、動けなくさせた。イトベは倒れた当主を見下し、胸ぐらを掴んで持ち上げる。


「これはこれはモルト家のご当主殿、こんなところで何をなさっている?」


「き、貴様こそ誰だ!」


「“白熊”とでも名乗ろう。風来坊の仕置き人だと思ってもらえれば結構」


白熊・・・当主たちも、噂だけは聞く存在。白髪に白い服など、いつでも白を身に纏う。そして悪党など何かしらの獲物に対しては、捕食する熊のように容赦しない。野生の白熊のごとく、自らの純白を汚すがごとく、返り血すらも貪る・・・。悪人どもの始末によって、治安維持に貢献する男。それが、彼である。


「さてモルト家の当主とここの地主。闇金とも言える不法な金銭契約を結んだとして、貴様らを現行犯として断罪する。まずはその身を拘束させてもらおう、処分においては後々向こうから下される」


「ふ、ふざけるな!貴族に対してそのような態度・・・どれだけ無礼な男だ!何の権限があって、そんなことをする!?」


「お前らが知る必要はない。お前らは裁かれる側の人間だ」


「ふ、ふざけるな!!」


当主は殴りつけようと拳を振ろうとするが、バチン!という音で受け止められる。受け止められた拳は、ビクともしなかった。



「いい加減、己の過ちを認めろ。この悪質な契約は、氷山の一角に過ぎないのだろう?」



低い声、全てを暴くような鋭い眼光、怒りに満ちた表情。白熊の怒りは、全てに注がれていた。当主と地主も、もはや抵抗する意欲を失ってしまった。何も言えず、2人とも膝から崩れ落ちるしかなかった。白熊から事前に通報を受けて、後から入ってきた兵士たちにそのまま拘束されていったのだった・・・。



モルト家の当主は、地主との悪質な契約以外にも、様々な犯罪に関わっていた疑いが浮上してきた。娘の学校卒業のため、学園長へ多額の賄賂を贈り、卒業に必要な単位数を獲得したこと。息子の騎士養成学校へ金品を渡し続け、彼の実績を捏造したこと。他にも数え切れないほどの悪事が発覚し、モルト家は没落した。当主とその家族、さらには地主の一族も、領地や爵位の剥奪、都からの追放が下された。


イトベが関わったことは一切隠すため、彼はあくまで人づての話として、レミーにこの内容を伝えた。


「そう、ですか」


叔父家族の没落という形で、不当な婚約から解放されたレミー。突然のことが一夜で起き、感情が追いついていないようだ。それはそうだ、今はそっとしておこう・・・と、イトベは決めた。しかしある程度仕置き人として活躍したら、噂が立たぬ内に身を移すのが、イトベの流儀だ。カモフラージュの修理屋も閉店させるため、まずはレミーを自分から離れさせる必要がある。


「レミー、もうモルト家はない。これからはお前のために生きれるんだ、だが・・・ここにもいることは出来ない」


「えっ!?」


「実はな、私の田舎で色々あったようで。ここでの仕事を辞めて、戻らなければならなくなってしまったのだ。だがレミー、安心しろ。お前の望み通り、安心できる仕事先を紹介するから」


彼が用意した嘘、彼が用意した設定、彼が用意した物語。予想通り驚き嫌がっていた彼女だが、イトベの説得により渋々と了承してくれた。同じ路地で店を営むあの男にレミーを引き継ぎ(絶対に馬鹿にするな、と威圧感を与えつつ)、彼女を少しだけ見守り・・・その日の内にイトベは1人、異国への旅路に踏み出していた。イトベは笑みを浮かべながら、次の目的地へと足を進める。まぁ、目的地があるかなど分からないが。


「さて・・・次はどんな場所で、どんなカモフラージュをしようか。これを考えるのも、楽しみとして受け取っておくか。まぁ始末者として動くことがないのなら、平穏で良いのだが・・・。ともかく、ここから離れないと」


「ここは北国ですし、次は暖かい国が良いんじゃないですか?」


「あぁ、そういうのもアリか・・・・・・って、え?」


イトベがバッと背後を振り向くと、そこには別れを告げたはずのレミーの姿。あの時と同じレオの姿をして、持っていた荷物を抱えている。呆然としているイトベに、彼女は笑顔を見せた。


「私は、忘れたくない。レオとして貴方といた、あの日々を。貴方に救ってもらったことも!」


「・・・・・・」


彼女の嘘を暴いたように、自らの隠し事も暴かれたのか・・・。ふぅ、と大きく息を吐く。


「貴方についていきたいんです。貴方が私を助けてくれたように、私も誰かを助けたい!」


「・・・後悔しても知らんぞ?私のような男と一緒にいるということは、それ相応の危険に巻き込まれる可能性もある。それでもいいのか?」


「構いません。悪事に巻き込まれて悲しむ人を、私の出来る方法で救いたいんです。誰もが皆、自分らしく幸せに生きて良いから!」


技術はなくとも、志はまっすぐのようだ。相当のことでは動じない、そんな覚悟が伝わってくる。ならばこちらも覚悟を決めよう。


「分かった、共に行こう“レオ”。己の思うままに、幸せへと向かって」


「はい、行きましょう“白熊”さん」


彼女の・・・いや、彼らの道には何があるだろうか。互いに偽りを持つ2人には、どんな結末が似合うのか。それは誰にも分かりはしない。


それでも進もう、この先にある幸せを願って。


fin.

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。

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