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我らが姫君【西園寺衆視点】

本編進めるべきかなーとは思いつつも、周りとの関係性や変化というものは書いていきたいのですいません。

次はちゃんと炭玲サイドに戻します。

 









 組み手のために集められた練兵場。

 南雲出身の者と西園寺出身の者、最初の頃は諍いが多かったものの、今では同じ旗を掲げる同志としての連帯感が強く生まれつつあった。



「次っ!」



 そして、その中央。

 西園寺から来た我らが姫君が南雲の誇る最精鋭と相対し、その強さを惜しげもなく披露している姿が皆の目に映っている。



「さすがですなぁ。敵側にいたらと思うと、ぞっとしますよ」


「ははっ、こちらこそ。南雲のご当主様は死んでも御免です」


「「あはははっ」」



 そんなことを言っている間にも、自身の麾下きかの兵は宙に投げ出され、悲鳴をあげている。

 まるで、嵐のような、それでいて、美しい舞のような動きはずっと見ていたくはなるものの。

 しかし、さすがにそろそろ終わりにしなければ明日以降に響いてしまうだろう。


(…………やはり、ここに来て正解だったか)


 人を数でしか数えることのできない西園寺。

 その中にあって、優し過ぎた三の姫のおかげで麻痺していた自分たちの心が緩やかに溶かされていった記憶は、この場にいる出奔者全員が共有していることだ。

 

 誰かが死ねば、無表情に墓を作り、泣くでもなく、ただただその前で立ち尽くす。

  

 不器用な優しさに、無駄な死者は出さぬと手から血が吹き出るほどに鍛錬を重ねるその姿に、だからこそ仕えてきた主家を捨ててでも一族郎党ついてきた者は多い。

 

(……それに、例の奥方様も気に入られたようだしな)


 明らかな上機嫌に、それが手に取るようにわかる。

 むしろ、ここまで張り切られてしまうと、それはそれで兵達が可哀想だと苦笑せざるにはいられない。



「姫様……少々休憩なされてはいかがでしょうか?」


「なに?………………ふむ。もうこんな時間か」



 その声に、上を見上げた主は既に太陽が天高くあがっていることに気づいたのだろう。

 一瞬、しまったというような顔をすると、少し恥ずかし気に巨大な槍が地面に打ち付けられる。



「よし、休憩の号令を出せ」


「はっ!お前達、喜べ。休んでいいぞ」



 そして、号令とともにそれを見計らっていた女中たちがせっせと握り飯を運び始め、我先にと兵達が突っ込んでいく。

 これもまた、連帯感を高めるには必要なことだ。

 多少の意地汚さは目をつぶる他ないだろう。



「……また何か、いいことがございましたか?」


「………………ああ。あった」



 まるで余韻に浸っているかのような、静かな言葉。

 顔に浮かんでいるのは混じりけのない笑顔だけで、それがどれだけ嬉しかったかが見て取れる。


(…………また、表情が増えた。よいことだな、これは)


 抑圧され、笑顔はおろかピクリとも顔を動かすことのなかった男装の姫君。

 人形や着物、昔はそういったものを好んでいた主のそれは、上の姉達に嘲笑われ、壊され尽くした。

 恐らく、どちらかと言えばはかりごとや裏工作といったものを得意とする西園寺において戦場に立ち始めたのは、本人の才も関係はすれど、そこから少しでも逃れたかった気持ちが強かったのでは薄々ながら思っていた。



「……それは、ようございました」


「…………はやて。某は……わたくしは、きっともう過去に縛られることはないでしょう」


「……………………そう、ですか」


「ええ。こんな、着る物さえ見つからないような図体の大きいわたくしを、殿方以上に力があって可愛げのないわたくしを……炭玲様は理想の姫だと、そうおっしゃってくれました」



 分家の自分が何を言っても、西園寺の方々が変わることは終ぞなかった。

 そして、その間に擦り切れ、自身を隠し始めた主の、その穏やかな笑みに思わず心動かされる。


(………………不甲斐ないものだ。やはり俺には、女子の心を扱うことなど向いていないのだろうな)


 ため息を吐きながら、自嘲染みた笑顔が浮かんでいくのがわかる。

 しかし、そろそろ自分も嫁を迎えるには適齢期だ。

 もしかしたら、外見に見合わず何でも器用にこなせるグレン殿に一手ご教授してもらった方がよいのかもしれない。



「……姫様は、姫様ですよ」


「…………はははっ。お前らしい言葉だな」


「気が利かぬところは、ご容赦ください」


「ははははっ。よしっ!某に勝ったら、許してやろう」



 豪快な笑い声が、その場に響く。

 兵達を勇気づけるため始めた、最初は無理やりで、今は自然なその笑い声が。

 

(……とりあえず、空回りしないことだけ心配しとくか)


 考え始めたら猪突猛進、意外にそそっかしいこの主が、変なことをしでかさないかは見守る必要がある。

 しかし、それでも。

 今浮かべている笑顔は、本物で、心からのものであることが伝わってくる。


(そろそろ先へ進むとするかね、俺も)


 初恋の相手と添い遂げられないことは昔からわかっていた。

 誰よりも女性というものに憧れを抱く主には、少なくとも守れるほどに強くなくてはいけないことも。


 でも、それでもいい。俺は、ただ見ているだけで。

 風は自由に、我らが姫君は天を舞っているのが一番似合うと思うから。


 


 


 



公私ともに忙しすぎて、しばらく手を付けられませんでした、申し訳ありません。


また、特に十二月は予定がぎっしりであまり更新できないことがあるかもしれません。




空く時間が出来次第、いずれ更新はしていく予定ですので、よろしくお願いいたします。

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