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Shuffle  作者: タイチャビン
第一章 白と光と透明人間
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脆き儚き


「あー、恥ずかし」


 混雑した駅中を小走りしながら、俺はそんな事を呟いていた。思い出されるのは僅か数分前の出来事だ。

 

 中学に上がり電車を使い始め、一年以上が経過していた。そうすると、ただ改札を通るという行為が本当につまらなく思えてくるのだ。

 そこで、何となくスタイリッシュにに改札を抜けようと思った。ICカードの読み取り部に向け、定期を思い切りスライドさせるように翳す。勢いそのまま腕を上げフィニッシュ。完璧なプランだ。

 結果、傍にいた人たちに生暖かい目で見られ、時が止まった様に静寂が訪れた。


『後ろに下がって、もう一度タッチして下さい』


唯一聞こえた音はこれだけだった。


 結局その後も異様に視線を感じ、駅から逃げる様に家に帰った。

 といっても、我が家は駅から徒歩三分である。

親が定食屋を経営しているのだ。駅に近いに越したことはない。無論その分値は張るが、収益がそれを大きく上回っている。具体的には、日本の平均サラリーマンの年収のニ倍近くある。常連も多く毎日繁盛しているため、手伝うことも多い。お陰様で料理は特技となった。


「ただいまー」


「あら、来人おかえり。帰ってきたとこ悪いんだけど、皿洗い手伝ってくれる?」


 そう声を掛けてきたのは母である。

軽くOKし、学校の制服から店の服に素早く着替え、母の元へに向かう。三分とかからない。手慣れたもんだ。


「今日なんかあったの?変な顔してるよ」

 

「あはは、ちょっとね」


 隠す理由もないので先の出来事を語る。なんか話しててまた恥ずかしくなってきた。

 盛大に笑われた。母は誰に対しても遠慮とか気遣いとかが全くない。そこが母の良い所であり悪い所でもある。

 そんな事を考えていたら母が厨房で料理をしている父にも言いふらしていた。母以上に笑われた。母もつられたのかまた笑っている。本当に笑顔が似合うなぁ、この二人は。

 俺がこんなに甘いから二人は俺に対しても遠慮がなくなったのだが、改善するつもりはない。我が家はこれで良い、というかこれが良い。


「よし、終わったー」


 母は一生笑っているので、結局全部一人でやった。時計を見れば20時手前、流石に腹が減った。

 この定食屋『天草亭』は22時まで営業しているので、両親は晩飯を作る暇がない。故に大抵コンビニ弁当で済ましている。今日はのり弁だ。

 食事を済ませ、風呂に入り二階の自室(六畳半)でのんびりしていたらすぐに23時を過ぎてしまった。そろそろ寝よう。

 灯りを消し、ベッドにダイブ。俺は寝付きはいい方だと思っている。だから布団に入れば直ぐにーーー。


△▼△▼△


妙な寝苦しさを感じ、布団を蹴飛ばす。寝ぼけた目で窓を見れば、外は明るい。朝だ。それにしても


「暑いな…もう秋だぞ?」


最近の地球温暖化とやらの影響だろうか、まさかここまでとは。ぱぱっと制服に着替え、鞄をとって

一階へと降りる。


「ん?」


一瞬視界に入った時計に目を疑う。


ーー午前2時49分。


深夜真っ只中じゃないか。

ここで疑問が生まれる。


ーー外は何故明るいのか


まさかと思い、店の厨房へと向かう。が、辿り着くことはできなかった。火事だ。火の不始末だろうか、几帳面な父がやるとは思い難いが…。

そんな事を考えている場合ではない。とにかく外へ逃げよう。本能がそう言っている。まだ火は完全に周りきっていない。二人は後回しだ。こんな時こそ冷静に。

 玄関に走って向かいながら先の事を考える。まずは助けを呼ぼう、携帯は部屋に置いてきてしまったからどこか灯りのある所に行って消防を呼んでもらおう。

 そこまで考えて玄関へと辿り着く。戸を開け、助けをーーー。


「は?」


 灯りはあった。しかも一つや二つじゃない、駅前全ての建物に灯りがついていた。


ーーー見える限り全てのものが、己の存在を示すかのように燃え上がっていた。


 既に崩壊している建物もあった、振り返れば我が家もメキメキと嫌な音を立てて壊れていく。


「ーーぁ」


掠れたような声しか出ない。だが必死に走る。逃げ道はまだある筈だ。見逃さないように一つ一つ、道なき道を走って、そしてーーー。



 体が膝から崩れ落ちる。

ああ、もう駄目だ、死ぬしかないのか…。

まだ生きたかったなぁ…。

だってまだ十四だよ?人生の六分の一も生きてないじゃん。

母さんの美味い料理、もっと食いたかったなぁ…。

父さんにもっと笑って欲しかったかったなぁ…。

死にたく、ないなぁ…。

 気がつけば、涙が溢れ、体は全く動かなくなってしまった。


 その時だった。突然、音がした。ガラスが割れたような音だ。それも横からではなく、下から。

恐る恐る視線を地面へ向ける。


ーー大きく、大地が割れていた。


 地割れとは違う。割れ目が真っ黒だから。

まぁ、もうどうでもいいや。


 抗う気力もなく黒く、深い割れ目に落ちていった。






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