モロの神3
「だから君には信じて欲しい。君を守る約束をした私が君の命と言っていい卓也を傷つけたんじゃない事を!」
「信じる、信じるさモロ。・・・いや信じようと努力している。すまないモロ。」
ゆみこ(モロ)は首を横に振りながら言った。
「わかっているよ圭治。信じてくれと言って、すぐに信じる事なんて出来ない事をしかしあの日の事を君に伝えたいんだ。聞いてくれるかい?」
「ぜひ聞かせてくれモロ。」
「あの日、私はあまり体調がよくなかった。君も知っての通りもう年寄りだったから。私はいつもの場所で眠っていた。だが庭で桃子の非常にパニックになっている声が聞こえて来た。庭にあるフェンスが開いていて卓也はそこから外に出てしまった。私はかすかに感じる卓也の匂いともう一つ嫌な感覚があった。しかしどのドア、窓もしまっていたが私は二階の窓が開いてる事に気がつきそこから外に出た。卓也は道路の真ん中で泣いていた。しかし人間とはこうも他人に無関心かとつくづく思ったよ。私は自分が感じた嫌な感覚が勘違いだとホッとした。しかしそれは一瞬で吹き飛んだ。角でよくは見えなかったが明らかに車の音が卓也に近づいていた。私は必死に走ったがどうやら後ろ脚が一本折れてたようだ。
だから私は卓也を覆い被さり卓也と一緒に車に当たるしかなかった。許してくれ圭治。」
「そうか、そうか・・・」
圭治は力が抜けたようで地面に膝をつきボロボロと泣き出した。
ゆみこ、いやモロは眉を八の字にしてとても困った顔をしていた。
「まだ、まだなのか。」
ゆみこは呟いた。
「ゆみこちゃんいる〜?ちらし寿司を作ったのよ〜おすすわけ。作ったって言ってもすし太郎だけどね〜ちらし〜寿司な〜らぁあったかご飯にまぜるだけぇ。あ〜サブちゃんサブちゃん!」
ご機嫌に歌を歌いながら隣の主婦、理恵がちらし寿司を持って中まで入って来た。
「あらま!お客様だった?」
ゆみこは瞬きをした途端に目の色が戻っていてにこりと笑った。
圭治は理恵がが来た事に気づき椅子に座りなおした。
「ちらし寿司は冷蔵庫に入れとくよ〜。」
理恵は返事も聞かずに家の中へと入って行きすぐに出て来た。
「お客さんだからすぐにお暇しないとね、あら〜駄菓子ねぇ懐かしわ〜うちのあっちゃんはいつもうまい棒とビックリマンチョコだったのよ〜。うちのあっちゃんと言ったら、あっちゃんからメールが来てて、うちの柴犬のポチもこの犬みたいにすごかったらねぇって動画が来てなのよぉ。みたい?そう見たいのね。」
理恵は誰も返事をしていないのに動画を見せ出した。
「すごいでしょ〜この犬。」
理恵がゆみこに言った。
「理恵さん、これちょっといい?」
「あっはいぞうぞ。」
ゆみこはそう聞くと理恵の携帯を借りて圭治の前に差し出した。
「な、なんだ。モロが!あーーモロ。」
圭治はそう言いながら、顔を覆い大声で泣き出した。
「な、何か立て込んでるようだからお暇しようかしらね、ゆみこちゃんまたね。」
理恵は携帯を取り返して足早に帰って行った。
「すまないモロ、すまない。」
理恵が見せてくれた動画には車の引かれながらも必死で卓也を助け地面に叩きつけられても卓也をかばい続けたモロの姿が映っていた。
(「うっそぉ、マジ?これすごいんだけど見てみて。」
「うっそぉ、マジ?これすごすぎ!」)
圭治が恨めしそう聞こえてきていた女子高生もこの動画を見ていたのだ。
ゆみこの眼の色が変わっていた。
「圭治、ありがとう。信じてくれて。
ようやくこれで願いを言えるよ。」
「願い?」
「あぁそうさ、君が私を心から信じてくれる事が条件だった。ありがとう圭治。そしてすまない。私はもう君のそばにいる事は出来ないが私は君に出会えて本当によかった。人間を信じる事をもう一度させてくれて、そして幸せな時間を私にくれてありがとう。」
「モロ、お礼を言わなければならないのは僕の方だ。ありがとうモロ!」
「その言葉で十分だ。私はもう行くよ。桃子と卓也によろしく伝えてくれ。」
ゆみこはゆっくりと眼を閉じた。
その瞬間に圭治の携帯が鳴った。
「あぁ桃子か、ごめんよ。えっ?ほ、本当か!!わかったすぐに戻るよ!」
圭治はゆみこに言う。
「卓也が意識を取り戻しました。私は病院に戻ります。ありがとうございます。」
「それはよかった!病院まで暑いからレモネードは全て飲んで下さい。あなたにパワーをくれますよ。」
圭治は頷きレモネードを飲み干した。
ゆみこはモロッコヨーグルを圭治に手渡した。
「ありがとうモロ。また会いに来るよ。」
圭治はそう言って走り出した。
また心地の良い風が吹い来ていた。