天使達のほほえみ・再び3
恭子はここ半年ほど、極度の緊張とストレスで胃が痛い状態が続いていた。
しかも付き合っている紀之との折り合いも悪かった。
しかし本人はワザとその事を頭の中から除外していた。胃薬で痛みを抑える日々は確実に症状を悪化させ深刻な状態である事を恭子はまだ知らなかった。
気を失った恭子は夢の中でも現実を思い出していた。
「はぁ、なぁんだよまたかよ。」
「ごめん、ごめんね。続けて容態が悪くなった子が出ちゃって人手が足りなくて、本当にごめんね。」
「前は緊急手術でその前は緊急搬送された子の経過を見るため、そして今日は容態が悪くなった。それもいつもドタキャンじゃねぇかよ!」
「ホントごめん、ごめんね。」
「浜崎!何しての!早くガーゼを持って来て!」
「ハイわかりました!」
「はっ電話でろくに話もで出来ないじゃんか。もういいよ。」
恭子の耳のは通話が切れた音だけがいつまでも残っていた。
彼女達の出会いは約2年半前。
彼女は体が強い方ではなかった。
病院通いも頻繁な10代を過ごしてそこで出会った小太りだがとても愛嬌がありいつも笑顔の1人の看護師出会う。
彼女には不思議となんでも話せた。
ある時、彼女は海外で看護師をやってみたいと言い残し恭子にお別れを言った。
その行動力と愛嬌そして親身になってくれた事で恭子も看護師を目指し、看護師となった。
しかし実際の看護師の仕事は周りが考えている以上にハードで天使の微笑みなど出せる余裕はなかった。
恭子は自分はなんてダメなんだと毎日自分を責める日々が続いていた。
ある日、恭子は降りる駅を間違えてしまったまたすぐに電車に乗る気にはなれずトボトボと河川敷を歩いていた。
河原に降りる階段を見つけた恭子はその階段をまたトボトボと降りて川べりに腰掛けた。
「はぁぁ。」
深い溜息だけが出る。
「この川にこのまま飛び込んだら楽になれるかな?」
恭子はそんな事を呟いた。
膝を抱えてボォっとしたいた恭子だが
小石を無意識に握り、ふらぁっと立ち上がって川の方へまたトボトボと歩き出した。
もう川があと一歩の距離まで来た時、
恭子は眉毛をキッと上げて持っていた小石を思いっきり水面に投げた。
そう水面飛ばしをしたのだ。
その小石は2回水面をホップした後、
次は勢いよく大きくホップしたところに屋形船がタイミングが良いのか悪いのか通っていた。
「あっ危ない!」
恭子は思わず叫んだ。
恭子の小石は屋形船の船頭さんめがけてまっしぐら、それに気づいた船頭さんは持っていたオールでイチローばりのオールコントロールで打ち返した。
その打ち返された小石は見事に気力なく歩いていた紀之の鼻を直撃した。
恭子は目を見開いて紀之を見た後に船頭さんを見た。
船頭さんは屋形船を止めずに
「後は頼んだよ~。」
そう言い残して小さくなっていった。
「だ。大丈夫ですか?」
恭子は慌てて駆け寄った。
両方の鼻から鼻血を出した紀之は鼻にティッシュを詰めてなんとか立ち上がった。
「本当にすいません。」
恭子は頭を下げたが紀之の鼻にティッシュを詰めた顔を見ると吹き出してしまった。
「笑いまふぃたね。痛ふぃのに。」
恭子は言葉になっていない紀之の返答にまた吹き出してしまった。
紀之はフンっとティッシュを飛ばし
「このまま帰るのもシャクなんで居酒屋に付き合ってください。」
2人は互いに悩んでる事もあり食が細かったがこの時は話も食も飲み物もすすみシメのお茶漬けまで食べる程、時間が経つのも忘れて一緒にいる空間を楽しんだ。
そこから二人の交際が始まり、ドライブや映画そして小旅行など2人で励まし合い笑顔のある充実した日々を過ごしていた。
そうこの時までは。
今は多忙な仕事という強風が2人の思いやりと愛情という炎を吹き消そうとしていた。