手作りの宝箱6
それから3ヶ月が経った。
結子と正一は 歳の年の差があったがあの後に交際をスタートしていた。彼女達は似たような苦しい経験をしていて互いの気持を理解できる間柄でもあり、とても相性が合った。
互いの家を行き来する仲にまで発展して結婚という事を意識せずにはいられないが、後一言一歩が踏み出せないでいた。
結子も幸せを感じてはいたが母の事、お店の事を考えると少し途方にくれた。澄子は母からの言いつけを守り正一が持って来た大量の生姜を取るようになってから元気を取り戻した。
そんなある日の夜。
「正一さんは誠実でいい人だね。」
澄子が突然言い出した。
「どうしたのよ突然?」
結子は少しビックリした。
「率直に聞くけど、結婚しないの?」
「な、なによ!突然!」
結子は少し頬を赤めた。母がそんな事を言うとは夢にも思わなかったのだ。
「結子、お嫁に早く出て行って欲しんだよね。」
「な、何よその言い方、お店はどうするの?お母さん1人じゃとても無理でしょ。」
結子は自分が悩んでいる事を言ってしまっていた。
「私が1人で?実はうちで働きたいって人がいるのよね。」
「誰よ?募集もしてないのにそんな人来るわけないでしょ。」
「借金取り覚えてる?あの若い子は前に板前してなのよこの前、私の所に来てここで働かせて欲しいって行ってきたのよ。」
「それでなんて言ったの?」
「私の娘はお嫁に行くから丁度よかったって言ったよ。」
「なんでそんな勝手な事言ったのよ何よ。」
「正一さんの事キライなの?出来る時に結婚して欲しいの、私の事は大丈夫だから、結子幸せになって。」
母の言葉が祖母の言葉と重なった。以前にそう言われたのだ。
「もうなんなのよ勝手にちょっとティッシュ取って。」
結子は嬉しくてたまらなかった。
それから3日後、結子はその事を正一に話すとその夜に正一は2ヶ月前から用意していた結婚指輪を持って結子にプロポーズをした。
その週末、2人は正一の両親に結婚の報告をしに来ていた。
「結子ちゃんがうちに来てくれるのはすごくすごく嬉しいんだけど、亜希子ちゃんってもうすぐ40に近いでしょ?」
正一の母が言った。
「なにが言いたいんだよ!」
正一は前回の事が頭をよぎり少し興奮して言った。結子が立ち上がった正一の腕を持って座るように促した。
「うちは農家だから、後継ぎが必要、」
正一の父がそう言いかけた所にバーンと障子が開いた。そこには泰造が立っていた。
「夫婦して何を言いよるか!またワシがいない時にふざけた事を抜かしよってこのバカ者が!ゆみこに今日の事を聞いてよかったわ。跡取り?正二や正三の子供に後を継がせればいいやろうが!」
「それは・・・」
「お前達を古い考えで縛ってしもうたのは本当に申し訳ないと思っておる。だが人間はいくつからでも変わる事が出来るとワシはゆみこに教えてもろうた。だからお前達も自分達が苦労した分、若い子供達には苦労させんような考えを持って欲しいんや。正一の代で会社にしてもいいともちょるしそれでもまだ後継ぎ、後継ぎ言うんなら正二と正三の子供をすればいいとワシは本気で思うちょる。」
「お義父さんそれはあの子達の負担になりますから。」
正一の母親が言った。
「そんなら正一の苦労は考えんのか?これは今までようやってくれてる。」
「でも実際問題、後継ぎは必要なんですよお父さん。」
「まだ言うか!じゃから後継ぎはのう。」
もう我慢できないと正一が立ち上がり言葉を発しようとした瞬間に結子が話し出した。
「お爺様。」
「なんじゃ結子。」
「結子ちゃん。」
正一が心配そうに見つめた。
「お爺様、後継ぎの話は正二さんや正三さんのお子様に振るのは少し待って頂けませんか?お父様とお母様そして正一さんがここまで守りに抜いた家業は正一さんの子供に訪ねてからにしていただけないでしょうか?」
「結子ちゃんそれは?」
正一は話は上手くつかめていなかった。
「本当か?結子!」
泰造が身を乗り出して結子に聞いた。
「はい、順番が逆になってしまっていつ言おうか悩んでたんですが、今がそのタイミングではないかと思いまして。」
「出来したぞ!結子!」
「えっどういう意味なの?」
正一はまだ事態が飲み込めていない。
「このすっとこどっこいが結子は妊娠しとるんじゃ。」
「ほんと?本当に結子ちゃん?」
結子がコクリと頷くと正一は泣き出してしまうくらい嬉しさが込み上げて来た。
「ほらナミ見てごらん、今日はママがトラクターを運転してみるよ。上手くいくかな〜?」
結子は大きなトラクターを運転しながら、正一と正一が抱っこしたナミに手を振った。
今でも毎月ゆみこの家には段ボールいっぱいの新鮮な野菜が届く。
おばあちゃんありがとうの手紙と共に。