手作りの宝箱5
「箱?あぁ折り紙を貼り付けたりしたあの箱でしょ、覚えてるわ。」
結子と澄子と一緒に住み始めて間もない頃、お金に余裕がなったので近所からもらったお菓子の箱に折り紙をや広告を貼り付けて2人で作った箱である。
結子はその箱にすごく愛着があり歳を重ねるごとに自分の宝物を入れていた。
「結子ちゃんその箱はまだとってるかい?」
「ちゃんととってるわ、私の宝物入れに使ってたから、あっでも・・・」
「結子ちゃんそれを持って来て。」
「おばあちゃん、でもあの箱には・・・」
澄子と正一はゆみこをおばあちゃんと呼び結子の事を親しげにあっこちゃんと呼ぶ2人を不思議そうに見ていた。
確かにゆみこの雰囲気と目の色が違う事には気づいたいたがやはり澄子と正一にとって2人のやり取りは何か不思議だった。
結子がそのおばあちゃんとの思い出の箱を出し渋っているのは結婚を考えていた男性との思い出を少しばかりまだしまっていたからだった。
「そんなどうでもいい話は勘弁してくれんかの?こちとら遊びで来てんのとちゃうで。」
男はもう一本タバコに火を付けた。
茂則が渋い顔でその男見ていた。
「兄貴、タバコは体に悪いですからほどほどにした方が。」
「あん?お前は俺のカァチャンか?さっきから変な行動とりよってに、お前あのおばさんに惚れたか?じゃなけれマザコンか?黙っとけ。」
茂則にも体の弱かった母親がいた。
彼が母の為に初めて作ったのもお粥だった。あの時はまだなんの知識もなかった。しかし茂則の母親はなんの味もしないお粥を美味しい美味しいと言って微笑んだ。それがきっかけで茂則は板前を志した。母に美味しい料理を食べたせたくて、しかしそれは叶わなかった。
茂則はその母の面影を澄子と重ねてしまったのかもしれない。
「すいません。」
茂則はグッと感情を抑えて言葉だけ謝った。
「す、すいません。少し待って下さい。」
結子は男が怒り出しそうなのを気にして迷った挙句に慌てて箱を取り出した。
「そうそうこの箱、この箱、あっこちゃん開けて見て。」
「う、うんわかったわおばあちゃん。」
そう言いながら結子が蓋を開けた。
そこには結子の名前の通帳とハンコがあった。
「こ、これは?」
「ばあちゃんがね、結子ちゃんの小さい時から結婚資金を少しづつ少しづつ貯めてたんよ。あなたに言いそびれてたんだけど丁度よかったねぇ。」
その通帳には借金の額とビッタリのお金が入っていた。男達はそのお金を受け取ると借用書を置いてさっさと帰って行った。
「おばさん、体には気をつけてな。」
茂則がそう小さな声で言って寒気が入ってくるのでまたそっと窓を閉め去って行った。
結子は空になった通帳を抱きしめ声を上げて泣いた。ありがとうおばあちゃんと何度も何度も。
「さぁばあちゃんは行こうかね。結子ちゃんには幸せがもうここまで来てるからね。澄ちゃん、あなたは小さい頃から冷え性が酷かったね、毎冬しもやけになってまったし、生姜をいっぱい取りんさいよ。澄ちゃんの顔も見れて本当に嬉しい。」
「ちょっと待ってお、お母さん?ほ、本当に?」
「澄ちゃんあんたには苦労かけたねぇこれから幸せになりんさいよ。」
「ありがとうお母さん、ありがとう。」
ゆみこは2人に微笑み目を閉じた。
またゆみこが目を開けるともうゆみこの目の色は元に戻っていた。
結子と澄子は抱き合って泣いていた。正一はどうすればいいのかわからずアタフタとしていた。
「お母さん、うちにはたくさんの生姜がありますので今度めい一杯持って来ます。」
正一が考えた挙句のセリフがその言葉で2人は声を上げて笑った。
「正一、私も生姜が欲しい。」
ゆみこがボソッと言った一言にも笑いが起こった。
外は寒さが増して厳しい季節だが小さな部屋は暖かさが広がっていた。