手作りの宝箱4
「娘が帰って来たら連絡しろや、それまでよう見張っとけええか?」
「はい。」
「じゃぁおばさん、うちの若いの置いてくからまた後で。」
「・・・」
景気がいい時はニコニコ顔でやって来てお金を借りて下さいと頭を下げていた銀行もこの不況になると手の平を返しヤクザまがいの者を使い取り立てにやって来ていた。
「おばさん具合悪いんか?」
「・・・」
「こんな落ちぶれた人間とは口も聞きたくねぇか。」
「・・・何も出せなくてごめんなさいね。」
結子の母、澄子が言った。
「こ、こんな俺に気なんか使わなくていいから横になんなよ。」
「ごめなさい、そうさせてもらうわ。」
そう言って彼女は布団の上に横になった。
「おばさん食事はしたんか?」
澄子はただ首を横に振った。
その男はふらっと下の階にある調理場へと向かった。
結子達は生活が苦しくなり住んでいた所から店の2階に越して来たのである。
「なんもねぇな。」
澄子は少し眠りについていたがタッタッタッと階段を誰かが上がってくる足音で目を覚ました。
「おばさん起きてるか?ほらお粥しか出来なかった。」
その男、茂則がお粥を作って持って来たのだ。
「少しでも食べないと元気にならないぜ。」
「ありがとう、頂くわ。」
澄子はお粥を一口、口にした。
「あら、美味しい。」
「お世辞はいいよ。」
茂則は少し赤くなって嬉しそうに笑った。
「本当に美味しい。何も無かったでしょうに。」
「ははは、今は落ちぶれてるけど前はちょっとしたとこの板場で包丁握ってたんだ、将来は自分の店を持ちたいって思ってたんだがこの不景気には勝てなくてね。」
「そうだったんだね。」
「おばさんとこもよくわねぇな。まぁまずは体を治す事をしないとな。」
「そうねありがとう。」
澄子はお粥を全て食べ終えてまた横になった。
「お母さんただいま。」
結子が階段を駆け上がりながら声をかけた。その後から正一とゆみこが来ていた。
「いやぁ素敵なお店ですね。」
正一が言った。
「どの辺が素敵?」
ゆみこが正一に聞いた。
「いや、あのドアノブとか、かな。」
「ふ〜んドアノブ。」
「・・・」
「あなた誰なの?」
結子2階から叫ぶ声が聞こえた。
「結子さん大丈夫ですか。」
正一がバタバタと階段を掛け上がった。
「あんた娘さん?」
茂則が聞いた。
「そうですけどあなたは?」
「いやぁ私は手数料銀行の高杉支店から来ました。お金、借りてますよね?」
「借りてはいますけど、」
そこへ茂則の上司の男が上がって来た。
「あんたが娘さん?支払い期限がとうの昔に来てるんですわ、だからうちとしてはこのお店を担保に頂くことになってまして、あなたが帰って来るのをうちの若いのに待たせてたんですわ。」
「ちょ、ちょっと待って下さい。母が病気で今月分は遅れしまいましたけどこれからお店を開ける目安が出来たのでもう少し待って下さい。」
「そう言われてもなぁこの不景気で支払いが遅れたお客さんとは信頼関係が保たれへんのですわ、全てを返してもらう事になってるですわ。うちらは信頼してお客さんに貸してるよってね。」
「そんな、お願いします。どうか待って下さい。お願いします!」
「そう私に言われてもなぁ、上の方の決定なんですわ。」
そう言ってその男はタバコに火を付けた。その後ろで茂則は複雑な顔をしていた。
タバコの煙で澄子が咳込んだ、とっさに茂則は窓を開けた。その行動に男はジロッと茂則を見て茂則目掛けて煙を吐いた。
結子は澄子の背中をさすりながら何度何度もお願いをした。正一が自分が
お金を立て替えると言おうとした瞬間、ゆみこが正一の肩を掴んだ。
「なんだい?」
正一はそう言ったが何かいつもと違うゆみこの雰囲気に黙ってしまった。
「あっこちゃん落ち着いて、兄貴さんその借金はいかほどですか?」
男はフンっと笑った。
「お姉ちゃん変な言葉使いやけど、一銭も借金はまからんよ。おい。」
男はそう言って茂則に借用書を出させた。
男はゆみこに借用書を見せた。
うんうんとゆみこは頷いて亜希子の近くに寄った。
「結子ちゃん、ばあちゃんと箱を作ったの覚えてる?」